すでに「遠い歴史」に感じられる読者もおられるかもしれないが、過去に「日米自動車貿易摩擦」という問題があった。「日本から米国への自動車輸出が増えたため米国の対日貿易赤字が増加した」といって、日米間で政治問題化した一件だ。現在では、日本の大手自動車メーカーが米国に工場を構えて現地生産を行っているが、その背景にはこうした事情があった。

そこで出てくるキーワードが「バイ・アメリカン」だ。勘違いしている人もいるが、"by American" ではなく "buy American"、つまり「米国で作られた製品を買おう」という意味である。

防衛関連の調達は自国企業に限定すべし!?

この種の話は防衛産業界でも存在する。むしろ、国家の安全保障がかかっているだけに、自動車産業よりもはるかに政府や軍部は神経を尖らせていることが多い。

しかし現実問題としては、自国で必要とするすべての装備品を自国で賄える国は皆無といってよい。しかも、自国で開発・製造できることと、それをリーズナブルなスケジュールや価格で実現できることは別問題だ。生産する数量が少なければ、必然的に高価につくうえ、開発・試験に時間がかかってしまう。

したがって、装備品を調達する際は、これらの条件を検討する必要がある。そして、国産が不可能と判断した場合に条件に合う製品を他国から輸入することになる。

しかし、単に完成品を輸入してしまうと、自国の企業にはまったくおカネが落ちないうえ、納入後の保守・サポートやスペアパーツの供給まで、納入元の国や企業に振り回されてしまう。時には、外交関係の変化や政治情勢の変動が原因で輸入元の国と国交断絶してしまい、その国から輸入していた装備品が軒並み使えなくなってしまうこともある。革命後のイランで、革命前に輸入していた米国製兵器がスペアパーツ欠乏に見舞われたのは典型例だろう。

それでも装備調達の壁は乗り越えられる

こうした事情から、多くの国では「軍の装備調達は"自国企業に限定する"または"自国企業を関与させる"」といった制約を課している。表立って「国産品限定」と言えないために、国産品でなければ実現できないような要求仕様を意図的にぶつける可能性も考えられる。

この制約をクリアしつつ、他国に装備品の輸出を実現するための方法として、主に以下の3種類が用いられる。

  1. オリジナルのメーカーが、輸入元の国に現地法人を設立したり、輸入元の国の企業と合弁企業を設立したりして、そこを主契約社にする
  2. 輸入元の国の企業を主契約社にして、それに対してオリジナルのメーカーが製品を供給する。コンポーネントだけを供給して、最終組み立ては現地で行うこともある
  3. 輸入元の国の企業を主契約社にして、そこでライセンス生産を行う

「2.」と「3.」の違いは、「2.」はオリジナルのメーカーが何がしかの製品を輸出するのに対し、「3.」ではオリジナルのメーカーは図面と技術を売るだけで、生産そのものは相手国内で実施する点だ。

装備品を輸出している世界各国の例

ライセンス生産を行う場合、オリジナルのメーカーにライセンス・フィーを支払う必要があるため、その分価格は高くなる。しかし、いくらか高くついても、安定供給や産業基盤維持といった観点が優先されるわけだ。

もっとも、ライセンス生産といっても一部のコンポーネントを輸入していたり、逆にライセンス生産も輸出も認められないコンポーネントが出現したりする場合がある。そのため、「2.」と「3.」の境界は曖昧だ。例えば、航空自衛隊のF-15Jは日本でライセンス生産したが、電子戦装置は米国がライセンス生産も輸出も認めなかったために、日本の独自開発品を装備した。その関係で、日本のF-15と米国のF-15には外見に微妙な違いがある。

納入先の国に現地法人を設立した事例としては、米国陸軍がベルギーのFN(Fabrique Nationale)製5.56mm機関銃・MINIMIを、M249分隊自動火器(SAW : Squad Automatic Weapon)として導入した件がある。

前述したような事情により、米国がベルギーから直接、MINIMI機関銃を輸入することはできない。そこで、FNが米国に現地法人・FN Manufacturing LLCを設立、そこが主契約社となってM249を受注している。米軍の制式拳銃として、イタリアのベレッタ社が開発したモデル92を採用した時も同様で、ベレッタが現地法人・Beretta U.S.A.を設立して主契約社にしている。

ちなみに、MINIMI機関銃は陸上自衛隊でも使用しているが、こちらは住友重機械工業がライセンス生産しており、米国とは形態が異なる。

米国や日本をはじめ、多くの国で使われているMINIMI機関銃。もともとベルギー製だが、国によっては現地生産、あるいはライセンス生産を行っている。(Photo : US Marine Corps)

現地法人ではなく合弁企業を設立した事例としては、ユーロスパイク社がある。これはイスラエルのラファエル社が、スパイク対戦車ミサイルをヨーロッパ諸国に販売する目的で設置した合弁企業だ。ドイツのディールBGTディフェンス社とラインメタル社が40%ずつ、製造元のラファエル社が20%を出資する形でドイツ国内に設立した。フィンランドやドイツなどが、ユーロスパイク社からスパイク対戦車ミサイルを調達している。

余談だが、多国籍の共同開発プロジェクトを実施するために、関係各国の企業が出資する形で合弁企業を設立することもある。タイフーン戦闘機を担当しているユーロファイター社(Eurofighter GmbH)や、そのタイフーンに搭載するエンジンを手掛けているユーロジェット社(Eurojet Turbo GmbH)が該当する。

変わったところでは、相手国の企業を買収して傘下に収めることで、「地元企業の受注」という形式を整えた事例もある。この例は、防衛産業界で1990年代に入ってから急速に増加したM&Aの話とも関わってくるため、また改めて取り上げることにしたい。