前回は、日本におけるイメージが対照的(?)な割には防衛分野になると似たところが目につく、イスラエルとスウェーデンの業界事情についてまとめてみた。今回はその続きで、両国の防衛産業における決定的な違いを取り上げよう。

国によって異なる海外資本に対するスタンス

防衛産業に限らず、自国向けの需要だけで商売が立ち行かなくなった企業が外資の軍門に下り、業務提携あるいは資本提携、さらには完全に外資のグループに組み込まれるといった話はいくつもある。それを許容するかどうかは、当該企業の重要性や位置付け、国家戦略との兼ね合いなどにより違ってくる。

オーストラリアでは、防衛関連の地場メーカーが軒並み、欧米大手に買収されて傘下に入ってしまい、元の社名すら消えてなくなった。今ではボーイング社、BAEシステムズ社、レイセオン社などの現地法人扱いだ。また、スペインで装甲戦闘車両や火砲を手掛けているサンタ・バーバラ社、オーストリアで装甲戦闘車両を手掛けているステアー社はいずれも、アメリカのゼネラル・ダイナミクス社の傘下に入っている。

スウェーデンもこうした動きと無縁ではなく、機関砲や火砲でおなじみのボフォース社、それと装甲戦闘車両を手掛けているヘグランド社はいずれも、BAEシステムズ社の傘下に収まっている。航空機のサーブ社(自動車のサーブ・オートモーティブとは別会社)、電子機器のエリクソン社は外資の軍門に下る事態にはなっていないが、防衛分野以外にも事業の柱を持っていることが功を奏しているのかもしれない。

一方のイスラエルは事情が異なり、自国内で業界再編を図ってはいるものの、外資の軍門に下ったメーカーはないと言ってよい。自国の生存のために自国で防衛産業を育成しているのに、それが外資の軍門に下ってしまったのでは意味がなくなるので、当然と言えば当然の話ではある。

しかし、パッと思いつくだけでも、イスラエルには以下のように複数のメーカーが存在しているのだから侮れない。もちろん、自国向けだけでなく輸出も合わせることで事業を維持しているケースが大半だが。一覧では各社が得意とする製品分野を併記したが、これでイスラエルの得意分野に関する傾向が窺い知れるだろう。

  • IAI(Israel Aerospace Industries Ltd.) : UAVを含む航空機、電子機器
  • IMI(Israel Military Industries Ltd.) : 装甲戦闘車両
  • エルビット・システムズ : 電子機器、UAV
  • ラファエル・アドバンスト・ディフェンス・システムズ : ミサイル、電子機器
  • エリスラ : 電子機器
  • タディラン・コミュニケーションズ : 通信機器
  • エアロノーティクス・ディフェンス・システムズ : UAV
  • ソルタム・システムズ : 火砲
  • プラサン・ササ : 各種装甲関連製品

もっともイスラエルという国、輸出に際してはスウェーデンと比べるとやや節操に欠けるところがある。また、具体的な国名を出さずに「某国から受注した」なんてプレスリリースが多発するのもイスラエルの特徴ではあるが、これはカスタマーが望んでいる場合もあるので、一概にイスラエル企業が悪いとは言い切れない。

外国資本を受け入れるかどうかの分かれ道

それはそれとして、問題は外資に対する向き合い方である。

スウェーデンのような「部分的に外資が参入」、オーストラリアのような「主なところはほとんど外資の軍門に」、イスラエルのような「地場資本維持」の3通りに大別できるだろう。ただし外資を受け入れたとしても、安全保障上の見地から発言力を制限したり、自国政府が黄金株保有などの手段で発言力を確保したりといった手を打っているのが普通だ。そもそも防衛産業界では、政府が承認しなければ外資による買収は実現できない。

第65回で言及したSTXフランスは韓国企業の系列ではあるが、フランス政府も株式の33.34%を保有しており、ちゃんと発言力を確保している。インドのように、外資の進出に際しては国内企業とジョイント・ベンチャーを作らせて、しかも外資の出資比率を26%に制限する、なんていうアプローチをとっている国もある。

もちろん、仮想敵国の企業に資本を牛耳らせるのは論外だが、どこの国でも外資を完全排除というわけでもない。それぞれの国が置かれている安全保証環境あるいは経済環境により、同じ防衛産業であっても国によって外資への向き合い方が異なる点は気に留めておきたい。

そして、外国からの資本や技術を入れたり、外国企業と協力する形で輸出に打って出たりといった具合に、さまざまな生存戦略が見られる。次回は、そんな生存戦略の例について触れてみよう。