"今は味方も場所を違えれば敵"が当たり前

どの産業でも、1つの企業が1つの商品を構成する全コンポーネントを手掛けていることはなく、コンポーネントごとに専門企業が副契約社として下請けに入るのが常だ。自動車産業なら、エアコン・オーディオ・座席・電子制御関連などの下請け企業がある。

これはウェポン・システムの開発も同じだ。例えば飛行機は、エンジンや電子機器は専門メーカーが手掛けており、艦船も同様だ。この場合、全体を取りまとめて最終的に納入する責任を負う「主契約社」と、その下で専門性が高いコンポーネント、または業務を受け持つ「副契約社」が合同チームを編成して受注を行う。

実のところ、総合商店化している大手の防衛産業各社でもそれぞれ得手・不得手があり、手掛けていない分野もある。さらに、昨今のウェポン・システムは高度化・複雑化しているから、1つのメーカーでは手に負えない場合もある。

ステルス戦闘機、F-22Aラプターの場合、主契約社はロッキード・マーティン社だから、一般には同社の製品として認識されている。しかし、エンジンはプラット&ホイットニー社、電子戦装置はBAEシステムズ社、搭載するミサイルはレイセオン社、そのミサイルを撃ち出すための発射器はEDO社、レーダーはノースロップ・グラマン社といった具合に、各分野を専門とする企業が副契約社として参画している。

また、ボーイング社が主契約社になって開発している弾道ミサイル迎撃兵器・ABL(Airborne Laser)は、主契約社がボーイング社で、同社のB.747貨物機を改設計した機体にミサイル要撃用のレーザー砲を搭載している。ところが、そのレーザー砲はノースロップ・グラマン社、レーザー砲の照準に使用する小型レーザーはロッキード・マーティン社とレイセオン社と、正にオールスターとも言える状態になっている。

しかし、所変われば立場は変わる。ボーイング社とノースロップ・グラマン社は米空軍の次世代空中給油機計画では競合関係にあり、議会まで巻き込んで派手な舌戦を展開している。一方では協力している2社が、他方では大バトル中という構図だ。かと思えば、ノースロップ・グラマン社のステルス爆撃機・B-2Aスピリットでは、ボーイング社が機体の一部を製造していた。

ボーイング社が主契約社として開発を進めてきた、ABL。機体はボーイング製だが、機首に装備した巨大なレーザー砲は、空中給油機では競合関係にあるノースロップ・グラマン社が副契約社として担当しているからややこしい(Photo : Missile Defense Agency)

逆にノースロップ・グラマン社のB-2Aスピリット爆撃機では、ボーイング社が副契約社として機体の一部を製造していた(Photo : USAF)

個別の事例を挙げ始めるとキリがないが、同じことは他のメーカーにも言える。ある軍事評論家が、こうした状況を評して「上になったり下になったり、くんずほぐれつ」と形容していたが、さもありなん。

国策として故意に複数企業に仕事を分散

さらに、国策として産業基盤を維持する観点から、意図的に複数の企業に仕事を振り分ける場合もある。英国はインヴィンシブル級に代わる新型空母・クイーン・エリザベス級×2隻の建造を始めているが、これは船体ブロックを複数の造船所にバラバラに発注して、最後にまとめて完成品を組み上げる形をとっている。新規の艦艇建造計画が少なくなっている昨今、こうでもしないと造船所の仕事を維持できないからだ。他国にも似たような事例がある。

しかも、この件ではBAEシステムズ社とタレス社が受注を競っていて、内容だけ見るとタレス社が優位だった。しかし、タレスはフランスが地盤の会社で、そこに英国海軍の看板装備を発注するのは政治的に具合がよくない。

そこで、国防省・BAEシステムズ・タレスなどの関連企業をまとめてACA (Aircraft Carrier Alliance)なる団体を編成、これが建造計画を進めることになった。そして、建造作業はBAEシステムズ社をはじめとする英国企業が主体となる。まるで、昨日まで競合していたメーカー同士をひとまとめにして三軒長屋入りさせたような格好だ。

日本だって他人のことは言えない。航空自衛隊のF-15イーグルは三菱重工業が主契約社になって製造していたが、主翼の製造は川崎重工業の岐阜工場が行っていた。筆者は工場に作りかけのF-15Jの主翼が置かれているのを目撃したことがある。

業界再編で立場が一変することも

さらに、M&Aによる業界再編により、それまでの関係や立場がひっくり返ってしまうことがある。さすがに主契約社と副契約社の関係は変わらないが、同じチームのはずだった企業が競合に変わったり、逆も然りだ。

例えば、ダッソー・アビアシオン社がタレス社の株を取得して傘下に収めた話。ダッソーはビジネスジェット機のファルコン・シリーズや戦闘機のミラージュなどで知られている。プラットフォーム主体の企業がシステム屋の大株主になるという、どちらかというと珍しい例だが、これだけならフランス国内の業界再編で済む話だ。ところがこの再編のせいで、とんだ迷惑を蒙ったのがスウェーデンのサーブ社だ。

サーブは戦闘機と自動車で有名だが、戦闘機の主力製品はJAS39グリペンだ。さらに性能向上版のグリペンNGを開発しており、ブラジルなどに売り込みをかけている。そして、グリペンNGで使用するレーダーはタレス社の製品を使用するつもりだった。タレス社はトムソンCSFの時代から戦闘機用のレーダーを手掛けていて、この分野では経験豊富だ。

ところが、ダッソー・アビアシオン社がタレス社の株主になったから困った。ダッソーから見ると、傘下の企業が自社のラファールと競合するグリペンNGの開発に協力している図式になるからだ。そこで、タレス社がグリペンNGのレーダーを担当する話は潰れ、サーブ社が代わりにイタリアのセレックス・ガリレオ社に協力を仰ぐ羽目になった。自社と無関係な再編の火の粉を浴びた格好だ。