データの問題点をリアルタイムで検出・診断する

次世代のデータ監視を説明する際、「オブザーバビリティ(Observability)」という言葉が使われます。これは「Observe:観察する」と「Ability:能力」を組み合わせた造語で、日本語では「可観測性」や「観察する能力」と訳されます。

オブザーバビリティは、組織がさまざまな自社のITシステムの動作を測定・監視・理解することを可能にします。システムの複雑化と分散化がいっそう進む中で、近年ますます重要視されるようになりました。

オブザーバビリティという言葉を使い始めるようになったのは、今からわずか2~3年前のことで、ITシステムの複雑さに対応するには監視(モニタリング)以上のものが必要だという考えからでした。

現在の組織が直面している課題は、監視するだけでは十分に対応できません。監視だけでは、ある要素が以前よりも高速または低速になっている理由や、突然まったく機能しなくなった理由を把握することができないからです。

一方でオブザーバビリティは、問題が何かということだけでなく、なぜその問題が起きているのか、そしてどうすれば改善できるのかをリアルタイムで教えてくれます。オブザーバビリティによって、迅速かつ効果的に問題を検出し、根本原因を診断できるようになるのです。

クラウド利用料金の把握にも貢献

米国のソフトウェア企業であるFlexeraのレポートでは、リソース活用に関わるパブリッククラウドの費用の30%は無駄になっているとのことです。最適化を実施すれば、時間を節約しながらリソースを効率的に利用できるようになり、財務ガバナンスで重要な経費削減につなげることが可能になります。

高額なクラウド料金の請求に思わず目を見張るという事態を避ける、最も効果的な解決策は、誰が何をいつ使用しているのかをしっかり把握しておくことです。プリペイド式の携帯電話のプランのように、ユースケースそれぞれに対して一定量のリソースを割り当てておけば、予算オーバーを防ぐことにつながります。

あるユースケースが月ごとの割り当て予算を使い切ってしまった場合、そのユースケースはプリペイド携帯と同じように、その機能を停止することも可能になります。オブザーバビリティによって、ITシステムの状況を把握しておくことは、30%の無駄もしくはそれ以上の無駄を削減することにつなげられます。

オブザーバビリティは、システムのさまざまなコンポーネントがどのように相互作用しているのかを理解する上で、極めて重要な存在になりました。従来、システムの監視とは、ログや単純なメトリクスを収集することでした。しかしこうしたアプローチでは、大規模に動作する複雑なシステムに対応するには不十分だったのです。

現代のシステムには多種多様な多くのコンポーネントが含まれており、各コンポーネントが膨大なデータを生成しています。例えば、一般的なマイクロサービスベースのアーキテクチャは、数十種類から数百種類もの異なるサービスから成ることもあり、かつそれらのサービスはそれぞれが独自のログとメトリクスを生成しています。

オブザーバビリティの適用範囲は無制限

オブザーバビリティには、さまざまなソースからデータを収集し、そのデータを利用してシステム全体の動作状況を包括的に把握することが含まれます。ここでいうデータには、ログ、メトリクス、トレース、その他のシグナルなどがあり、これらのデータが各種コンポーネントがどのように相互作用しているのかを明らかにするのに役立ちます。

オブザーバビリティの利点の一つとして、システム管理者や開発者がリアルタイムで問題を検出・診断できるようになることが挙げられますが、これはシステムのパフォーマンスや信頼性を維持するために欠かせないことです。複雑なシステムにおいては、異なるコンポーネント間のやり取りの中に問題が潜んでいることがあります。オブザーバビリティは、そのような問題を見つけ出し、その根本原因を速やかに診断するための方法を提供します。

オブザーバビリティでは、システムの環境全体から異なる課題を探し出せるようになります。そして、一旦エンジンを用意したら、構築・実装できる数に制限はありません。オブザーバビリティの将来的な適用範囲は実質的に無制限であり、私たちの想像のレベルを超えてスケールさせることが可能なのです。

著者プロフィール

大澤 毅(おおさわ たけし) Cloudera株式会社 社長執行役員


IT業界を中心に大手独立系メーカー、大手SIer、外資系 IT企業のマネジメントや数々の新規事業の立ち上げに携わり、20年以上の豊富な経験と実績を持つ。Cloudera入社以前は、SAPジャパン株式会社 SAP Fieldglass事業本部長として、製品のローカル化、事業開発、マーケティング、営業、パートナー戦略、コンサルティング、サポートなど数多くのマネジメントを担当。2020年10月にCloudera株式会社の社長執行役員に就任。