現代のビジネス環境は目まぐるしく変化しており、それに向き合う企業は常に迅速かつ正確な意思決定をしなければならない。このような状況下で、データドリブン思考は非常に重要な役割を果たす。データを活用し、信頼性の高い情報に基づいて戦略を練ることが、競争優位を確立するための鍵となるためだ。

データドリブン思考は、単にデータの分析や報告をするための考え方ではなく、企業全体の経営戦略やマーケティング、業務の運用プロセスにおいても有効である。例えば、AI技術を駆使して顧客の購買行動を予測し、その結果を基に商品ラインナップや価格設定を最適化するといったことが考えられる。データドリブン思考をマーケティングに生かすことで、精度の高い市場戦略を立てることができ、売上向上につながるのだ。

このデータドリブン思考は、企業文化の一部として根付かせることが重要だ。全社員がデータの重要性を理解し、日常業務においてデータを活用する習慣を身に付けることで、組織全体が効率的かつ効果的に機能するようになる。

すでに取り組みを進めている企業も多い。全日本空輸(以下、ANA)や日本テレビ放送網(以下、日本テレビ)は、データドリブン思考に基づいた意思決定プロセスの確立を目指した取り組みを実践しているという。

総じて、企業が持続的に成長を続けるためには、データドリブン思考をビジネス戦略の中核に据えることが不可欠だと言えるだろう。

データドリブン思考とは

データドリブン思考とは、ビジネスや組織における意思決定の過程において、直感や経験値よりも統計や数値データを基盤とすることを指す。これにより、主観や感情による偏りを排し、客観的かつ信頼性の高い決定を行うことが可能となる。具体的には、市場分析や顧客の行動データ、財務データなどを活用し、精緻な分析を通じて経営戦略などを策定するイメージだ。

データドリブン思考に基づくアプローチの基本

データドリブン思考をベースにしたアプローチでは、データの収集、分析、活用を通じて、ビジネスの現状把握や未来予測を行うことができ、感覚や経験に頼るのではない、客観的なデータに基づいた意思決定が可能となる。

このようなアプローチを実践するためにまず重要なのは、信頼性の高いデータの収集だ。例えば、顧客の購買履歴や市場動向のデータなど、ビジネスに関連する多種多様かつ正確なデータが必要となる。さらに、これらのデータは、適切なツールや技術を使用して効率的に収集・整理することが求められる。

次に、収集したデータの分析を行う。データ分析においては、統計解析や機械学習などの高度な技術が活用されることが多い。精緻な分析により、データから有益なインサイトが得られ、ビジネス戦略の策定に活かすことができる。具体的な分析手法としては、回帰分析やクラスター分析などが挙げられる。

最後に、得られたインサイトを基にしたアクションプランの策定と実行を行う。データドリブン思考に基づくアプローチを推進する企業は、明確な目標設定に即した効果測定を行い、継続的に改善を図ることで競争優位を築いていく。マーケティングキャンペーンの効果検証や、顧客満足度の向上施策などはその一例だ。

データドリブン思考に基づく意思決定プロセス

データドリブン思考に基づく意思決定プロセスは、企業がより精度の高い判断を行うために不可欠なものとなっている。もちろん、質の高いデータを十分な量収集することが大前提だが、明確なインサイトを導き出すには、それらのデータをいかに分析するかが大きなカギとなる。その結果があって初めて、企業は戦略的な意思決定を行うことができるからだ。以下では、意思決定プロセスの中核を担うと言っても過言ではないデータ分析について掘り下げたい。

意思決定を支えるデータ分析

データ分析は、データドリブン思考の要であり、最終的な意思決定を支える重要なプロセスだ。データ分析によって、経営陣は客観的な情報を基に状況を判断し、有利な戦略を立てることが可能となる。

例えば、販売データや顧客の行動パターン分析などを行うことで、新しい市場の可能性や消費者のニーズを把握できる。さらに、AI技術を活用すれば、より高度な予測分析を行ったり、データの関連性を見出したりといったことも可能となるだろう。

また、データ分析はリスク管理やコスト削減にも役立つ。仮に、企業内で使用するシステムにおいて集積されているデータに異常検知アルゴリズムを用いれば、何か問題が発生した際にも早期発見が可能となり、不正な活動の防止や効率的な運用が実現できる。データドリブン思考に基づく意思決定は、さまざまなシチュエーションで企業全体のパフォーマンスを向上させ、競争優位性を獲得する重要な要素となるのだ。

データ分析の手法例

では、意思決定を支えるデータ分析の具体的な手法にはどのようなものがあるのだろうか。以下に、その主なものについて解説する。

まず、データ分析の基本となるのが「記述分析」だ。これは過去のデータを集計・整理し、何が起こったかを明確にするものである。例えば、売上データを用いてどの商品がどの期間に最も売れたのかを分析することが挙げられる。これにより、現状を正確に把握し、次のステップに進むための基盤を築くことができる。

次に、「診断分析」がある。これはデータを深く掘り下げ、なぜ特定の事象が起こったのかを探求するものだ。例えば、特定の商品の売れ行きが良かった理由を消費者の属性や購買履歴と結び付けて分析するケースなどが考えられる。この分析によって得られた原因を理解することで、企業は課題の本質に対応するための戦略を練ることが可能である。

診断分析が過去起きた事象の原因を分析するのに対し、「予測分析」は未来の動向を予測するための手法だ。過去のデータを基に統計モデルや機械学習アルゴリズムを用いて、将来の売上や市場動向を予測する。この予測は、ビジネスの戦略立案や資源配分に役立ち、競争優位に立つための重要な判断材料となる。

最後に、「処方的分析」は具体的なアクションプランを提示するための手法である。この分析は、いくつかの選択肢をシミュレーションし、それぞれの結果を比較することで最適な行動を提案するものだ。例えば、新商品の投入時期や広告キャンペーンの効果について複数パターンをシミュレーションし、最も効果的な戦略を選定するといったことが考えられる。

データドリブン思考を実践するためには、これらの分析手法の特徴を正しく理解し、適切に活用することが肝要となる。やみくもに分析に着手するのではなく、まずはその目的を明確にするところから始めたい。

データ分析における、ビッグデータの活用とは

ビッグデータとは、大量かつ多様なデータセットを指す。ビッグデータの活用により、企業はこれまで不可能だった規模のデータを分析し、新たなインサイトを得られるようになる。

マーケティングの例で言えば、消費者の購買パターンや行動を詳細に解析することで、ターゲット広告の精度を上げることが可能になる。さらに顧客の購買履歴やウェブサイトの閲覧データを分析することにより、個々の顧客に最適な商品を提案することができるだろう。また、製造業ではセンサーデータをリアルタイムで解析し、機器の故障予測やメンテナンス計画を効率化するといったことが考えられる。これにより、ダウンタイムを最小限に抑え、生産性を向上させることができる。

以上のように、ビッグデータの活用は業種を問わず、効率的かつ効果的な意思決定を支援する強力な手段である。

データドリブンな思考をするための、企業文化を育てる

前述したように、データドリブンな思考を企業内に根付かせ、文化を育てることも重要だ。そのためにはまず、企業内でデータ活用の重要性を認識し、全社員がデータに基づいた意思決定を行える環境を整える必要がある。これには、適切な教育プログラムの導入や、データリテラシーの向上のための取り組みが考えられる。さらに、成功事例を共有し、データ活用の効果を実感させることも有効だろう。

教育プログラムの導入によるデータリテラシーの向上

ビジネスにおいて真にデータドリブン思考を実現するためには、企業全体でデータを効果的に活用するためのスキルの向上が必要となる。具体的には、データ分析の基本や統計学の基礎を学ぶカリキュラムの提供などが考えられる。定期的なワークショップやセミナーを通じて、最新のデータ分析ツールの使用方法やトレンドを共有することも効果的だ。実務に即した演習やケーススタディを取り入れることで、即戦力としてのスキルも養成できるだろう。

こうした取り組みは、業務に直結するスキル向上を促進するだけでなく、従業員の意識も改革され、物事をデータドリブンで考える文化の形成につながるのである。

データドリブン思考を支えるツール

データドリブン思考を実践していく上で、適切なツールの導入は欠かせない。これらのツールは、データの収集、分析、可視化、意思決定の全てのプロセスを支援する役割を果たす。そうしたツールの例として、データマネジメントプラットフォーム(DMP)やマーケティングオートメーション(MA)、ウェブ解析ツール、セールスフォースオートメーション(SFA)などがある。これらは、ビジネス戦略の立案や運用において、非常に重要な役割を果たすだろう。

データマネジメントプラットフォーム(DMP)

DMPは、企業が顧客情報、行動データ、ウェブサイト解析データなど多種多様なデータを統合・管理し、一元的に把握することを可能にするツールである。このプラットフォームを活用し、顧客行動データや外部データを用いてターゲティング広告やパーソナライズされたコンテンツを配信するといった使い方が考えられる。

また、DMPはデータの可視化と分析を支援するツールとしても優れている。セグメンテーション機能やカスタマイズレポート作成機能を備えているものもあり、マーケティング担当者がリアルタイムでデータを分析し、効果的なマーケティング戦略を立案するのに役立っている。さらに、DMPはAIや機械学習と連携することで、その予測分析力を高めることも可能である。これにより、より精度の高い顧客予測や需要予測が実現できる。

マーケティングオートメーション(MA)

MAは、企業が顧客との関係構築を強化し、マーケティング活動を効率化するためのツールである。これにより、ターゲットユーザーへの適切なタイミングでのメッセージ配信やコンテンツ提供が可能となり、リードの育成やコンバージョンを促進できる。

例えば、MAを用いることで、顧客の行動データを基にパーソナライズされたメールの配信や、キャンペーンの自動化が可能だ。これにより、どのメッセージが顧客に響いたのか、どのタイミングでのアプローチが効果的だったのかが詳細に分析できるため、次のアクションプランをよりデータドリブンなかたちで策定できる。このような取り組みが積み重なることで、企業の競争優位性の確保・向上に結び付く。

Web解析ツール

Web解析ツールは、オンライン上の顧客行動をデータとして収集し、そのデータを基に意思決定を行うために不可欠なツールである。これらのツールは多岐にわたり、Google Analyticsなどが代表例である。

例えば、Google Analyticsを使用すると、ユーザーがどのページからサイトに訪れ、どのページで離脱するのかを詳細に追跡できる。この情報はサイトの改善点を見つけ出し、ユーザーエクスペリエンスを向上させるための重要な指標となる。また、データドリブン思考を取り入れることで、広告キャンペーンの効果を正確に測定し、マーケティング戦略の最適化を図ることが可能である。

さらに、Web解析ツールはリアルタイムでデータを提供するため、迅速な意思決定を支援する。例えば、特定のキャンペーンの効果が低いと判断された場合、即座に戦略を見直し、修正を加えることで、ビジネス成果を最大化することが可能だ。

セールスフォースオートメーション(SFA)

SFAは、営業プロセスを自動化し、効率化するツールである。SFAの主な目的は、営業担当者がより多くの時間をセールス活動に費やせるようにすることである。これにより、成約率の向上や顧客満足度の向上が期待できる。

SFAはリードの管理、営業活動の追跡、見積書の作成、契約の管理など、多岐にわたる機能を提供する。例えば、顧客情報や過去のやり取りを一元管理することで、営業担当者はより適切で迅速な対応が何なのか、素早く判断することができる。また、営業チーム全体のパフォーマンスを可視化する機能を備えているものもあり、データドリブンな経営判断に役立つ。

データドリブン思考を取り込んだ経営の具体的な取り組み

データドリブン思考を組み込んだデータドリブン経営を実現するためには、企業内部のデータ活用基盤を整備することが重要である。そのためにはまず、データの収集方法を確立すべきだろう。また、データ分析のスキルを持つ人材をそろえることが必要だ。外部からの採用、もしくは社内研修や外部の教育プログラムを通じて、データ分析に強いチームをつくり上げることが推奨される。最終的には、実際のビジネスプロセスにデータ分析の成果を組み込み、PDCAサイクルを回すことで、経営戦略の精度を高めることが可能となる。

以下の2社では、データドリブン思考を基にした経営の実現に向け、さまざまな取り組みを進めている。

事例1:ANAにおけるデータドリブン経営の実践

ANAは、独自の経済圏確立を目指したビジネスモデル変革を加速させている。なかでも、グループ横断でのデータ活用に力を入れており、グループ共通でのデータ基盤「BlueLake」を構築。並行して、データ活用人材の育成も進め、DX専門部署だけでなく、ビジネス部門自らがデータを扱える組織を目指しているという。

具体的な施策の一つとして、航空機運航における燃料消費量およびCO2排出量の抑制プロジェクト「Efficient Flight Program(EFP)」がある。これは、燃料コスト削減による収益性向上のみならず、CO2排出量の抑制によるESG経営の実践という側面も持っている。従来は航空機に関するデータが複数のシステムに分散しており、データの抽出から分析まで時間を要していたが、BlueLakeの導入により、一気に効率化が進んだ。

このように、ANAはデータドリブン思考を徹底して実践し、企業全体でデータ活用を推進していることがわかる。ビジネス部門も積極的にデータを活用し、自立したデータドリブン経営を目指しているのだ。

【こちらもチェック】ANAに見る「データドリブン経営」の実践 - データ基盤の構築からCO2排出量削減まで

事例2:日本テレビが目指す、データドリブン経営の芽生え

日本テレビも、社内の誰もがデータ分析を行える環境を整備した企業の1つである。それまでは未着手だったインターネットコンテンツを分析するための仕組みを構築し、データを可視化したのだ。例えば、コンテンツ収支の集計の自動化はその取り組みの一つだ。これまでExcelを使い、コツコツと計算していたものを自動化したことで、過去のデータを効率よく分析できるようになった。

さらに収支を集計したダッシュボードを経営層にも展開したことで、データドリブンな意思決定の在り方がトップに伝わり、経営層がデータに基づいて意思決定すべきだという意識が芽生えてきたそうだ。

【こちらもチェック】データドリブン経営の芽生えまでこぎ着けた日本テレビのデータ活用とは

こうした取り組みは、さまざまな分野の企業で始まっている。これからデータドリブン経営を目指す企業の参考になるはずだ。

データドリブン思考の重要性と実践

本稿では、データドリブン思考の概要や重要性、実践に向けたアプローチなどについてお伝えした。繰り返しになるが、市場の変化が激しい今、意思決定の質を向上させ、業務効率を最大化するために、データに基づいた分析と洞察は必須だ。つまり、データドリブン思考は、現代のビジネスにおいてもはや不可欠なのである。

データドリブンな企業文化を構築することで、社員全員がデータの重要性を認識し、データに基づく判断と行動が促進される。本稿を参考に、ぜひ自社のデータドリブン思考を取り入れる取り組みを進めてもらいたい。

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