「データマネジメントはデータを資産として管理する活動そのものを指している」と語るのは、IT企業、金融企業、エンタメ企業と多業界でデータマネジメントを推進してきた吉村武氏だ。

データの利活用やDXの重要性が高まるなか、その軸となるデータをどのように管理すべきなのか。

本稿では、同氏にデータマネジメントの概要や導入方法、生成AIとの関係性などについてお話を伺った。

  • IT企業、金融企業、エンタメ企業と多業界でデータマネジメントを推進する吉村武氏

データマネジメントとは – データをお金と同じ感覚で

吉村氏はまず「データマネジメントと言うと、データを管理するためのデータ基盤を整備することにフォーカスしがち」だと指摘したうえで、広義のデータマネジメントは「データを資産として管理する活動そのもの」だと強調した。そこにはデータの利活用を推進するための仕組みづくりやデータガバナンスといった取り組みも含まれている。

では、データを資産として管理するとはどういうことか。同氏は企業におけるお金の管理を例に挙げた。多くの企業では年間の予算や実績などを1円単位で厳密に管理している。一方、データはどこの部署がどれだけ持っているのか分からなかったり、利用するための計画が立てられていなかったりするのが現実だろう。本来であれば、データもお金と同じように捉え、厳密に管理していくべきものなのだ。

管理するデータをどう決めるのか

だが、一言でデータと言っても、さまざまな種類があり、量も膨大だ。全てのデータを資産と考え、管理しようというのは現実的ではない。そこで重要なのが、「何を資産とみなすのか」だと同氏は話す。

それにはまず、重要なデータを絞り込み、管理対象を定める必要がある。例えば、顧客データや財務データなど事業の根幹にかかわるようなデータと、日常的にやり取りされるメールや会議資料といったデータであれば、誰もが肌感覚でどちらが重要かの判断がつくだろう。同氏曰く、このようにして絞り込みをしていくプロセスでは「事業に精通している事業部側のメンバーと、データを物理的に管理するシステム側のメンバーが話し合いながら、データの重要度を決めていくとよい」という。

「どう事業を成長させるか、そのためにどのデータをどう使うかを考えたうえで、データマネジメントに着手すべきです。企業がお金を使う際には、このくらいの金額でこれくらいのことができるという感覚を持っています。データに関しても、そのような感覚を持っていただきたいのです」(吉村氏)

初めてのデータマネジメントでは何を?

では具体的に、どのようにデータマネジメントを活用すれば良いのか。吉村氏はデータマネジメントの効果を得やすい取り組みとして、コスト削減と売上向上の2つを挙げた。

コスト削減のための集計自動化

「どの企業でも着手しやすく、すぐに効果が出る取り組みはコスト削減」だと同氏は言う。例えば、各部署が手作業で行っている集計作業を自動化すれば、明確なコスト削減につながる。

「データを活用すると言うほどではありませんが、集計の自動化をデータマネジメントの1つ目の施策としてやることをおすすめします」(吉村氏)

集計の自動化にはもう1つのメリットもある。それが、自動化に伴い、さまざまなフォーマットのデータを整理・統合できる点だ。このプロセスを経ることで、売上向上に向けたデータ基盤もつくることができる。

売上向上のための可視化

一方、売上向上はややハードルが高い。まず十分にデータが揃っていないと着手しづらく、精度の高い需要予測モデルを作成することも容易ではない。時間的コスト、金銭的コストがかかるため、ある程度、データマネジメントに対する理解が社内に浸透してから着手することを吉村氏は推奨する。そして、いざ始める際には、ファーストステップとして「簡単な可視化をするのが良い」と言う。可視化として、具体的に行うべきはダッシュボードの作成だ。

「自分たちのKPIなどを早く簡単に見えるようにするのが、失敗しない“売上を伸ばす方法”の1つであり、多くの事業部の人が求めていることです。可視化だけでは売上にそれほど大きな効果はありませんが、まず試してみるのには良いと思います」(吉村氏)

データの利活用が失敗する原因とは

データの利活用を進める際は「ビジネスインパクトの大きいところにどんどんとチャレンジしていくと良い」と吉村氏は話す。例えば、オンライン広告を出稿する企業であれば、CTR(クリック率)を上げれば、効果が大きくなる。金融業であれば、与信の判定などが該当するだろう。

逆に失敗しやすい事例として同氏が示したのはメールマーケティングだ。「予測しやすく、効果も出るが、ビジネス的なインパクトは大きくないケースが往々にして発生する」と指摘する。例えば、本格的なデータ分析のために200万円を投じて、メール経由の売上が向上したとしても、それが5万円程度であれば費用対効果が見合わないことは一目瞭然だ。

「データの利活用を考える際、重要なのはテーマ選びです。多くの企業では、ビジネスインパクトの大きさではなく、やりやすいものから取り組みがちです。その結果、費用対効果が見合わないという事態に陥るのです」(吉村氏)

社内の風土醸成こそデータマネジメントの役割

ではなぜこのような問題が起こるのか。吉村氏はその原因を、データ分析をするチームと事業部門が離れていることにあると指摘する。

事業部門側はビジネスドメインへの理解は深いが、「データを使ってできること」の具体的なイメージを持ちづらい。データ分析をするチームは、データの利活用についての見識はあるが、ビジネスドメインに関する理解が不足している場合がある。前述のメールマーケティングは、ビジネスドメインについてあまり詳しくなくても着手できるため、データ利活用の初手として選ばれやすいというわけだ。

同氏は改めて、「集計の自動化と可視化から始めると良い」と強調する。もちろん、これらを実施するためには、データの収集が不可欠だ。収集のプロセスを通じて、データ分析をするチームはビジネスドメインをより深く知ることができるし、事業部門はデータ利活用に関する知識を蓄えることができる。小さなところから少しずつ成果を生み出していくことで、データ活用に対する理解を深め、重視する社内風土をつくっていくことがデータマネジメントなのだ。

「いきなりデータの箱をつくって、きれいに整備しても何も生まれません。『データを使ったら成果が出るよね』という風土をつくることこそがデータマネジメントなのです。そうした活動をしながら、データ基盤の整備やクレンジングといった狭義のデータマネジメントを行っていくことになります」(吉村氏)

DMBOKに学ぶデータマネジメント

広義のデータマネジメントをすることが決まったら、まず行うべきは狭義のデータマネジメント、つまりデータの整理だ。

このステップで参考になるガイドとして吉村氏が挙げたのが「DMBOK(Data Management Body of Knowledge、データマネジメント知識体系ガイド)」である。同ガイドに記されている「DAMAホイール」は、データマネジメントに取り組む際に必要となる11のフレームワークから成る。中心にあるのはデータガバナンスで、それを囲むように、データアーキテクチャ、データセキュリティといった10のフレームワークが配置されている。

  • データガバナンスとその他のフレームワークのイメージ(出典:『データマネジメント知識体系ガイド 第二版』DAMA International編著、DAMA日本支部、Metafindコンサルティング 監訳、日経BP)

ポイントは「データガバナンスが真ん中にあること」だと同氏は言う。

「データガバナンスと言うと、人によっては法令対応と捉えたり、いかにコンプライアンスを重視するかといった点から“守り”と考えたりするでしょう。しかし、そうではありません」(吉村氏)

DAMAホイール図の中央にデータガバナンスがあるのは、「データマネジメント全体を監督する意図」であり、10個のフレームワークそれぞれが構想通りに進んでいるかを第三者的な視点で「監督する組織のようなイメージ」だと同氏は説明した。

とは言え、11個のフレームワーク全てを同時に進めるのは難しい。そこで同氏は前準備として、「DMBOK第15章にあるデータマネジメント成熟度アセスメントを実施するのが良いのではないか」と提案する。まずアセスメントによって、現状を把握することができるからだ。そのうえで、短期的なテーマや計画を決め、ビジネス要件を洗い出し、実施する施策を決定して必要な作業から進めていく。

このとき、データベースの設計や最適化を図るのであればDMBOKの「データストレージとオペレーション」のフレームワークを参照する、データ構造を設計するのであれば「データモデリング」のフレームワークを参照する、といった具合に、各プロセスに応じたフレームワークを参照していけばよい。

データマネジメントに求められる人材とは

データマネジメントを進めるにあたっては、さまざまな知見が必要なのはもちろん、多くの部署とも密接にかかわっていくことになる。その担当者にはどんなスキルが求められるのだろうか。

吉村氏は「データマネジメントへの理解がない状況での立ち上げは非常に難しく、“スーパーマン”のような人物が求められる」と話す。つまり、データマネジメントの知識を持ち、行動力があり、さらに人に信頼される人物だ。

経営トップにデータマネジメントの必要性を伝えられる胆力、現場に「一緒にデータ活用をやろう」と声をかけられるコミュニケーション能力……これらを持ち合わせ、かつデータ基盤の整備ができる人材となると、まさに“スーパーマン”であり、現実的ではないかもしれない。

そこで、コミュニケーション能力に長けた人物を1人目として、狭義のデータマネジメントに精通するテック担当、データ分析に欠かせないアナリスト担当の3人体制が「ふさわしいのでは」と同氏は言う。さらに組織拡大を目指すステップでは、データサイエンティストや、より難しいモデル・統計を駆使できるようなスペシャリストを増員するのが望ましいそうだ。

同氏は組織づくりを進めるうえでありがちな失敗として「“1人目データサイエンティスト問題”がある」と語った。これは、データマネジメント組織づくりの第一歩としてまずデータサイエンティストを採用してしまうことを指す。

データサイエンティストはデータ分析のプロだが、データマネジメント組織の立ち上げ時はまず、社内交渉などのコミュニケーションが求められる。さらに分析をするためには、データエンジニアリングの分野であるデータの前処理が必要だ。それらを無視して「データサイエンティストさえいればよいのだろう」と勘違いしていると、データサイエンティストが本来の得意分野にたどり着く前のハードルを越えられず、結果的にデータマネジメントが何も進まないという状況に陥る。そんな企業も少なくないそうだ。

生成AIとデータマネジメント

昨今トレンドとなっている生成AIだが、吉村氏曰くデータマネジメントにおいても2つ、活用の可能性があるという。

1つは、データ抽出の自動化だ。今はSQLと呼ばれるデータベースを操作する言語で抽出を行うが、生成AIに「こういうデータを抽出したい」と自然言語で入力するだけで誰でも集計作業を行うことができるようになる。

もう1つは、分類作業の自動化だ。アンケート結果などを回答内容に応じてカテゴライズする際、これまで人が目検で行っていた分類作業に生成AIを利用することで、大幅な時間短縮につながるはずだ。

こうした活用による可能性は大いにあるものの、AIが出した意思決定やアウトプットをそのまま鵜吞みにして、企業の今後を左右するデータの利活用を推し進めるのは、リスクが伴う。

「意思決定は人間がして、作業はAIに任せる、というのが今の時点では良いのではないでしょうか」(吉村氏)

* * *

「データマネジメント」と聞いたとき、多くの人はデータ基盤の整備など、狭義の意味でのデータマネジメントを思い浮かべるだろう。しかし、データの利活用によって成果を得るには広義のデータマネジメント、つまりデータを資産として管理するための仕組みづくりこそが、大きなカギを握っている。吉村氏の話を参考に、改めて自社のデータマネジメントについて考えてみてはいかがだろうか。

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