LIDARによる高精度な広域3Dスキャン

ここまでは、建築物を3Dスキャンする話をしてきましたが、山や川など、地形の形状を3Dスキャンする目的にも役に立ちます。そして、そのデータは土木や地図測量などに応用できます。更地がすでに確保できておりそこに建物を建てる場合は、そこはただの平地なので3Dスキャンの必要性は出てきませんが、例えば山やトンネルを掘削してそこに建築物を建てる時や、川の上に橋を建てる時などに、今度は山や川などの「環境の方を3Dスキャン」を行うと、その点群データが設計および実際の工事の際に役に立ちます。今回は、「地上の建物」の3Dスキャンの話だけに留めますが、ダムや橋梁の工事目的で川や湖の水中などを3D化することもあります。また、建築とは少し目的は変わりますが、深海探査船が海の一番深いところを3D化していくこともなされています(注意:海底は光が届かない場所ではカメラベースでの撮影が不可能な場所も多く、代わりにソナー(超音波)による3D計測を行うことが多いです)。

また、高速道路の壁や、山道の地形の変化などを3Dスキャンする目的で、レーザー3Dスキャナーを搭載した自動車を走らせて、道路周辺の広範囲を撮影する、「MMS(モバイルマッピングシステム)」と呼ばれるものが存在します。以下の動画でそのシステムの様子と撮影できる点群のイメージがわかります。

What is MMS (Mobile Mapping System)?

自動車の上に載せて移動しながら3D撮影すると、各時刻の点群同士がうまく位置合わせできませんので、通常MMSの車には、高精度のGPSセンサやIMU(慣性計測装置)も同時に搭載されており、それらを用いて各時刻での自動車の位置や進行方向を高精度に取得しています。そしてその自動車の位置情報を元に各時刻でLIDARで計測した点群を位置合わせして統合した巨大な点群に処理できます(高精度な計測器ばかり積んでいる都合上、非常に高額なシステムではあります)。また、今回は詳しくは取り上げませんが、これと同様の仕組みで、航空測量においても、LIDARセンサと、飛行機の自己位置推定を組み合わせた、地表面の3Dスキャンが行われています。MMSのような車ベースのスキャンでは、山道で車が通れる場所の周辺までのみ可能ですので、空から山岳地帯全体を3Dスキャンすることが活きてくることとなります。これらの地形を3D計測したデータをソフトウェア解析する応用例については、のちほどソフトウェア解析例を紹介する際に順に紹介したいと思います。

「3D環境センシングによる機械のリアルタイム周辺環境把握」

また、昨今、各自動車会社やGoogle社などが、自動車の自動運転システムの研究開発に取り組んでいるのはご存知のとおりだと思いますが、そういった研究開発中の自動運転車で、自動車のまわりの環境をセンシングするために、リアルアタイムで周辺を広範囲に3D化できるLIDARセンサが搭載されて試されています。以下の動画は、その一例として、Velodyne社のLIDARセンサで取得した自動車の周辺点群を可視化したものです。

Visualization of LIDAR data

将来こうしたLIDAR搭載で周辺の詳細な3D幾何形状を把握しながら移動する車が、市場にも登場してくるかもしれません(現在紹介している環境の3D地図化とは目的は異なりますが)。一方、現在販売されている自動車にも、「プリクラッシュセーフティシステム」と呼ばれる、衝突防止のために周辺の障害物検出をセンサの入力を元に行い、自動的にブレーキをかけるシステム搭載されている車種などがあります。その例である、本連載の第21回で紹介したスバルのアイサイトなどでも、ステレオカメラベースで前方の点群データ(元は視差画像)を用いていますし、ステレオカメラ以外にも各社の自動車ではミリ波レーダーで、周辺の障害物を探知するというプリクラッシュセーフティシステムはすでに製品として販売されています。のちに、工場などで用いる作業ロボットの話を紹介する際にも、ステレオカメラやデプスセンサで計測している点群をリアルタイムに活用する話を紹介しますが、周辺環境を3D点群で把握できれば、それを元に自律的に自動車やロボットの機械はなんらかの移動/停止や作業を実現できるのは、リアルタイムの3Dセンシングを活用するあらゆる機械の共通点であると思います。

以上で、建築、地図測量系の3D点群元の取得方法の紹介を終わり、次に、その取得したプラントや建築物などの大規模な3D点群をどのように活用していくか、どういった解析を行うかの例を紹介していきます。

林 昌希(はやし まさき)

慶應義塾大学大学院 理工学研究科、博士課程。
チームスポーツ映像解析プロジェクトにおいて、動画からの選手の姿勢の推定、およびその姿勢情報を用いた選手の行動認識の研究に取り組み中。(所属研究室が得意とする)コンピュータビジョン技術によって、人間の振る舞いや属性を機械学習・パターン認識により計算機で理解する「ヒューマンセンシング技術」全般に明るい。技術商社でエンジニアをしていたこともあり、海外のIT事情にも詳しい

一方、デプスセンサ等で撮影した実世界の3D点群データの活用を推進するための「Point Cloud コンソーシアム」での活動など、3Dコンピュータビジョンのビジネスでの普及にも力を入れている。また、有料メルマガ「DERiVE メルマガ 別館」では、コンピュータビジョン・機械学習の初~中級者のエンジニア向けの、他人と大きな差がつく情報やアイデアを発信中(メルマガでは、わかりやすい理論や使いどころの解説込みの、OpenCVの初心者向け連載なども展開中)。

翻訳書に「コンピュータビジョン アルゴリズムと応用 (3章前半担当)」。