今回は、前回に引き続きクラウド活用のスタートに最適なデータ保護と災害復旧サービスについて解説します。

災害復旧とクラウドへの移行の両方に利用できるAzure Site Recovery

Azure Site Recoveryはサービス開始当初、System Center Virtual Machine Manager(SCVMM)で管理されるプライベートクラウドの仮想マシンを、オンプレミスの2拠点間でレプリケーションして保護する機能を提供するものでした。Azure Site Recoveryは、クラウドからレプリケーションを調整し、フェールオーバー/フェールバックによる拠点の切り替えを管理します。

その後、Azureへのレプリケーション、SCVMMで管理されていないHyper-Vホストのサポート(Azureへのレプリケーションのみ)、VMware vSphereの環境のサポート、物理マシンのサポート、Azure IaaSのリージョン間のレプリケーションのサポートと、機能が拡張されてきました。

SCVMMやVMware/物理サーバーのオンプレミスの拠点間レプリケーション、およびAzureへのレプリケーションは、SCVMMやVMwareインフラストラクチャ側の準備が必要です。これに対して、オンプレミスのHyper-Vホスト(1台以上)からAzureへのレプリケーションは、Hyper-Vホストにエージェントを展開してサーバーを登録し、レプリケーションを有効化するだけで簡単かつ素早く、災害復旧のためのレプリケーション保護を開始することができます。

  • Azure“超”入門 第9回

    オンプレミスのHyper-Vホスト上の仮想マシンは、簡単なセットアップ手順でAzureにレプリケーションできる

Azureへのレプリケーション保護は、Azureポータル上ではAzure側に仮想マシンのコピーが作成され、変更が定期的に同期されるように見えますが、実際には仮想マシンの構成と仮想ハードディスクのコピー(チェックポイント)が作成され、仮想ハードディスクに対する変更がAzure側に同期されます。

障害のためにオンプレミス側が利用できなくなった場合、あるいはメンテナンスのために計画的にオンプレミス側を停止する必要がある場合、Azureへのフェールオーバーを実行すると、Azure側にある仮想マシンの構成と仮想ハードディスクのチェックポイントを使用して、Azure IaaSにAzure仮想マシンとしてデプロイします。

オンプレミスの拠点間で同様の保護を実現しようとすると、拠点設備、追加のサーバハードウェアおよびソフトウェアライセンスが必要となり、初期導入コストが極めて大きくなりますが、クラウドを復旧用の拠点として利用が可能なため、最小限のコストと時間で災害復旧対策を実装できるのです。

このAzureへのレプリケーションとフェールオーバーは、オンプレミスのシステムの災害復旧のために利用することもできますし、オンプレミスのシステム(Hyper-V仮想マシン、VMware仮想マシン、物理サーバ)をAzure IaaSに移行するために利用することができます。

大量のデータ転送が伴うため、規模(台数や個々のサイズ)が大きくなると同期が完了するまでには、かなりの時間を要しますが、フェールオーバーによる切り替えは短時間で完了します。テストフェールオーバーを使用すると、Azure IaaSの閉じたネットワークにAzure仮想マシンをデプロイしてテストすることができます。そのため、オンプレミスのサービスの停止時間を最小限にしながら、クラウドへの移行を行うことができます。

Azure IaaSのリージョン間レプリケーションも可能に

Azure IaaSのリージョン間レプリケーションは、2018年6月から正式に利用可能になった新たなレプリケーションシナリオです。Azure IaaSの現在のリージョンで実行中のAzure仮想マシンを、地理的に離れた別のリージョンにレプリケーションすることで、リージョン間でのフェールオーバーやフェールバックが可能になります。

つまり、Azure IaaSでクラウド化したシステムのための災害復旧サービスです。すべてがクラウド側にあるため、Azureポータルから簡単にセットアップすることができます。また、西日本と東日本の間でレプリケーションをセットアップすることができるため、日本国内のリージョンだけで災害復旧対策が可能です。

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    Azure仮想マシンのリージョン間レプリケーションは、AzureポータルでAzure仮想マシンの「ディザスターリカバリー」ブレードから簡単にセットアップできる

下記の図は、今回紹介したAzure Site Recoveryのレプリケーションシナリオについてまとめました。このほかに、SCVMMのプライベートクラウドや、VMware仮想マシンと物理サーバのレプリケーションシナリオにも対応しています。

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    Azure Site Recoveryの利用シナリオ(Hyper-VホストとAzure間、およびAzure IaaSのリージョン間)


山市良
Web媒体、IT系雑誌、書籍を中心に執筆活動を行っているテクニカルフリーライター。主にマイクロソフトの製品やサービスの情報、新しいテクノロジを分かりやすく、正確に読者に伝えるとともに、利用現場で役立つ管理テクニックやトラブルシューティングを得意とする。2008年10月よりMicrosoft MVP - Cloud and Datacenter Management(旧カテゴリ: Hyper-V)を連続受賞。ブログはこちら。

主な著書・訳書
「インサイドWindows 第7版 上」(訳書、日経BP社、2018年)、「Windows Sysinternals徹底解説 改定新版」(訳書、日経BP社、2017年)、「Windows Server 2016テクノロジ入門 完全版」(日経BP社、2016年)、「Windows Server 2012 R2テクノロジ入門」(日経BP社、2014年)などがある。