はじめに

2006年頃から使われ始めた、「クラウド」という言葉ですが、いまやIT業界ではこの言葉を知らなければモグリと言われるほど、大流行しています。サーバーを減らし、コストを節約するという目的で、現在では様々なクラウド型サービスが提供されています。本連載ではそんなクラウド型サービスの中でも、アマゾン ウェブ サービス(以下AWS)というクラウドサービスのEC2というIaaS型※1のクラウドを使って、Oracle Database構築などの方法を紹介します。

※1 IaaS : Infrastructure as a Servicesの略。システムのOSやミドルウェアなどのインフラ基盤と呼ばれる部分をインターネットを通じて、必要な分だけ利用し、利用実績に応じて課金するというサービス。

AWSとは

まずは、今回、利用しようとしている、アマゾン ウェブ サービスを少し紹介します。世間一般的にAWSと略されるこのサービスはAmazon Web Services, Inc.が提供しているWEBサービスで、WEBサービスを通じてアクセスできるサービス群の総称です。サービスの内容には、ストレージサービス(Amazon Simple Storage Service : Amazon S3)、仮想マシン(Amazon Elastic Cloud Compute : Amazon EC2)、データベースサービス(Amazon Relational Database Service : Amazon RDS)など様々で、利用した分だけ課金されるという課金形態の為、少しだけ試してみたいという人でも簡単に、「お試し」が出来る点が魅力です。

筆者はもともと、Oracleデータベースのエンジニアなのですが、「手軽に検証環境を作っていろいろな検証したいな」と前向きな考えを持っても、機器がなかったり、機器を買いに行く時間もお金もなかったりと、色々敷居が高いのが現実でした。このような、同じような思いを抱いているエンジニアや、これからOracleデータベースを学んでいきたいと思っている方々に対して、本記事がその一助になれば幸いです。

今回は、新人の「若井 あらた(わかい あらた)」が、先輩社員の「出来 益代(でき ますよ)」の助けを借りながらクラウド環境でOracleデータベースを実装していく過程を、物語調で解説していきます。物語に入っていきやすいように、今回の登場人物を紹介します。

  • 若井 あらた (わかいあらた)
    新人エンジニアで、今回データベース課に配属となった。本物語の主人公。



  • 出来 益代 (でき ますよ)
    中堅エンジニアで、データベース課に所属する。年齢は不詳。仕事熱心で、比較的後輩の面倒見もよいお姉さまタイプ。



※ この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものです

それでは始まりです。

はじまりはとつぜんに

若井 「みなさん、はじめまして。本日付でこの部署に配属になりました。若井といいます。まだ、入社1年目なので、右も左も分かっていませんが、ご指導よろしくお願いします。」

新しく、データベース課に配属となった若井。挨拶のあと、案内されるがまま、用意されていた彼の席へ着席する。そこへ一人の女性が向かってきた。

出来 「若井くん、はじめまして。私は出来益代といいます。あなたのチューターとなりましたので、今後ともよろしくね。」
若井 「はい。よろしくお願いします。」

しどろもどろと答える若井に、出来が問いかけた。

出来 「ところで、若井くんは、Oracleデータベースの経験はあるのかしら?私たちの部署ではOracleデータベースの仕事が結構多いのよ。」
若井 「いえ。Oracleと言う名前は聞いたことあるのですが、この春、社会人になったばかりで、実際には触ったことはありません。」
出来 「そう。わかったわ。私が説明するのも良いけど、百聞は一見に如かず!若井くん専用のOracleデータベースの検証環境を作ってみましょうか。」
若井 「ええ!!そんな簡単に作れるものなのですか?サーバーとかはどうするんです?」
出来 「検証用のものだから、物理サーバーなんか要らないわ。若井くんのPC上に作ることもできるけど、今回はクラウド上に作ってみましょう。OSはLinuxがいいわね。若井くんのトレーニングにもなるはずよ。どう?やってみる?」
若井 「は、はい。それでは是非作ってみたいです。。。」

かくして、若井はクラウド上で、Oracleデータベースの検証環境を作ることになりました。

若井 「(ボソッ)大丈夫かな。。。」
出来 「何か言った?」
若井 「いえ!!何も!」
出来 「OK!頑張ろうね!」

構築する環境をイメージする

出来 「早速。構築スタート!!っと行きたい所だけど、まずは、今回構築する環境を簡単に説明するわね。どんな環境を作るのか、イメージ出来てないと作れないものね。」

そう言うと、出来益代がサラサラサラとホワイトボードを記述していく。

出来さんが書いた構成イメージ

出来 「今回は、AWSというクラウドサービスを使うわ。」
若井 「AWS?」
出来 「そう。AWSはAmazon.comが提供しているクラウドサービスよ。あなたも、一度くらいAmazonは使ったことあるんじゃない?」
若井 「あのAmazonですか!僕、良く利用しますよ。僕の趣味はオオクワガタの飼育で飼育用品を良くAmazonで購入します!!オオクワガタって言うのはですね黒いダイヤと呼ばれまして………。」
出来 「あなたの趣味の話は興味が無いから。話さなくていいわ。(バッサリ)」
若井 「すいません。。。つい、人に喋りたくなってしまって。」
若井 「(ボソッ)意外と冷たい所もあるんだなぁ。」
出来 「何か言った?」
若井 「いえ!!何も!」

出来 「話を戻すわよ。AWSはAmazonが提供しているクラウドサービスで、このサービス上に仮想的にサーバーを立てることが出来るの。この仮想サーバーのサービスをElastic Compute Cloudと言って、EC2と略されるんだけど、今回はこの仮想サーバー上に、若井くんの検証用のOracleデータベースを作っちゃおうと言う訳。」
若井 「へー、なるほどー。」
出来 「クラウドサービスだから、OSを選択して起動するまで、数分もあれば、簡易の物だと起動できるわ。起動が完了すれば、あとは、SSHを使って、仮想サーバーへ接続、Oracleを構築するって寸法ね。」
若井 「クラウドかー。よく耳にするけど、難しそうだなぁー。でも作るもののイメージはつきました。」
出来 「全然難しくないわよって、新人のあなたに言っても、あまりわからないと思うから、百聞は一見に如かず!早速作ってみましょう!私が指示を出すから、自分でやってみてね。わからない所は聞いて。」
若井 「はい。やってみます!」

AWSのアカウントを作成する

出来 「それじゃ、早速、AWSのアカウントを作りましょう。AWSではアカウントを作らないとサービスが利用できないのよ。」
若井 「了解しました。」

と若井は早速、http://aws.amazon.com/jp/へWebブラウザから接続し、アカウント作成します。

若井 「『今すぐ無料アカウント作成』をクリックしてっと。へー。アカウント作成だけなら、無料なんだ。」

若井が必要な情報をブラウザから入力していく。入力項目には以下のようなものがある。

  1. 氏名
  2. メールアドレス
  3. 住所
  4. 電話番号
  5. クレジットカードの番号

途中でAWSから自動音声の電話がかかってきたりします。必要な情報の入力で、大体10分程度で、登録完了です。

若井 「出来さん。アカウント出来ました!」
出来 「よし。アカウントの作成は完了ね。あなた専用のアカウントで、あなたが自由に使ってもいいクラウドインフラ基盤、今後いろんな検証をお願いするかもしれないから、大事にしてね。」
若井 「僕専用のクラウドインフラ基盤…。あまり実感がわかないけど、大事にします。」
出来 「じゃあ、次のステップに行きましょうか、次は実際に仮想サーバーの作成よ。」
若井 「了解しました!」

こうして、新人若井のAWSを使った、Oracle検証環境の構築がスタートしました。次回は、実際にAmazon EC2を使って、仮想サーバーの作成を行います。若井の環境構築が完了するまで、どうぞよろしくお願いします。

執筆者紹介

山口 正寛(YAMAGUCHI Masahiro)

株式会社システムサポート 東京支社インフラソリューション事業部所属。

同社が得意とするOracleデータベースのエンジニアで、大規模DWHのDB管理者、DBコンサルタントなどを経験。また、同社の無料セミナーの企画にも携わる。

今回、機器がなくても気軽に環境を構築し検証したいというかた向けに AWS上でOracleデータベースを構築することをストーリー調で記載する。 尚、同社はAWSを用いたクラウド工房 powered by AWSというプロダクトがあり、産学官連携でも活用している。