豆蔵の山岸社長は、企業において業務とITの切り分けが難しくなっている今日、工学的手法を用いて業務全体のアーキテクチャを描いていくことが重要であり、それを実現するのがITアーキテクトだと語っています。今回は、「ITアーキテクトは具体的にどんな役割を果たすべきか」「良いITアーキテクトはどのようにして育てるべきか」について、山岸社長の考えをお聞きしました。

ユーザーとパートナーの"あるべき姿"

豆蔵代表取締役社長 山岸耕二氏(撮影:永山昌克)

ユーザー企業のIT部門やベンダーやSIerといったパートナー企業の今後の姿はどのようなもので、その中で、ITアーキテクトはどんな役割を果たしていくべきなのだろうか。
山岸氏は、「ユーザー企業のIT部門は今後、自社のIT戦略を立案するという役割が高まっていく。一方、パートナー企業は、単にシステムの開発・実装を請け負うだけでなく、戦略の実行をサポートするという役割が期待されるようになる」と予想する。

言うまでもないが、IT戦略には企業ごとに特性がある。例えば、ITを身体に張り巡らされた"神経系"とするなら、製造業のように、製造ラインという"消化器系"がコア業務となっている業種もある。また、金融のように"神経系"であるITそのものが"消化器系"としてコア業務になっている業種もある。そうした中で、「ITアーキテクトは、業務の全体像を描くことをはじめ、何をコア業務として内製化し、何をノンコア業務としてアウトソースするかといったITポートフォリオの設計も含めて、IT戦略を立案・推進していくことが求められる」というわけだ。

もっともユーザー企業にとっては、そのような役割を担える人材を確保し続けるのは難しい側面もある。というのも、IT戦略は企業固有のものであるがゆえに、様々な業種で通用する幅広いノウハウが蓄積されにくいということや、一度設計されたシステムは、数年間にわたって保守・運用していくことが多く、大幅な設計の見直しはそれほど必要とされないことなどからだ。逆に言うとベンダーやSIerにとっては、経験やノウハウを武器に、ITアーキテクトとしての付加価値を持ったサポートを提供できる可能性が高いということになる。

良いITアーキテクト」の育て方とは?

では、良いITアーキテクトの育て方とは何か?
山岸氏が豆蔵で重視し、実践しているのは、モデリング・スキルを向上させることだという。
「モデリング・スキルとは、UMLの記法を学ぶということではなく、なにがしかを一般化、抽象化して全体を把握するスキルのこと。空いた時間を利用して、モデリングのディスカッションや社内での講習会を行っている」 それらの一部は、Webサイトなどを通じて公開されている。この11月には、ソフト工学ラボ(略称:コラボ)というWebサイトを通じて、社外のエンジニアとのコラボレーションを図る試みも行う予定だ。

また、ユーザー企業内でITアーキテクトを育てるコツは、「人材の囲い込みをやめる」ことだそうだ。
「優秀な人材は、とかく1つの部署に囲い込まれる傾向がある。そうではなく、社内の複数の部署を経験させたり、社外の取引先や関係先へと引っ張り出したりして、計画的に視野を広めさせる仕掛けを作ることが大切」

そうした視野の広さは、ITアーキテクトに求められる資質の1つでもある。「"ズーム倍率"と呼んでいるが、これは、物事をスペシャリスト的な視点からミクロに見ると同時に、倍率を変えることで、より広い視点でマクロに見る力が求められるということ。アーテクチャには、業務レベルから事業レベル、そしてエンタープライズ・レベルでのアーキテクチャまでがある。どれだけ視野を広めて最適解を出せるかが良いITアーキクトのバロメーター」なのである。

タイトル:社長が薦めるリーダーのための1冊

「プロフェッショナルの原点」(P F.ドラッカー、ジョゼフ A.マチャレロ著、上田惇生訳、ダイヤモンド社刊)

このコーナーは、「社長が薦める本ならいい本に違いない!!」という勝手な前提条件の下、ご登場いただいた社長が現場のリーダーの方々に対して「読んでおくべき」だと考えている本を紹介するコーナーです。
今回山岸社長にご紹介いただいたのは、P.F.ドラッカー氏の遺作である「プロフェッショナルの原点」です。本書は経営書ではありますが、山岸社長によると、「ここに書かれていることはほとんど、自身の生き方について置き換えることができる」とのこと。山岸社長が「(エンジニアでも)これが読めるぐらいの人間になってくれ!!」と強く語っていたのが印象的でした。

プロフィール

山岸耕二氏
京都大学工学部修士卒。1982年にシャープ入社。超LSI研究所にて次世代デバイスの研究開発に従事。1989年にオージス総研入社。以後一貫してオブジェクト技術を適用したシステム開発や方法論の導入など、ビジネス創出に携わる。2000年にウルシステムズのCTOに就任。2004年に豆蔵 代表取締役副社長に就任。2008年より現職。技術士(情報処理)。要求開発アライアンス理事長。最近の著書に「要求開発」(日経BP社)、訳書に「ユースケース実践ガイド」(翔泳社)、「適応型ソフトウエア開発」(翔泳社)など。

『出典:システム開発ジャーナル Vol.7(2008年11月発刊)
本稿は原稿執筆時点での内容に基づいているため、現在の状況とは異なる場合があります。ご了承ください。