日本の少子化問題は、深刻だ。1950年3,000万人だった15歳未満の子供は、1,633万人(2014年)、とほぼ半減。前年と比較しても、約16万人減少しているのだ。こうした少子化の流れは、売り手市場だった教育現場にも大きな変化をもたらし始めた。

岡山の私立中高一貫校、岡山中学校・高等学校は、生徒と教師にタブレットを導入。授業でタブレットを利用するだけでなく、生徒の出欠や学習履歴などをデータ化、生徒・教師・保護者の三者間で共有するなど、これまでにない教育スタイルをスタートさせている。

岡山県岡山市にある私立中高一貫校、岡山中学校・岡山高等学校

タブレットで生徒・教師間のコミュニケーションを双方向に

進路指導部長 明楽晃氏

「従来の講義形式の授業では、教師から一方的な情報伝達になりがちです。生徒は授業中ほとんどの時間をノートテイクに費やし、視線は黒板と机上を行き来するだけ。教師との双方向のコミュニケーションが発生しにくい点が課題でした。また、出欠やテストの結果、保護者への連絡といった情報が紙で別々に管理しなければならず、教師も生徒も手間がかかるし、情報伝達の連携ミスも発生します。我々としては、授業中に生徒の顔が上がって教師と双方向のコミュニケーションが生まれるような新しい学習方法を取り入れ、教師と生徒で情報を共有できるようにしたい、という想いがありました。そこで、大阪で開催されたICT導入研修に参加したのですが、近畿大学附属高校の先進的な取り組みを知り、具体的なイメージを持つことができました。その後、近畿大学附属高校でタブレットを用いた授業や情報共有の仕組みを見学させて頂き、導入検討に入りました」(明楽氏)

岡山中学校・岡山高等学校は、システムの切り替えを機に、2014年4月に中学3年生と全教師にタブレットを配布し、全教室にプロジェクターを設置した。

英語担当教師 安永亜紀氏

「私は英語の授業を担当しています。以前は下を向いてする生徒がほとんどでしたが、いまは授業で使う資料は事前に生徒と共有し、授業中は私のタブレットをプロジェクターに接続して黒板に投影しているので、生徒全員の顔が前に向くようになりました。また、生徒のノートテイクが不要になったことで、常に生徒の表情を見ながら授業できるようになりました。このような結果、授業中のコミュニケーションが双方向になり、明らかに授業の質が変わったと実感しています。また、タブレットで動画を見ながら、みんなで英語の歌を歌って発音の練習をするなど、授業の幅に広がりが生まれています」(安永氏)

生徒の出欠や学習履歴の一元管理・共有を実現

授業中の資料をはじめ、生徒と教師の情報共有は、ベネッセコーポレーションとソフトバンクの合弁会社Classi(クラッシー)のWebサービス『授業・学校支援サービス』を活用している。新しい教育スタイルの導入により、教師の働き方も大きく変わったと明楽氏は続ける。

「以前は、教師が生徒の出欠をとる際、教室で欠席者を紙に書き、教員室に戻ってからPCに入力する、といった二度手間が生じていましたが、いまは教室で入力するだけで完了します。出欠だけでなく、テスト結果、クラブ活動の履歴など、生徒の情報が一元管理されています。こうした情報は全教師に共有されており、週末の野球部の試合で活躍した生徒に、あまり接点のない教師が週明けに声掛けするなど、これまでにはない効果も生まれています。さらに教師同士の連絡も以前はメールで行っていましたが、グループ機能でコミュニケーションするようなっています。教師間SNSのような使い方ですね」(明楽氏)

岡山中学・高等学校では、タブレットを授業中だけでなく、家庭に持ち帰って活用している。タブレット操作に慣れてもらうという効果だけでなく、保護者が家庭で生徒の状況を把握確認できるというメリットもある。

「以前は三者面談などでしか生徒の状況を保護者の方にお伝えする機会がなかったのですが、いまでは教師がタブレットで入力した生徒の状況を保護者の方が家庭で確認できるようになりました。授業の出欠や提出物の提出状況、クラブ活動など、常に生徒の状況を可視化できるため、以前ありがちだった保護者の方が状況を把握していなかった、ということがなくなりました。保護者の方からもっとも評価を頂いているのは、こうした生徒の情報がリアルタイムでわかる部分ですね」(明楽氏)

下記の動画は、岡山中学・高等学校での実際のタブレット活用の様子だ。


タブレットの活用頻度が進めば、一方でデメリットも出てきそうだ。たとえば、生徒が家庭にタブレットを持ち帰るとなると、ゲームやLineなどのアプリケーションで遊んでしまうような懸念はなかったのだろうか?

「確かに当初は生徒が遊びに使ってしまうのではないか、という懸念はありましたが、モバイル デバイス マネジメント(MDM)を導入すれば、許可されたアプリケーション以外は利用できないですし、インターネットの閲覧ページを制限できると分かりました。実際にそうしたトラブルは起きていないですね」(明楽氏)

Classi提供の「授業・学校支援サービス」では、生徒の時間割や出欠などが確認でき(左)、テスト結果による志望校合格判定も表示される(右)。生徒も教師も情報を一元管理でき、それをリアルタイムに共有できるため、教育現場の効率が飛躍的に向上した

「授業・学校支援サービス」のグループ機能を活用し、クラスや学年などでグループを作成(左)、SNSのようにコミュニケーションしている(右)

タブレット配布を拡大し、全校導入を目指す

今後はどのような教育展開を考えているのだろうか?

「2015年9月新中学3年の学年にもタブレットを配布し、新しい教育スタイルを展開していきます。教師側は約1年に及ぶ経験がありますし、子供はタブレットの操作に慣れるのが早いので、効率向上の成果はすぐに表れると確信しています。また、今後は高校も含め、全校でのタブレット活用を視野に入れています。タブレットを含む新しい教育スタイルは、従来の教育環境で課題となっていた多くの部分を改善できる、理にかなったシステムだと思います。少子化により、教育環境の改善が求められる中、今後はこうした新しい教育スタイルがスタンダードになっていくのではないかと考えています」(明楽氏)

売り手市場から買い手市場へと変わる教育業界。学校や学習塾淘汰の波は、新しい教育スタイルの普及を進めていくのかもしれない。