本連載の第16回第52回で、電子機器同士の電磁波干渉問題について取り上げた。そのときのテーマは主として、同じ機体の中に積まれている電子機器同士の干渉だったが、干渉源は同じ機体の中にだけあるとは限らない。

外部からの電磁波干渉

たとえば、強力なレーダーが近所で作動していれば、それだって電磁波干渉の原因になる可能性がある。もっとも、機器の動作がおかしくなりかねないぐらい強力な電磁波を浴びるようなことは、滅多に起こらない。

もしもあり得るとすれば、AWACS(Airborne Warning And Control System)機や早期警戒機がすぐ近くにいて、レーダーをフルパワーで作動させている場面ぐらいだろうか。そのほか、空母やその他の水上戦闘艦も要注意だ。飛行甲板やヘリ発着甲板の近所では、強力な捜索レーダーが動いているし、近所にいる他の艦のレーダーだって影響するかも知れない。

実は軍用機の場合、もっとも深刻な電磁波発生源は、電子機器ではなく核爆発だ。第52回でも触れたように、核爆発の際には強力な電磁波パルス(EMP : Electromagnetic Pulse)が発生するが、それが電子機器を構成する半導体に対して悪さをして、壊してしまうからだ。

だからといって真空管の時代に逆戻りするわけにも行かないので、シールドを初めとする実装によって対処するのが一般的なEMP対策である。冷戦時代と違って「全面核戦争」の恐怖は遠ざかったといえるが、小規模な核爆発が起きる可能性までなくなったわけではない。

近年では非殺傷性兵器のひとつとして、強力なマイクロ波を発振するものがある。それを利用して電子機器を壊してしまう研究もなされているから、今のうちから対策を考えておかなければならないだろう。単に強力な電磁波に対処するということなら核爆発のEMPに対する備えと共通するので、EMP対策でマイクロ波にも対応できればありがたいが、波長/周波数帯が大きく違えば、別の手が必要になるかも知れない。

といったところで、こんな記事を見つけたのでリンクしておこう。タイトルだけ見るとケーブルのシールドに関する話かと思うが、中身はまるで違う話であった。

参考 : 航空機用電磁シールド材料の特性評価
   http://www.enri.go.jp/report/hapichi/pdf2008/H20-19P.pdf

光ファイバー > 銅線 ?

伝送路のことだけ考えると、銅製の電線よりも光ファイバーの方が、電磁的なノイズや干渉に対しては強いと考えられる。

機内で電線を長々と引き回していれば、それ自身が一種のアンテナとして機能してしまう可能性があるので、電線に対してシールドなどの対策を施す必要がある。その点、光ファイバーの方が具合がよい。また、自ら近隣に電磁波を発して妨害源になることがないのも光ファイバーの利点である。

そういえば、海上自衛隊のP-1哨戒機は操縦系統にFBL(Fly-by-Light)、つまり光ファイバー伝送を使用している。普通は銅線を使用するFBW(Fly-by-Wire)で、それがさらにアナログ式とデジタル式に分かれるのだが、そこから一歩踏み出したものといえる。

基本的には「アナログFBW → デジタルFBW → FBL」の順番で電磁的干渉への抗堪性が高くなると考えられる。(注 : 光ファイバーによるアナログ伝送は考えなくてよいので、これら三種類ということになる)

ただ、光ファイバーの方が取り扱いに気を使うのではないだろうか。光ファイバーそのものはそれなりの太さがあるように見えるが、実際に伝送に使う「コア」の部分はごくごく細い。その周囲を取り巻く「クラッド」や被覆材があるから太く見える。そして、コア同士がズレのない状態で接触していなければ正しい伝送ができない。

したがって、光ファイバー同士を接続するコネクタの設計や取り扱いには注意を要する。日常の整備・点検、あるいは機体の分解検査や機器の取り外しに際してもケーブルをいじる機会があるから、そこでもやはり注意が必要になりそうだ。

アナログの障害とデジタルの障害

先にFBWの話に絡んで触れたように、アビオニクス(航空電子機器)ではコンピュータ化によってデジタル伝送を使うようになった。一見したところでは「1」と「0」の区別がつけばよいデジタル伝送の方が信頼できそうだが、逆にいえば、「1」と「0」の区別がつかなくなったり、順番が入れ替わったりすればおおごとである。

たとえば、何かの指令信号を送るのに、8ビット(256段階)のデータを送る仕組みになっていたとする。そこで「11001000」(10進法なら200)を送信したはずが、途中で干渉を受けてビットがいくつか反転してしまい、「01010100」になってしまうと、どうなるか。これは10進法では「84」だから、数字が六割近く目減りしてしまうことになる。これが、もしもエンジン推力の指令だったら大変だ。

そういう話になると、電圧の変化がそのまま情報を意味しているアナログ信号とは違った意味のクリティカルさがある、といえそうだ。デジタル伝送だから大船に乗った気になっていてもよい、というものではないようである。

そのため、デジタル伝送を行うときにはエラーチェックの機能が重要になる。といっても、何も航空機に限った話ではなくて、地上で使用するデジタル通信でも、エラーチェックが必要になるのは同じことではある。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。