近年ビジネスへ生成AIの利活用が急速に進んでいる。一方で、生成AIが事実に基づかない情報を出力する現象、いわゆるハルシネーションに対する懸念は払拭されていないのが実情だ。

本稿では、ハルシネーションの原因と対策について解説したうえで、ビジネスにおいて生成AIを安全かつ信頼性の高いかたちで活用する方法について、事例を交えて説明する。

ハルシネーションとは

ハルシネーションとは、AIシステムが事実に基づかない情報を出力する現象を指す。例えば、実際には存在しない固有名詞や出来事を持ち出す、同じ文脈内で矛盾する内容を提供するなどがこれに該当する。

ハルシネーションはAIを活用するさまざまな分野で発生し得るが、特に自然言語処理(Natural Language Processing、NLP)を使用するアプリケーションで多く見られる。その原因としてはデータの偏りやモデリングの不正確さがある。

AIを活用していくうえで、情報の正確性への担保は非常に重要だ。ビジネスにおいて正確な情報生成を担保することは、企業の信頼性向上や業務効率化に直結する。いずれにせよ、ハルシネーションへの対処は必須となるだろう。

用語の背景 – なぜハルシネーションと呼ばれるか?

ハルシネーションという用語は元々、心理学や医学の領域で使われてきたものである。人が現実には存在しないものを見たり、聞いたり、感じたりする幻覚(Hallucination)を指す言葉だ。

生成AIが利用されるチャットボットが大きく普及するなかでハルシネーションという用語も普及した。生成AIが利用されるチャットボットはもっともらしい誤った回答を生成することから、AIが幻覚を見ているのかのようになっていることを踏まえ、ハルシネーションが広く認識されることになった。

ハルシネーションが起こる原因

AIがハルシネーションを引き起こす原因は学習データに古いデータが利用されていることが挙げられる。AIは与えられたデータを基に学習を行うため、そのデータが古いと結果として非現実的な情報を生成しやすくなる。

また、不適切なプロンプトエンジニアリングも原因の1つである。適切なプロンプト設計がなされていない場合、AIが文脈を誤解し、意図しない情報を生成するリスクが高まる。これを防ぐためには、適切なプロンプト設定を行う必要がある。

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ハルシネーションのリスク

ハルシネーションは、AIが実際には存在しない情報や現実とは異なる内容を出力する現象である。しかも、その出力内容はあたかも事実かのように見えることもあるため、誤情報の拡散につながることが懸念される。

仮に、AIが出力した誤情報を誰かがWebサイトなどで公開した場合、瞬く間に誤った情報が広がる恐れがある。特にSNSやニュースサイトで拡散されると、多くの人々がこれを真実として受け入れてしまう可能性も高い。後から訂正したとしても、訂正内容が全ての人に届くとは限らないだろう。

ハルシネーションはビジネスに深刻な影響を及ぼす可能性も高い。上述の例で言えば、AIが出力した誤情報を公開したのが企業であれば、その企業の信頼性にかかわることは想像に難くない。また例えば、企業が生成AIを用いて顧客対応などを行っている場合、不正確な情報提供によってブランド価値の低下を招く危険性もある。そのほか、誤った市場分析結果や予測に基づいて意思決定を行うと、経済的な損失を被る可能性も考えられる。

さらに、誤情報の拡散は法的リスクも伴う。例えば、製品の安全性に関するAIの出力情報が誤っていた場合、深刻な事故につながってしまうかもしれない。企業が消費者からの訴訟や規制当局からの制裁を受ける可能性もある。

顧客対応やカスタマーサポートにおいてもハルシネーションによるダメージは大きい。生成AIを活用したチャットボットや自動応答システムが誤った情報を提供すれば、顧客の信頼を失う可能性がある。その結果、顧客離れや収益の減少といったビジネス上のマイナス要因につながることが考えられる。

ハルシネーションを防ぐための対策

ハルシネーションを防ぐためには、まず利用する生成AIプラットフォームに適切なものを選択することが重要だ。生成AIのプラットフォームが古いものであると学習に利用されているデータが古く、ハルシネーションの対策も十分でないため、リスクが高くなる。次に、プロンプトエンジニアリングを駆使してAIの応答を適切に誘導することで、誤情報の生成を減少させることができる。

また、RAG(Retrieval-Augmented Generation)環境の構築も有効である。RAGを使用することで、外部データソースを活用して誤情報を未然に防ぐことが可能になるからだ。これらの対策を組み合わせることで、ハルシネーションの発生を低減し、より安全かつ信頼性の高いAIシステムとしてビジネスに活用することが可能となるのだ。

プロンプトエンジニアリング

プロンプトエンジニアリングとは、AIが生成するコンテンツの品質と正確性を向上させるために、提供する入力データや質問の形式を工夫する手法だ。AIへの指示をなるべく具体的にしたり、前後のコンテキストを明示したりすることで、モデルがユーザーの意図を誤解しにくくなるのである。

プロンプトエンジニアリングを成功させるには、体系的なアプローチが必要だ。まず、AIがどのように応答するかのパターンを理解し、次にそのパターンに基づいて最適なプロンプトを設計する。この作業は実験とフィードバックを繰り返す過程であるため、継続的に改善していかなければならない。

適切なプロンプト設計により、ハルシネーションの発生リスクを低減し、より信頼性の高い情報を提供することが可能となる。

RAG環境の構築

RAG環境の構築は、ハルシネーションを防ぐ方法として極めて有効である。

RAGは、先に触れたとおり、「Retrieval-Augmented Generation」の頭文字をとったもの。直訳すると「検索拡張生成」となる。すなわち、AIに処理を依頼する際に、事前に自身の保持しているデータソースを検索して情報を取得、その検索結果とセットで生成AIへプロンプトを投げかけることで、信頼性の高い、あるいは目的に適した結果を得ようというものだ。

また、RAG環境では、プロンプトエンジニアリングも重要な役割を果たす。これにより、生成AIの出力がより一貫性を持ち、誤情報の生成リスクを最低限に抑えることができる。

企業のハルシネーション対策の事例

ビジネスにAIを活用していくうえで、ハルシネーションは決して無視できない課題だ。以下に、さまざまな方法でハルシネーション対策を行いつつ、AI活用に取り組む企業の事例を挙げる。

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分野はそれぞれ異なるが、いずれもAIが抱えるリスクと向き合いながら活用を進めることで、確かな成果を上げ始めている事例である。自社のビジネスに置き換えて考えることで、少なからず参考になるはずだ。

ハルシネーションのリスクを管理し、信頼性の高いAI活用を実現しよう

以上、本稿ではハルシネーションの原因と対策について解説したうえで、ビジネスにおいてAIを安全かつ信頼性の高いかたちで活用する方法について説明した。

繰り返しになるが、ハルシネーションとは、学習データの偏りやモデリングの不正確さなどのためにAIが事実に基づかない情報を出力する現象である。誤った情報を外部に発信したり、経営判断の参考にしたりすれば、ブランドイメージの低下や業績悪化にもつながりかねない。AIのビジネス活用に取り組む企業にとっては、脅威とも言える課題だ。

対策としては、ここまでに説明してきたようにプロンプトエンジニアリングやRAG環境の構築などが考えられる。これらを適宜実施することで、AIの精度向上とリスク管理が可能になる。

本稿を参考に、適切なハルシネーション対策を行いながらAIをフル活用し、業務効率化やビジネスの最適化を実現していただきたい。

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