AIのプログラミングに適したオブジェクト指向言語「Python」
コンピュータはプログラムがなければタダの箱である。AIも人間によるプログラミングによってはじめて機能する。
プログラミング言語には、大きく分けて「手続き型プログラミング言語」と「オブジェクト指向言語」がある。前者は実行すべき一連の手順を1つずつ決めていくプログラムで、初心者向けのBASICや科学技術計算に向いたFORTOLAN、事務処理分野に数多く使われているCOBOLなどがある。
すべての手順を記述しなければならないので、小規模プロジェクト開発には向いているもののプログラムが大きくなると保守が大変になり、モジュールが再利用しにくいという欠点がある。
後者のオブジェクト指向言語とは、データや動作をまとめたグループを使ったプログラミング言語であり、複数のグループを組み合わせてプログラムを構築できる。イメージしやすいグループを扱う分理解しやすく、再利用可能なモジュール設計が簡単で大規模プロジェクトの開発に向いている。
AIが実力を発揮するにはビッグデータを効率よく処理し、GPUなどの高速なハードウェアをコントロールするためにプログラムは大規模になる。そのためAIのプログラミングには、大規模プロジェクトの開発に向いているオブジェクト指向言語であるC、C++、Python(パイソン)が使われている。本稿では、ディープラーニングの開発に多く使われているPythonの概要を紹介する。
Pythonを活用したディープラーニングによるマーケット分析
Pythonはデータやモデルの扱いを簡潔に記述できることに加え、ディープラーニングのプログラミングを実装するための「TensorFlow(Googleが開発・公開)」などのライブラリ(汎用性の高い機能)を利用できる点に特徴がある。ライブラリを活用すると、その機能を新たにプログラミングする必要がなく、開発時間を短縮できる。
Pythonの詳細は専門書に譲るとして、わかりやすい利用例として、ここではマクロミルの「決定木分析(ディシジョン・ツリー)」を活用したディープラーニングによるマーケット分析の一端を紹介しよう。
例えば、ゴルフ未経験者における、ゴルフ実施見込みが高い集団の特定・抽出を行う場合、現在ゴルフをやっていない人たちにおいて、「ゴルフをやってみたい見込みが一番高いのはどのような集団か?」を把握するために決定木分析を実施する。
データとしては、別途意識調査で聴取した「ゴルフへの興味関心度(目的変数)」と、「それ以外の各種条件/意識(説明変数)」となる。単一回答、複数回答、数値回答など、様々な設問タイプの調査結果から分析できる。また、「目的変数」に影響すると考えられる「説明変数」を、何度もクロス集計を繰り返すことなく明らかにすることができる。
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Pythonを活用した決定木分析例 出典:マクロミル
上図の左側の「Yes」ゾーンは、階層が深くなるほど「興味関心あり」の割合が高くなっており、逆に右の「NO」ゾーンは階層が深くなるほど「興味関心なし」の割合が高くなる。この分析結果から、最もゴルフへの興味関心の高い「ポジティブ層」(一番左側)の条件が把握できるだけでなく、今後のゴルフを行う見込みのある「ポジティブ層予備軍」の流れを把握できる。
その結果、「自社の商品(サービス)を購入する見込みが一番高い人はどんな人なのか」「満足度やロイヤリティの高い生活者がどのような特性を持っているのか」「商品が持つ要素のうち、生活者の満足度やロイヤリティに最も影響を及ぼしているものなは何か」を知ることができる。これを手続き型言語で行おうとすると、組み合わせが膨大になって処理時間がかかり過ぎて実用に耐えない。
なお、こうしたPythonによる効果的なプログラミングをサポートするのが前述したTensorFlowだ。TensorFlowにはディープラーニング開発用にさまざまなライブラリが用意されており、Pythonと組み合わせることでAIを効率よく開発することができる。
その1つに、テキスト解析のデファクトスタンダードの「Word2vec」がある。Word2vecはテキストをベクトル化できるので、ディープニューラルネットワークで使えるようになる。テキストの構文解析だけはなく、パターンが識別される音声や画像なども扱うことができるので、応用範囲もぐんと広くなる。
著者プロフィール
松崎 亮
Appier Japan株式会社
Director, Enterprise Sales
2004年 コロラド大学ジャーナリズム&マスコミュニケーション学部卒。総合広告代理店の営業を経て、2011年グーグルジャパン入社。SMB を顧客とする第二広告営業本部の初期メンバーとして同本部の成長と組織作りに貢献。その後、グーグルが買収したダブルクリックの日本の初期メンバーとして参画。DoubleClick Bid Manager (DSP) の拡販、DoubleClick Campaign Manager (第三者配信、DoubleClick Search (SEMツール、Google Analytics を含めたグーグルのアドテクソリューション営業に従事。2017年に Appier Japan に入社。同社の人工知能をベースとしたオーディエンス予測分析プラットフォーム「Aixon(アイソン)」の日本営業統括責任者。