普通、有人機といえば有人機、無人機といえば無人機と分かれている。ところが、何事にも例外は発生するもので、有人・無人兼用機というものもある。有人機を後から無人機に仕立て直したケースならわかりやすいが、最初から兼用のつもりで開発・製作した事例もあるのだ。
串型配置
それが、ノースロップ・グラマンの中高度・長時間滞空(MALE : Medium-Altitude, Long-Endurance)型UAV「ファイアバード」。同社傘下のスケールド・コンポジッツが開発した機体で、社内名称はスケールド・コンポジッツ・モデル355という。2010年2月に初飛行を実施した。/メーカー公式の動画があるので、まずはそれを御覧いただこう。
Northrop Grumman Unveils Firebird; Newest Intel Gathering, Optionally Piloted Aircraft System
全長10.5m、全幅24.1m、最大離陸重量7,100lb(3,220kg)。ライカミング製のガソリン・エンジン(出力400hp)を1基搭載、運用高度25,000ft(約7,500m)、航続時間30時間プラスアルファ、巡航速度135kt(250km/h)というスペックの持ち主だ。
同じMALE UAVに分類される、ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)のプレデターBと比較すると、ファイアバードの方が小型で軽量、しかし航続時間は同等クラスだ。ただしこの両者、同じMALE UAVとして競合関係にあるという見方はできるが、全体配置はだいぶ違う。
プレデターBは胴体の左右に主翼とV尾翼を生やして、尾端にエンジンとプロペラを取り付けている。それに対してファイアバードは、中央に短めの胴体があり、後端にエンジンとプロペラがある。そして、胴体の途中から左右に伸びている主翼から、後方にツインブームを伸ばしている。これを業界では串型配置といい、UAVでは意外と事例が多い。そして、ツインブームの後端に垂直尾翼を立てて、それを水平尾翼で結んでいる。
似たような配置の機体が何かなかったっけ、と思案したところ、思い出したのは、日本海軍が太平洋戦争中に計画した局地戦闘機(防空戦闘機)の「試製閃電」だった。
最初にできたファイアバードの試作機は、胴体の前寄りに操縦席とキャノピーを設けており、パイロットが乗って操縦するようになっていた。しかし無人での飛行も可能で、有人・無人の切り替えが可能。つまりOPA(Optionally Piloted Aircraft)だ。
有人運用ができるキャパシティを備えていれば、センサー機器などミッション機材のためのスペースを大きくとれるのではないか、と期待できる。ちなみに、ファイアバードのペイロードは1,700lb(771kg)。左右の主翼と胴体の下面に1カ所ずつ、合計3カ所のパイロンがあり、外部搭載も可能な設計である。
無人運用では、コックピットのスペースに衛星通信アンテナを搭載すればよい。衛星通信のアンテナは、頭上の視界が開けている場所に載せなければならないから、「視界の広さが求められる」という点でコックピットと共通する部分がある。
同じMALE UAVということで、プレデターBの一族と競合する場面が多そうだが、機体のキャラクターは同一ではないことがわかる。たぶん、有人機としても使える柔軟性を期待するカスタマーがいれば、ファイアバードにとっては有利な要素となる。
OPAのメリットと課題
プレデターBは当初から無人機と割り切った設計で、胴体は細身にまとめている。主翼と尾翼を取り外して、専用の輸送用コンテナに収容するとコンパクトにまとまり、それを輸送機に載せれば遠隔地に持って行くのも容易である。
それに対してファイアバードは、有人・無人のどちらにも対応できるところが売りといえそうだ。といっても、人を運ぶ機体というわけではない。
例えば、普段は無人で監視飛行を実施しておいて、「これは人間の目玉で確認しないと」という時に人を乗せて飛ばす、なんていう使い方ができる。また、有人機と無人機の混在飛行ができない空域でも、パイロットを乗せれば有人機に化けるので、他の有人機と同じように飛べるだろう。
ただし、もしも有人形態と無人形態で機首の外形が変われば、空力特性に変化が生じるから、風洞試験は個別に実施しなければならない。どちらの形態でも、空力的な問題が生じないことを確認する必要があるからだ。そんな手間をかけるぐらいなら、有人・無人のいずれでも同じ外形になるように設計するほうがよいかもしれない。
また、形態が変われば重量配分にも影響が生じる。無人化すれば確実に、パイロットの体重の分は機首が軽くなるからだ。それによって重心位置が後方に移動すると、縦の静安定に影響が生じる可能性も考えられる。もっともこれは、機器の追加搭載である程度、相殺できそうではある。バラストを積んで調整する手もあるが、これはできれば使いたくない方法だ。
素人の筆者でもそれぐらいは思いつくのだから、当然、設計段階では形態の変化に伴う影響を織り込んで、しかるべき対策を講じているはずだ。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。