米空軍でその昔、マクドネルXF-85ゴブリンという戦闘機を試作した。第2次世界大戦中には、爆撃機に護衛の戦闘機を随伴させていたが、爆撃機の航続距離が伸びてくると、それが難しい。そこで爆撃機の機内に護衛戦闘機を収容して飛んで行き、敵地に近付いたら空中発進させるという企画だった。

UAVを空中発進・空中回収

なんだかSFみたいだが、モノにならなかった。ところが最近になって、それの蒸し返しみたいな企画が出てきている。それが、米国防高等研究計画局(DARPA : Defense Advanced Research Projects Agency)のグレムリン計画。ただし「爆撃機と戦闘機」ではなくて「C-130輸送機と偵察用小型無人機」という組み合わせになっている。

  • DARPAのグレムリン計画のイメージ。グレムリンという名称は、第2次世界大戦中に英国人パイロットの幸運のお守りとなった架空のいたずら好きな妖精にちなんでいるという 資料:DARPA

    DARPAのグレムリン計画のイメージ。グレムリンという名称は、第2次世界大戦中に英国人パイロットの幸運のお守りとなった架空のいたずら好きな妖精にちなんでいるという 資料:DARPA

計画が持ち上がり、情報照会を発出したのは2015年8月のこと。そして、まずフェーズ1として4社が実現可能性研究を実施した上で、ダイネティクス社のチームと、ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ社のチームが勝ち残り、フェーズ2に進んだ。この段階では、フルスケールの実証機について予備設計を実施するとともに、個々のコンポーネントについてリスク低減試験を実施するための計画をまとめることとした。

そしてダイネティクス社のチームが勝ち残り、現在はフルスケール実証機を実際に制作して飛行試験を行う、フェーズ3の作業を進めている。

グレムリン計画で使用する無人機はGAV(Gremlins Air Vehicle)といい、後に、X-61Aという名称がつけられた。丸みを帯びた三角断面の胴体から左右に主翼を展開させる仕組み。母機となるC-130の機内に収容するときには、場所をとらないように主翼を畳んでいる。

一方、そのC-130輸送機の後部ランプ付近に設置して、GAVの発進/回収を担当するのが、GADS(GAV Autonomous Docking System)。このGADSとGAVはシエラネバダ社が担当しており、主契約社のダイネティクス社は全体のとりまとめを担当する図式となっている。

X-61Aの初号機(GFS-01)は2019年11月末に初飛行を実施した。その際の飛行時間は1時間41分で、主翼の展開、エンジン始動、安定飛行への遷移、管制システムやデータリンクの動作、地上の管制システムと空中の管制システムの間での引き継ぎ、ドッキング・アームの展開を試した後にパラシュートで回収した。なにせ空中回収を前提としている機体だから、降着装置が付いていないのだ。

その後、まず空中回収の試験を後回しにして、リスク低減のための作業を進めた。2020年7月にユタ州のダグウェイ試験場で実施した飛行試験では、地上システムや回収システムを対象とする試験を行い、安全な回収が可能であることを確認した。また、X-61AとC-130を飛ばして、125ft(約38m)の距離を置いて編隊飛行を実施してみた。

この後は、まず1機、次に2機の空中回収を試す計画になっている。以前には、2020年中に空中回収を実際に行う予定だと報じられていたが、まだ実現したとの報はない。COVID-19のトバッチリだろうか? 最終的な目標は、30分間で4機のGAVを空中発進、あるいは空中回収することだという。

  • 2020年12月にユタ州ダグウェイ試験場で行われたグレムリンの最新の飛行試験の様子。C-130がX-61Aの隣を飛行している 資料:DARPA

    2020年12月にユタ州ダグウェイ試験場で行われたグレムリンの最新の飛行試験の様子。C-130がX-61Aの隣を飛行している 写真:DARPA

グレムリン計画のキモとなる部分

さて。飛行中の輸送機を使って無人機を空中発進、あるいは空中回収する際に、キモとなるのはどの部分だろうか。

まず空中発進では、数百km/hの速度で飛行している機体の外に、アームで保持している無人機を突き出して切り離すことになる。もっとも、真下に突き出すとは限らず、斜め後ろ下方でも用は足りると思われる。それでも、高速の気流に耐えて無人機を保持できなければ具合が悪いことに変わりはない。

発進以上に難しいのが回収。母機の後下方から無人機が接近して、同一針路・同一速力で安定した近接飛行を行わなければ、回収そのものが成り立たない。母機と無人機の位置関係が安定していないと、母機から繰り出す回収装置に無人機を連結する作業ができない。

そこで必要となるのが、精密航法の機能、pNAV(precision Navigation Capability)。もともと、空中給油の自動化を企図したAARD(Autonomous Aerial Refueling Demonstration)計画のために開発された技術だ。空中給油では給油機と受油機が近接して、同一針路・同一速力で飛行しなければならないから、それを自律的に行える技術があれば、空中回収にも応用できると考えたわけだ。

ただ、近接飛行を安定して行うだけでは、まだ話は半分しか進んでいない。近接飛行している無人機に対して、母機から回収装置を伸ばして連結しなければならない。ではその際に、位置合わせをどちらで行うか。

つまり、回収装置の位置は動かさずに無人機の側で位置を合わせていくか、無人機は安定飛行の実現に専念して回収装置の側から位置を合わせていくか。リリースされている映像を見ると、回収装置はアームのようなものではなく、漏斗型の装置をワイヤーで繰り出しているようなので、これだと無人機の側から位置を合わせていくことになると思われる。

どこかで聞いたような話だと思ったら、空中給油をフライング・ブーム式(受油機は安定飛行に努めてフライング・ブームから位置を合わせていく)にするか、プローブ・ドローグ方式(給油機は安定飛行に努めて、受油機がプローブの位置を合わせていく)にするか、という選択と似たところがある。

ともあれ、自律的な近接飛行や空中でのドッキングをモノにできれば、他の分野への波及が見込めるかもしれない。今後の飛行試験に注目したいところだ。

それはそれとして。誰が命名したのか知らないが、なぜ、よりによってグレムリンなんて名前をつけたのかが気になる。グレムリンといえば、昔から存在が言い伝えられている「機械にいたずらをする妖精」のことだ。飛行試験の最中にグレムリン(妖精のほう)が暴れ出したら困るのではないか?

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。