このほど、エアバスA220がデモツアーのため、中部国際空港に飛来した。前回は、エアバスA220の客室と貨物室を紹介した。今回はもうちょっと見えにくい部分ということで、機体構造や操縦系統を中心に説明しよう。

機体構造における素材の選択

民航機における最大の課題は燃費の低減である。それを実現する手段としては、エンジンの改良、空気抵抗の低減、素材や構造の工夫による軽量化が御三家だ。エンジンについては後述するとして、まずは素材からいこう。

A220でも軽くて強度が高い複合材が採用されているが、対象部位は限られている。主翼、翼胴結合部、垂直尾翼と水平尾翼、その尾翼が取り付く部分の後部胴体の外板だ。これらの部位でも、内部のフレームはアルミ合金素材を使用している。

複合材料製の外板を使用する部位を決めた理由が、興味深かった。比較的短距離の路線を頻繁に飛ぶA220は、地上に降り立つ機会が多く、その際には支援を担当する各種の車両が機体の周囲を行き来する。その際に、もしもうっかり接触したり、ぶつけてしまったりしたらどうなるか。

その場合、実は金属素材のほうが具合が良い。ぶつければ凹むから容易にわかるし、修理もしやすい。ところが複合材だと、傷の存在がわかりにくい場合があるという。また、複合材は修理に手間と費用がかかってしまう。

そこで、A220では胴体部分の外板を金属製とした。地上支援車両が周囲を行き来する時に接触で損傷する可能性が高いからだ。そして、接触の可能性が低い部位にのみ、複合材を使用したのだという。

機体と言えば、面白かったのが非常口。前後の扉と中央部・主翼上面付近の非常口という組み合わせは普通だが、さらに胴体側面に「CUT HERE IN EMERGENCY」つまり「緊急時にはここを切り開いて、中から人を救出できる」という場所を用意して、赤線で囲んでマーキングしてあった。

  • 主翼上面に面した非常口に加えて、その前後には「胴体を切り開いて内部の人を救出できる」との標記が 撮影:井上孝司

    主翼上面に面した非常口に加えて、その前後には「胴体を切り開いて内部の人を救出できる」との標記が

しかし、大韓航空のA220を撮影した写真を見ると、この標記はない。試験用機に特有のアイテムだろうか?

エンジン配置

昔は小型のジェット旅客機と言えば、リアエンジン、つまり後部胴体の左右にエンジンを取り付ける機体が多かった。ダグラスDC-9、シュド・カラベル、ボーイング727、BAeトライデントといった機体が知られている。

しかし近年では、小型の旅客機でもエンジンを主翼の下に吊り下げる機体がほとんどで、リアエンジン配置をとるのは、もっと小型のビジネスジェット機ぐらいになってしまった。

これは、燃費効率改善のためにバイパス比が大きくなってナセルが大径化し、胴体側面に取り付けるのが難しくなったためと思われる。それに、整備・点検や着脱の際に、エンジンが主翼に付いているほうが作業がしやすい。

A220も御多分に漏れず、エンジンは翼下配置である。使用しているのはプラット&ホイットニーのギアード・ターボファン「PurePower PW1500G」。前の世代の機体と比較すると、乗客1名当たりの燃料消費を20%減らしたとしている。バイパス比は12:1、ファン径は73インチ(1,854mm)、推力は24,000lb(10,896kg)。

エンジンを翼下配置する場合の課題は、エンジンと地面の間の空間余裕(クリアランス)の確保。エンジンが地面に接近しすぎると、ナセルを地面に擦ったり、FOD(Foreign Object Damage)が起きたりする可能性が懸念される。

しかし一方で、前述の事情からナセルは大径化する傾向にある。降着装置を構成する脚柱の長さを増やせば問題を緩和できるが、降着装置の重量が増えるし、収納スペースも大きくなってしまう。だから、可能な範囲で短くまとめたい。

そこで、小型の機体になるとおしなべて、エンジンを吊すために使用するパイロンが下方より前方に伸びる形状になり、エンジンナセルの上縁部と主翼の高さはほとんど同じぐらいになってしまう。A220に限らず、737MAXやスペースジェットもそうなっている。

エアバスの機体では、主翼を正面から見た時に一直線になっておらず、付根からグイッと曲線的に持ち上がる形状にすることがある。これも、エンジン設置に必要な空間ほ確保するためのようだ。しかし、A220はそれほど極端ではない(もともとエアバスの設計ではないし)。

  • 主翼付根の上反角はストレートで、A350やA380みたいな、曲線的な持ち上げ方はしていない。エンジンナセルの上面と主翼の高さが、あまり違わないのがわかる

システム

操縦系統は完全にFBW(Fly-by-Wire)化しており、操縦桿はサイドスティック式になっている。計器盤は5面の多機能ディスプレイ(MFD : Multi Function Display)が主体で、HUD(Head Up Display)も付けられるようだ。以前に取材したA350と比較すると、頭上のパネルがコンパクトにまとまっているのが印象的だった。

概要説明の席で出た話題の1つが、操縦席における無線関連パネルの設置場所。センターコンソールの後方に設置している機体が多いが、A220はグレアシールド付近に設けていて「状況を把握しやすい」とのことだ。

  • A220の無線関連パネルは、グレアシールドに組み込んである(矢印の位置)

操縦翼面はコンベンショナルな構成で、特に突飛なところはない。フラップはシンプルな構造のファウラー・フラップで、その上部にスポイラーが取り付く、ありきたりな構造である。必要な揚力が得られるのであれば、わざわざ複雑にする理由はない。

  • 着陸直後の、まだフラップとスポイラーを展開した状態。ファウラー・フラップなので、フラップ後縁が主翼後縁よりも後方にせり出す

燃料タンクは左右の主翼と中央翼の3カ所で、中央翼タンクは胴体の幅を越えて、左右の主翼内に食い込むだけの幅がある。エンジン吊下用パイロンの辺りが、中央タンクと左右翼内タンクの境界のようだ。燃料搭載量は最大17,400kg、給油口は右主翼付根の前側にある。

以上、A220の全貌を明らかにすべく、3回にわたってお届けした。

「ところ変われば品変わる」というが、旅客機も同じみたいだ。作り手が変わればいろいろと思想が異なるところが出てくる。見慣れたエアバスやボーイングの機体とは違う思想が、そこここに垣間見える。カナダ生まれのA220は、なかなか興味深い機体であった。

さて、日本でA220を導入するエアラインは出てくるだろうか。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。