練馬区立区民・産業プラザにて「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2016」が開催され、数多くのアニメ関係者が参加した。同フォーラムはペーパーレス作画をテーマにした初の大規模フォーラムとして1年前に発足したもの。今回のACTFでは作画のデジタル化とフローの改革に取り組んだ制作プロダクションから担当者が登壇し、実際の作品事例を通してデジタル作画に関する講演を行った。

本稿では株式会社サンジゲンによる講演「あえてやるんだ!TVPaint作画の可能性」をレポートする。

デジタル作画部チーフ 茶之原拓也氏、撮影部部長・デジタル作画管理 山田豊徳氏、プロデューサー 佐藤 謙次氏が登壇した

サンジゲンは3DCGでアニメーションを制作するクリエイター集団。「うーさーのその日暮らし」や「蒼き鋼のアルペジオ ‐アルス・ノヴァ‐」など多数の人気作を手がけており、現在は3DCGでセルルックのアニメ「ブブキ・ブランキ」を制作している。

そんなサンジゲンからはデジタル作画部チーフの茶之原氏、撮影部部長の山田氏、プロデューサーの佐藤氏の3名が登壇。現場におけるTVPaintを用いた作画について語った。

TVPaintはフランス生まれの作画ソフト。25年の歴史を持つ老舗で、絵コンテから撮影まで柔軟性に優れたツールである。ベクター非対応ではあるが、手描きのアニメには親和性が高いという。ではこのソフトを活用してアニメを制作すると、どんなメリット・デメリットがあるのか。

最初の実例は「うーさーのその日暮らし 夢幻編」。昨年夏に放送されたショートアニメで、第12話を同社デジタル作画部が手がけた。全作画工程(レイアウト・原画・動画)をTVPaintで作画し、仕上げもデジタル作画部がTVPaintで担当。演出チェックもTVPaintで行っているという。唯一撮影のみAfter Effectsが用いられている。

含み塗りによる仕上げ→FXスタックによる色替え (C)Project wooser 3

講演では実際の画面を見ながらソフトの細かい使い方のデモが行われた。TVPaintを使用するにあたり、1ヶ月間はソフトの調査研究にあてることに。作業期間は1ヶ月半。作画スタッフは演出を含めて4名。総動画枚数は900枚だった。レイアウトから原画、動画、仕上げまですべてTVPaintを使ったことで全体の流れをつかむことができ、デジタルの得意不得意が体感できたという。

次の課題は、これを一般のアニメのフローに反映できるのかという点。そこで次に実践したのが「日本アニメ(ーター)見本市」に出品されたシュートアニメ「ヒストリー機関」である。吉浦康裕監督による第29作目で、サンジゲンではTVPaintによる動画の一部を担当した。

ここでわかったデジタル作画のメリットは、正確な動画制作ができること。タップ割に合わせたいところを自動でセンタリングできるため、タップのズレを防ぐことができるのだ。サンジゲンが得意とするCGとTVPaintとの相性は良好で、紙でやると動画がおざなりになりがちな部分も、TVPaintなら3Dの動きに合わせて原画が描けるのでずっとコントロールがしやすいというメリットがある。吉浦監督もこのクオリティには満足したとのことで、仕上げからも補正の必要がないと喜ばれたという。

そして、話は最新作の「ブブキ・ブランキ」へ。サンジゲン初の元請オリジナルTVシリーズとしてスタートした同作品には、茶之原氏が各話のデジタル作画監督として参加している。同作品の最大の特徴はCG制作ながらセル画のような見え方をする"セルルック"であること。この場合、色と線は別々に出力されるため、TVPaintには線だけ読み込ませることにした。

ブブキ・ブランキは3D作画に見えるところが2Dだったり、その逆だったりもする。たとえば3Dモデリングが大変な食事のカットなどもデジタル作画が用いられているのだ。ここで課題になるのは、様々な角度へのオーダーに対して臨機応変に対応できるかどうか、そして社外アニメーターとの連携をどう構築するかということである。

フリーランスや他のスタジオと連携をとっているものの、まだまだ試行錯誤の段階。TVシリーズである以上、外部の力を借りないとカット数的に不可能なので、連携は不可欠だ。TVPaintを用いたデジタル作画がより広まることで、スムーズな制作が可能になっていくだろう。

3DCGモデルの上に、この場面だけで着用する着物の部分のみ原画を重ねて表現した場面のメイキングが公開された (C)Quadrangle / BBKBRNK Partners

現在は少しずつ浸透しつつあるデジタル作画だが、サンジゲンにしても道のりは楽なものではなかった。2014年10月にデジタル作画部が設立され、実験部署として稼動し始めたものの、手描きからの移行スタッフは1名のみ。「劇場版 蒼き鋼のアルペジオ ‐アルス・ノヴァ‐ DC」でCG描き足しと特効をデジタル作画部が担当したものの、行き当たりばったりでデータ管理ミスが発生するなど運用はうまくいかなかった。

ここから学んだのは、紙がデジタル作画の工程に入るとメリットがなくなるということ。それ以降、徹底的に紙作画と差別化を図り、デジタル作画の強みを生かした使い方を目指してきた。

転機となったのは「日本アニメ(ーター)見本市」の「おばけちゃん」で、原作の絵を生かす方法としてデジタル作画を提案。全体の6割の作画工程をデジタルで完結させ、受け渡しミスが起きないようデータの管理を徹底した。

同社は今後、TVPaintの日本語Wikiを公開予定。会場では、同社デジタル作画部の作業環境も公開された

ワークフロー自体を変化させてしまう故に様々な課題も残るデジタル作画だが、1年半かけて実践してきたサンジゲン・デジタル作画部の3名は「デジタル作画は可能性を広げるための技術」と高く評価している。