今回は「ATOK」の基本的な使い方を紹介していこう。また、予測候補や変換候補について、「Microsoft IME」と「ATOK」を比較する実験も行っている。それぞれのIMEが「どのような傾向・特長を有しているのか?」を知る材料のひとつとして、参考にしていただければ幸いだ。

  • 「Microsoft IME」と「ATOK」の比較

    「Microsoft IME」と「ATOK」の比較

ATOKの基本的な使い方

まずは、使用するIMEを切り替えるときの操作手順から解説しよう。IMEを変更するときは、タスクバーに表示されているアイコンをクリックして一覧からIMEを選択すればよい(以下の図を参照)。

  • IMEを切り替える操作

    IMEを切り替える操作

また、キーボードを使ってIMEを切り替えることも可能となっている。この場合は「Windows+Space」キーを押すのが基本だ。そのほか、Windowsの設定によっては「Ctrl+Shift」キーでIMEを切り替えられる場合もある。

  • IMEを切り替えるショートカットキー

    IMEを切り替えるショートカットキー

IMEのオン/オフは「半角/全角」キーで切り替える。ATOKの導入時にキー操作を「Microsoft IME風」に設定した場合は、「カタカナ ひらがな」キーでIMEをオンにする、「Caps Lock」キーで半角入力モードにする、といった操作にも対応している。

  • IMEのオン/オフを切り替えるキー

    IMEのオン/オフを切り替えるキー

現在の入力モードは、タスクバーに表示されているアイコンを見ると確認できる。ここに「あ」と表示されているときはIMEがオンの状態(ひらがな入力モード)、「A」と表示されているときはIMEがオフの状態、と考えればよい。

  • IMEのオン/オフを示すアイコン表示

    IMEのオン/オフを示すアイコン表示

さらに、入力モードを切り替えたときに“現在の入力モード”をポップアップ表示する機能も装備されている。このため、現在の入力モードを勘違いしてしまう可能性は低い。この点は「Microsoft IME」よりも親切な設計といえるだろう。

  • IMEのオン/オフを伝えるポップアップ表示

    IMEのオン/オフを伝えるポップアップ表示

キー操作を「Microsoft IME風」に設定した場合は、以降の操作手順も「基本的にMicrosoft IMEと同じ」と考えて構わない。このため、初めてATOKを使用する場合であっても、戸惑うことなく日本語入力を進められると思われる。

予測候補の比較

続いては、Windows標準の「Microsoft IME」と「ATOK」を比較する実験を行っていこう。まずは、予測入力の候補を比較・検証する。ATOKでは予測入力のことを「推測変換」と呼んでいるが、基本的な動作は同じと考えてよい。

以下の図は「にほん」とタイピングしたときに表示される予測候補を比較したものだ。両者とも「入力履歴(学習情報)を消去した状態」でテストを行っている。予測入力の数は「Microsoft IME」が5個であるのに対し、「ATOK」は2個しか表示されていない。

  • 予測候補の数(左:Microsoft IME、右:ATOK)

    予測候補の数(左:Microsoft IME、右:ATOK)

このままでは比較しづらいので、「ATOK」の候補数も5個に変更した状態で実験を進めていこう。念のため、その設定手順を紹介しておく。IMEに「ATOK」を選択し、ATOKパレットにある「メニュー」アイコンから「プロパティ(環境設定)」を選択する。

  • ATOKの設定画面の呼び出し

    ATOKの設定画面の呼び出し

ATOKの設定画面が表示されるので、設定項目に「推測変換」を選択し、「詳細設定」ボタンをクリックする。すると、「自動表示する候補数」を変更できるようになる。この値を「5」に変更して「OK」ボタンをクリックする。

  • 予測候補の数の変更

    予測候補の数の変更

これで、予測候補を最大5個まで表示できるようになった。さっそく、実験を行っていこう。なお、以降に掲載する画像は、左側が「Microsoft IME」、右側が「ATOK」の予測候補となる。

まずは「さとう」とタイピングしたときの予測候補を比較してみよう。両者とも「佐藤」が第1候補で、よく使われるであろう「砂糖」といった単語も予測候補として表示されている。Microsoft IMEは「佐藤様/佐藤さん」のように人名が重視されている傾向がある。一方、ATOKは「サトウキビ/砂糖水」などの候補が表示されている。

  • 「さとう」の予測候補

    「さとう」の予測候補

「かとう」とタイピングしたときも同様で、両者とも人名の「加藤」が第1候補になっている。そのほか、Microsoft IMEには「加藤様/加藤さん/加藤先生」といった候補が並んでおり、やはり人名重視の傾向がみられる。一方、ATOKは「勝とう/下等/過当」といった具合に、バリエーションに富んだ予測候補になっている。

  • 「かとう」の予測候補

    「かとう」の予測候補

続いては、「すーぱー」とタイピングしたときの例だ。両者とも、第1候補・第2候補は「スーパー/スーパーマーケット」になっているが、それ以降の候補は大きく異なる。ただし、「どれが利用頻度の高い単語か?」はユーザー毎に変化すると思われるので、これだけでは優劣を決められない。

  • 「すーぱー」の予測候補

    「すーぱー」の予測候補

最後の例は、「おいそ」とタイピングしたときの様子だ。Microsoft IMEは「お忙しいところ……」といった感じのビジネス向けの候補が並んでいる。一方、ATOKは「お急ぎ/おいそれとは」など、Microsoft IMEよりも幅広い予測候補になっている。

  • 「おいそ」の予測候補

    「おいそ」の予測候補

このように「Microsoft IME」と「ATOK」の予測候補には、それなりの差がある。とはいえ、これらはIMEの性能を直接的に評価するものではない。というのも、今回の実験は「入力履歴を消去した状態」=「学習効果ゼロの状態」になっているからだ。上記に示した結果は一時的なものであり、学習を重ねるに従って予測候補も少しずつ“各自がよく使う言葉”に変化していく。よって、予測候補の初期値を比較することに大きな意味はない。あくまで“参考のひとつ”として捉えて頂ければ幸いだ。

なお、本連載第12回で、同様のワードを「Google 日本語入力」で予測変換したときの様子も紹介している。気になる人は、あわせて参照しておくとよいだろう。

読みを間違えやすい単語の自動訂正

「Google 日本語入力」の<もしかして>機能と同じように、「ATOK」にも“勘違い”や“間違った読み”を自動訂正してくれる機能が装備されている。

以下の図は「シミュレーション」を「シュミレーション」と勘違いしていた場合の例だ。「しゅみれー」とタイピングしてもMicrosoft IMEは適当な予測候補を表示してくれない。一方、ATOKでは「シミュレーション/シミュレータ/シミュレーター/……」といった具合に、いくつかの予測候補を表示してくれる。

  • 「しゅみれー」の予測候補

    「しゅみれー」の予測候補

漢字の“読み”を間違えていた場合も自動訂正が効果的に機能してくれる。以下の図は「凡例」(はんれい)を間違えて「ぼんれい」と読んでいた場合の例だ。Microsoft IMEは「ボン零」といった意味不明な単語しか予測してくれない。一方、ATOKは《「はんれい」の誤り》という具合に、求めている候補を示してくれる。

  • 「ぼんれい」の予測候補

    「ぼんれい」の予測候補

以下の図は、「手持ち無沙汰」(てもちぶさた)を間違えて「てもちぶたさ」と覚えていた場合の例だ。Microsoft IMEはタイピングした通りに「手持ち豚さ」という候補を示すだけ。一方、ATOKは《「てもちぶさた」の誤り》として自動訂正してくれる。この例は「Google 日本語入力」の<もしかして>機能でも訂正されなかったワードとなるが、ATOKなら間違いを訂正してくれる。

  • 「てもちぶたさ」の予測候補

    「てもちぶたさ」の予測候補

このように“勘違い”や“間違った読み”を自動訂正して、求めていた単語を入力可能にしてくれることもATOKの特長といえる。その精度は「Google 日本語入力」の<もしかして>機能よりも優れているようだ。

タイプミスを類推して補正してくれる機能

ATOKには“タイプミス”を自動補正してくれる機能も搭載されている。以下の図は、「よろしく」の「ろ」を入力する際に「R」と「O」を逆の順番でタイピングしてしまった例だ。このような場合も「よろしく/宜しく」といった具合に、類推される候補を示してくれる。

  • 「よおrしく」の予測候補

    「よおrしく」の予測候補

間違って“隣のキー”を押してしまったタイプミスにも対応してくれる。以下の図は、「おねがい」の「が」を入力する際に、「G」の隣にある「H」キーを押してしまった例だ。この場合は“読み”が「おねはい」になってしまうため、Microsoft IMEの予測候補には「尾根杯」などの単語が並んでいる。一方、ATOKでは「お願い」に補正した予測候補が表示されている。

  • 「おねはい」の予測候補

    「おねはい」の予測候補

ほかにも、「あえいがとう」(RとEの押し間違い)を「ありがとう」を類推してくれるなど、タイプミスを自動補正してくれる場面が数多く見受けられた。

この機能は、もう少し長めのフレーズをタイピングしたときにも威力を発揮してくれる。以下の図は「ししゃ」とタイピングする際に、最後の「A」を押し忘れてしまった例だ。このような場合も、ATOKならそのまま文章を入力することが可能である。一方、Microsoft IMEでは、現在の“読み”を削除して、最初からタイピングをやり直さなければならない。

  • 「なごやしsyへいく」の予測候補

    「なごやしsyへいく」の予測候補

前後の文脈を読み取って“適切な漢字”を示してくれることもATOKの魅力といえる。以下の図は、先ほどと同様に「ししゃ」の最後の「A」を押し忘れてしまった例だ。今回の例では「支社」ではなく、「試写」という漢字が提示されている。

  • 「えいがのしsyをおこなう」の予測候補

    「えいがのしsyをおこなう」の予測候補

このように多少のタイプミスがあっても、それを類推して自動補正してくれるのがATOKの特長といえる。タイプミスが多い人にとっては、この機能だけでも「サブスク料金を支払うだけの価値がある」といえるかもしれない。

漢字変換候補の比較

最後に、「Space」キーを押して漢字変換を行ったときの様子を比較しておこう。これまでと同様に、左側が「Microsoft IME」、右側が「ATOK」のキャプチャー画面となる。ちなみに、両者とも入力履歴(学習情報)を消去した状態でテストを実施している。

まずは「さいこう」とタイピングして漢字変換した場合の例だ。どちらも第1候補は「最高」で、第2候補が「再考」となっている。それ以降の候補の並び順は異なるが、両者とも概ね“利用頻度の高い順”になっている、と考えられるだろう。

  • 「さいこう」の変換候補

    「さいこう」の変換候補

「しかい」を漢字変換したときの候補も紹介しておこう。こちらも第2候補までの並び順は同じで、「司会」→「視界」という変換候補が提示されている。第3候補以降は多少の差が見られるものの、優劣を決するような差ではなく、各自の好み(用途)の問題といえる程度の差でしかない。

  • 「しかい」の変換候補

    「しかい」の変換候補

「過程」と「課程」のように、どちらを使用すべきか迷ったときに参考になる辞書機能も装備されている。まずは、Microsoft IMEで「かてい」を漢字変換したときの様子から紹介していこう。

  • 「かてい」の変換候補(Microsoft IME)

    「かてい」の変換候補(Microsoft IME)

続いて、ATOKで「かてい」を漢字変換したときの例だ。この例を見ると、ATOKのほうが辞書から得られる情報や用例が多いように思われる。

  • 「かてい」の変換候補(ATOK)

    「かてい」の変換候補(ATOK)

もちろん、前後の文脈をもとに“適切な漢字”を自動選択してくれる機能も備わっている。以下の図は、「しゅうしかていをしゅうりょうする」とタイピングして漢字変換した場合の例だ。

  • 文章を変換した様子

    文章を変換した様子

「かてい」だけを漢字変換したときの第1候補は両者とも「家庭」であったが、文章として入力した場合は、適切な漢字である「課程」が自動選択されている。「しゅうりょう」の漢字も「終了」ではなく、「修了」に正しく変換されている。

このように長いフレーズを一気にタイピングするほど、適切な漢字が自動選択されるようになる。さらに、学習機能により候補の並び順が刻々と変化していくことを考慮すると、ここで紹介した「変換候補の並び順」は“あくまで参考”として捉えるのが基本といえる。それよりも各IMEならではの特長を重視すべきだ。ということで、次回は“ATOKならではの機能”について詳しく紹介していこう。