Plug and Play Japanは10月21日~22日、イノベーションを促進する年次イベント「Japan Summit 2026」を開催した。イベントには、スタートアップや大企業の新規事業担当者だけでなく、投資家、官公庁、研究機関などが集う。

初日のオープニングセッションには、『サマーウォーズ』(2009年8月公開)などで知られるアニメーション映画監督の細田守氏と、ヘリカル型核融合炉の開発を通じてフュージョンエネルギーの実用化を目指すHelical Fusion 共同創業者 代表取締役 CEO 田口昂哉氏が登場し、「AI時代に人類は何を探究するのか」を語り合った。

  • トークセッション写真

登壇者(左から) 西山イサム氏:Plug and Play Japan, Director, Insurtech(モデレーター)
細田守氏:アニメーション映画監督
田口昂哉氏:Helical Fusion 代表取締役 CEO

AIと人間は敵か味方か? 細田監督が描く両者の関係

まず最初のトークテーマは、ゲストの2人が昨今のAI時代をどのように見ているのかだ。

田口氏は「数十年前に人類が思い描いていたAIと、今のAIは同じなのか違うのかが気になる。最近のAIはあまり面白くない方向に収れんしている気がしており、人類がAIを今後どうしていきたいのかが気になっている」と話していた。

  • 田口昂哉氏

    田口昂哉氏

映画『サマーウォーズ』では、仮想世界「OZ(オズ)」の中でAI「ラブマシーン」が暴走して現実世界にも影響を及ぼす中、主人公とヒロインの一家が団結しながら奔走する様子が描かれる。

同じように、SF作品ではAIが暴走したり人類をおびやかしたりする作品が多く、憧れと同時に恐怖の側面も描かれてきた。

これに対し細田監督は「AIと人類は二元論的なものではない。どちらが優れているとかではなく、両方があって私たちの社会であり、敵味方とか良し悪しでは語れない。僕としては技術の発展や未来を肯定的に描いてきたつもり」と話す。

  • 細田守監督

    細田守監督

実際、『サマーウォーズ』や『竜とそばかすの姫』を見た人からは、「IT企業への警鐘を鳴らしているのでは」と言われる機会も多いのだという。しかし細田監督はこれを否定していた。

「自分自身って1つのようで、実はいくつもあるはず。例えば仕事先や親の前、友人の前では、異なる自分を見せている。バーチャル世界の自分も、AIを使う自分も、その社会の中に内包されているようなイメージ」(細田監督)

「AIに企画を任せるのはもったいない」創造する喜びとは

対話型の生成AIが登場して数年、現在ではAIに任せられる業務も増えてきた。悩みごとの相談や、壁打ちの相手としてAIを活用している人も多いだろう。話題は「AIと人間の創造性」へと移った。

細田監督は「何かを作ってみようという気持ちこそが人間らしさだと思う。AIは今のところ、過去の膨大なデータからそれらしいものを作っているだけで、意思があるわけではない。誰もやったことがないことこそ、人間の原動力になる」と話した。

続けて「企画の内容までAIに相談する人がいるが、企画って本来は思いついたらワクワクして実現せずにはいられないものだと思う。こんなに楽しいものをAIに預けてしまったらもったいない」とも話していた。

その一方で、「たとえ相手がAIじゃなくて石ころでも、人間は願いを掛けて応えてほしいと思うもの。その行為自体はとても人間らしい」との見方も示していた。

田口氏も細田監督に同意見だ。「自分の中から出てくる企画でないと、本当の意味で楽しめない。5年前に会社を立ち上げたときは、利益とかIPOのことは考えていなかった。私は、星のエネルギーともいえる核融合を人類が史上初めて実現するところを見てみたいと思っている」と語った。

田口氏は地道に段階を積めば成功することが見えているのであれば、起業はしなかったのだという。誰も成功していない技術だからこそ、そのゴールに向かうまでの営み自体を楽しんでいるそうだ。

セッションの冒頭に同氏は「最近のAIはつまらないと感じる」と口にしていた。この発言には、ゴールまでの道中を楽しみたいという気持ちが表れているのだろう。

こうした田口氏の意見に対し細田監督も「アニメや芸術は答えのない問いを考え続ける行為で、問い続けることでしかたどり着けない答えがあるはず。僕がAIについて考えるとき、同時に考えるのは人間てなんだっけ?ということ。鏡とか、コインの裏表のようなものだと思う」と、改めて強調した。

  • 細田守監督と田口昂哉氏

AIが進化する時代、人間にとって「成長」とは何か

AIの成長速度が著しい現代、人類の成長とどんどん乖離しているようにも見える。そんなAI時代に人間はどのような成長をしていくべきなのだろうか。

モデレーターからの問いに対し田口氏は「成長は大事な概念だが、人間は一様な存在ではないので成長の定義が難しい。産業革命以降の資本主義は、脱落したら搾取されるレースのようになっているので成長が分かりやすいが、それはせいぜい過去200年ほどの話。本当に人類が目指す成長の価値観なのかは分からない」と回答。

一方の細田監督も「AIによって産業革命以来の変革が起こる中で、未来のビジョンが見えなくなり右往左往するというコミカルなムードすら感じる。アニメーターとして申し上げるならば、人間は過去4000年くらい絵を描きながら人間とは何かを表現してきた。その答えは今も出ていないし、これからも出ないと思う。でも、AIの登場によって考えやすくなっているかもしれない」とコメントした。

2人の発言からは、成長を一律の尺度で捉えるのではなく、人間にとって何が価値を持つのかを問い直す姿勢がうかがえた。

『サマーウォーズ』の「あのシーン」が問いかける人間の価値性

田口氏は『サマーウォーズ』の中で、以前は苦手な場面があったという。だが、最近になって作品を見返したところ、その人間ならではの示唆的なシーンに対して印象が変わったそうだ。

【ネタバレ注意】当該のシーンあらすじ(クリックで表示)

祖母・陣内栄の死後、主人公の健二と陣内家の面々は、暴走するAI「ラブマシーン」に対抗するべく、作戦の要となるスーパーコンピュータを大量の氷によって冷却していた。
ヒロインの又いとこである陣内翔太はその氷の重要性を知らず、亡くなった祖母・陣内栄の遺体を暑さから守ろうとして、冷却用の氷を次々と運び出す。翔太は栄に「涼しいかい、ばあちゃん」と声を掛ける。
結果としてコンピュータは熱暴走。翔太に悪意はなかったが、祖母を思う善意の行動が思わぬ形で作戦を崩壊させ、危機を招いた。

細田監督も「映画を見た方から、あいつだけは許せないとコメントをもらうことがある」と発言し、会場の笑いを誘った。さすが会場の聴講者は、みなまで言わずともどのシーンを指すか想像が付いているのだろう。

細田監督は「ラブマシーンというAIに対抗する陣内家は、社会をなぞらえて描いた」と補足した上で、以下のように解説した。

「人間とAIとか、社会とAIとか、そういうものを考えたときに、きっと余計なことをする人もいるだろうなと思って(当該のシーンを)描いた。でも、そういう人こそ、ひょっとしたら人間にとって本当に大事なことを教えてくれるのかもしれない。AIからの答えでは返ってこないものを大事にしていたい」

AIと人間はどちらが優れているのか、つい二元論的に語りたくなってしまう。資料作成やアニメーション作成もAIが代替できる現代であるが、2人ともAIの使い方に共通のこだわりが感じられる。

田口氏は「人に見せる資料は、絶対にAIでは作らないようにしている。それは、自分がAIによって作られた資料を見たくないからであり、いくらフォントやデザインがまとまっていなくても、作った人の意思や思いがこもったものを見たい」と述べていた。

細田監督も同様に「アニメーション作りがAIによって変わってしまうという意見もあるだろうが、手で描かなくなった現代に、手で描くことの価値が再認識されている」と話す。

後で聞いた話だが、細田監督は事前の情報収集にもAIを活用するのではなく、自分で調べることを大事にしているそうだ。

「企画やクリエイティブな作業において、AIは役に立たないと思う。それは自分で考えた企画でないから、動機と結びつかない。AIによって調べものの精度は上がると思うけど、結局は自分が手を動かして調べたものの方が自分の身になっている感覚」(細田監督)

  • 細田守監督と田口昂哉氏

確かにAIは非常に便利だ。文章の執筆も画像生成も目を見張る速さで精度が上がっており、その流れは今後も加速していくだろう。しかし、このセッションを通じて感じたのは、人間の価値は効率や正確性だけでは測れないということだった。

「AI時代に人類は何を探究するのか」を探る対談の中で、無駄かもしれないけど誰かのために手を動かすこと、遠回りでも自分で調べてみること、正解がなくても失敗しても悩みながら前に進むこと。そんな少し不器用な営みにこそ、人間らしさが宿るのかもしれないと思った。

  • 細田守監督と田口昂哉氏