セキュリティ研究者のQuentin Kaiser氏は2026年10月16日(現地時間)、「One Parser, Two Bugs, Many Routers: Exploiting Broadcom WiFi Across eCos and Linux|QTNKSR」において、BroadcomのWi-Fi関連ソフトウェアに未修正の脆弱性が存在すると報告した。

脆弱性は2010年以降の同社のソフトウェア開発キット(SDK: Software Development Kit)に存在し、攻撃者は対象機器のWi-Fi電波が届く範囲にいる必要があるものの、ネットワークキーを知らず、通常のWPS登録を完了していない状態でも攻撃できる。影響は複数メーカーの製品に及び、世界各地のBroadcom製チップ搭載アクセスポイントが対象となる可能性がある。

2018年の修正が不完全、複数メーカーのルータに影響か

問題は、Broadcom独自のWi-Fi Protected Setup(WPS)実装において、分割されたEAP-WPSメッセージを再構成する処理に存在する。細工したデータによってバッファオーバーフローが発生するという。

Kaiser氏によると、Broadcomは2018年に修正を提供したが、不完全で問題は解消されなかった。Broadcomはその後、代替実装としてhostapdへの移行を推奨した。このため、組み込みOSのeCos(Embedded Configurable Operating System)を採用するBCM3380、BCM3383、BCM33834搭載機器に脆弱性が残り、Linuxを採用するBCM3390、BCM65xx、BCM68xx搭載機器でも、メーカーが移行に踏み切らなければ脆弱性が残る恐れがある。

同氏はベルギーのインターネット接続事業者4社のうち3社に対する試験で、悪用可能であることを実証した。公開された実証動画では、ASKEY TCG3000への未認証のリモートコード実行を通じて、攻撃者が不揮発性メモリからWi-Fiの事前共有キー(PSK)を取得し、無線経由で送信する手順が示された。ProximusのBBOX 3V+でも、802.11フレームを利用して遠隔シェルを確立する様子を紹介している。

Kaiser氏は、脆弱性の影響を受ける機器の一覧も公開している。対象にはCisco、TP-Link、Netgear、Nokiaなど、複数メーカーのルータやアクセスポイントが含まれる。主な機器は以下のとおり。

メーカー 主な機種
Cisco RV110W、RV130W、RV215W、RV340W、WAP121など
TP-Link Archer C3150、Archer C5400、Archer VR600、Archer VR900など
Netgear CG3100、CG3700B
Nokia G-140W-H、G-240Wシリーズ
ZTE F680 v4、368N
Zyxel VMG3312-B10A、VMG3312-B10B
Askey TCG3000、RTF3505VW
Sagemcom F@ST 3864、F@ST 4353、F@st 5336

出典:Quentin Kaiser氏公開の影響機器一覧から抜粋。掲載機種でもハードウェアやファームウェアのバージョンによって影響状況が異なる可能性がある。

ただし、一覧は網羅的なものではなく、同じ機種でもハードウェアやファームウェアのバージョンによって影響が異なる可能性がある。Kaiser氏は、一覧に掲載されていない機器でも脆弱性が存在する可能性があるとしている。

脆弱性はCVE未登録、研究者が調査協力を呼びかけ

対象の脆弱性は脆弱性情報データベース(CVE: Common Vulnerabilities and Exposures)に登録されておらず、追跡されていない。Kaiser氏は登録を求めたが、CVE番号付与機関の1つであるBroadcomが登録を拒否したため、ケース開設の当日にクローズされたと報告している。

Broadcomへの通知は7月18日に行われた。Broadcomは7月28日、修正パッチが利用可能であると回答し、影響を受ける機器のメーカーから同社に問い合わせるよう求めた。しかし、Kaiser氏によると、10月15日時点でも検証対象の機器は修正されていなかった。

その後、Kaiser氏はISP各社とも連絡を取り合ったが、解決に向けた建設的なやりとりには至らなかった。そして通知から90日後の10月16日、責任ある情報開示に基づいて脆弱性情報を公開した。

同氏はBroadcomが2018年から問題を認識し、外部組織からも情報を受け取っていたと説明。一方、影響機器を提供するメーカーや通信事業者がどのような措置を講じたかについて、同氏は情報を得ていない。影響はベルギーに限らず、製品が流通する他地域にも及ぶ可能性がある。

最後に、脆弱性の特定にはAIの先端モデルが活用された。同氏は単独なら数カ月を要した調査だったが、AIによって1週間未満で進められたと述べた。また、影響範囲の把握を支援するフィンガープリント用スクリプトとYARAルールを公開し、調査への協力を呼びかけた。

なお、WPS機能を設定画面で無効にしても、脆弱な処理が完全に停止するとは限らない。利用者は機器メーカーや通信事業者に修正済みファームウェアの提供状況を確認する必要がある。