AI活用が進む一方で、多くの企業が成果を出せていない。CelonisはFY27戦略発表会で、AIと業務を結び付ける鍵として「プロセスコンテキスト」とエージェントマイニングを提示し、エンタープライズAIの実現像を語った。

AI時代に求められる「プロセスコンテキスト」

Celonisは2011年に創業し、業務システムに蓄積されたログデータをベースに、実際の業務プロセスを可視化・分析し、非効率やボトルネックを明らかにする手法「プロセスマイニング」のパイオニア企業だ。近年ではプロセスマイニングではなく「プロセスインテリジェンス」に進化し、企業のエンタープライズAIの実現に向けてソリューションを提供している。

まず、Celonis 代表取締役社長の村瀬将思氏は「AI駆動オペレーション」について解説。昨今、国内企業ではAX(AIトランスフォーメーション)が大きなテーマとなっているが、労働力不足を補うためにAIエージェントの活用による生産性改善を期待するも、多くの企業でRoAI(Return on Artificial Intelligence:AI投資利益率)を実現できていないという。

  • 多くの企業でRoAIを実現できていないという

    多くの企業でRoAIを実現できていないという

こうした現状を鑑みて、同氏は「データとAI活用の間を埋めるプロセスコンテキスト(文脈)が重要となるが、欠如してしまっていることが大きな問題。加えて、ノウハウを持つ社員の退職など暗黙知をAIで形式化し、業務の中に組み込まなければならない」と指摘する。

  • Celonis 代表取締役社長の村瀬将思氏

    Celonis 代表取締役社長の村瀬将思氏

そのような状況下において、Celonisでは2025年6月~7月にかけて5つの地域で320人、4つの部門で400人を対象に1649件の調査を実施。

これによると、約9割の企業が複雑な問題を解決するために、すでにマルチAIエージェントを活用または導入を検討しているが、社内の専門知識不足(47%)とビジネスコンテキストのAI側の理解(45%)が障壁になっている。

また、企業内のサイロ化が効果的なAI導入を阻害し、エンタープライズAIの実現に向けた競争優位性が必要を認識しているものの、こうした状況では失いかねないと感じているようだ。同様にGartnerの調査によると、2027年末までにエージェント型AIプロジェクトの40%以上が頓挫すると予測されている。

村瀬氏は「AIエージェントはコンテキストが必要であり、管理していくことも重要。基本的に社内システムは分断されていて部署ごとに異なる目標があり、チームがサイロ化しているがゆえに、コンテキストは人間の頭の中にしかない。エージェント同士がデータを共有しないと全社的なエンタープライズAIは実現できない。高度なAIであっても企業独自の業務プロセスなどの依存関係を形式化しなければ、ミッションクリティカルな業務では機能しない」と断言する。

プロセスコンテキストを実現する4つの中核技術

そこで、Celonisはプロセスコンテキストで支援する。同氏は「コンテキストを持たないAIは大きな価値を出せず、個別最適のユースケースにとどまりがちだ。業務プロセス、ルール、依存関係を抽出・構造化して、AIの判断・自動化の前提を整備することが不可欠」との見解だ。

  • Celonisではプロセスコンテキストが重要だという

    Celonisではプロセスコンテキストが重要だという

プロセスコンテキストを具体化する技術として「ゼロコピー連携」「マルチモーダルAI」「OCPM(Object Centric Process Mining)」「エージェントマイニング(自律的最適化)」の4つを挙げている。

ゼロコピー連携は、Microsoft FabricやDatabricksなどのデータプラットフォームとゼロコピー連携で直接活用を可能としている。マルチモーダルAIは非構造化データを解析し、業務上の意味を持つオブジェクト/イベントとして認知し、取り込む。

OCPMは2024年から同社ソリューションへの適用を開始しており、複数プロセスを横断的にマイニングを行い、構造化・半構造化、非構造化データを取り込み、AIが効率的に推論・実行できる形にする。

エージェントマイニングは、OCPMのデータからAIエージェントが自律的にアクションを実行し、その結果をフィードバックしてプロセスの改善・最適化を継続的に行う。

  • Celonisではプロセスコンテキストが重要だという

    プロセスコンテキストを支える4つの技術基盤

プロセスコンテキストは、これらの技術を用いてデータプラットフォームに蓄積されているデータをCelonisのデータソースとして使い、システムデータや非構造化データを集約し、生データをプロセスのデジタルツインに変換する。

次にデジタルツインとして技術用語ではなく、プロセス観点でビジネスコンテキストを生成し、オペレーションにおける「誰が、何を、いつ、どこに、なぜ」を網羅して、一時的な改善で終わらせない仕組みとする。

そして、ADO(Analyze、Design、Operation)モデルによるAIエージェントの作成、実行、管理を行い、コンテキストを活用し、プロセス自動化や各種エージェントとの連携でAI駆動なオペレーションを実現するという。

  • Celonisのプロセスコンテキストが実現するAIの活用

    Celonisのプロセスコンテキストが実現するAIの活用

戦略の中核に据えるエージェントマイニングとPlatform play

続いて、FY27の戦略について説明に入った。今後、同社では「エンタープライズAI」「エンタープライズITモダナイゼーション」「サプライチェーン変革」の3つを注力領域に位置付けている。

注力領域を進めていくにあたり、前述したエージェントマイニングが鍵を握るようだ。村瀬氏は、事故発生時における損害保険会社への保険金請求プロセスで受付・査定エージェント間で要件不一致によるループが発生し、処理が前に進まないユースケースを挙げた。

同氏は「改善アクションとして判定基準を統一し、エージェント間の往復回数が閾値(例:3回)を超えた場合は強制的に人にエスカレーションするが、うち半分が人にエスカレーションしていてはエージェントの意味がない。そのため、AIのコストなどビジネス効果の把握と、AIから人へのエスカレーション原因の特定・対策が課題になる」と話す。

エージェントマイニングは、こうしたAIエージェントの振る舞いを新たな分析対象として捉える考え方。従来のプロセスマイニングが人やシステムの操作ログを分析対象としていたが、エージェントマイニングはAIエージェントが「いつ、どのプロセスで、何を判断・実行したのか」をイベントログとして可視化・分析する。

これにより、エージェントの暴走や期待外れの挙動を防ぎ、業務プロセスと整合した形でAIエージェントを改善・統制できるようにするという。

  • エージェントマイニングの概要

    エージェントマイニングの概要

一方で「Platform play」と呼ぶ取り組みも進めていく。データの意味を統合する基盤層であるセマンティックレイヤは、静的なデータ定義であり、AIへの価値は個別データ解釈にとどまる。そのため、OCPMにより、実業務の実行構造に変換し、動的・時間・N対Nの連鎖反応の構造とし、複数システム・部門を横断する業務課題に対して適切な推論や判定が可能になるとのこと。

村瀬氏は「セマンティックレイヤだけではできない領域をOCPMがカバーする。データレイクやセマンティックレイヤを否定しているわけではなく、先ほど紹介したゼロコピー連携を使い、データプラットフォームのデータをそのままCelonisで使うことで有益な分析、業務改善が可能だ」と力を込めていた。