企業のIT予算の約80%が維持管理に消え、AIが瞬時にコードを書き上げる時代。もはや情報システム部門は、従来どおりのシステムの“お守り”や現場の御用聞きを続けていては生き残れない。
3月4日に開催された「TECH+セミナー情シスの業務改革 2026 Mar. for Leaders ITリーダーのための突破口 複雑化するIT環境に挑む、情シスの実践ロードマップ」に、ecoBiz 代表取締役社長の進藤広輔氏が登壇。コストセンターから、利益を生み出すビジネスプロデューサーへと情シスが生まれ変わるための、AI時代の実践的なサバイバル戦略を語った。
「引き算」の限界、コスト削減から価値創出への転換
冒頭、進藤氏は多くの日本企業が抱えるIT予算の構造的な課題を指摘した。
「現在、一般的な企業のIT予算の約80%がいわゆる維持管理、つまり現状を維持するためだけに消えていると言っても過言ではありません。例えるなら、古いビルの雨漏りやひび割れを直す補修工事にのみ予算を充てていて、新しいビルを建てる資金が残っていない状態です。2026年の今、このコスト構造を放置することは、企業の成長停止、すなわち“緩やかな死”を意味します」(進藤氏)
経営層から「ITを使ってコストを削減しろ」という要求が出されることは珍しくない。しかし、100のコストを90にする“引き算の努力”には必ず限界がある。一方で、AIやクラウドなどのテクノロジーを活用し、今までできなかったことを可能にする“掛け算の投資”には限界がないと同氏は語る。
そこで進藤氏が提唱するのが、リソースシフト戦略だ。
「守りのITの自動化・効率化を前提とした再出発をしましょう。これまで定型業務を自動化したいという話はありましたが、今後はAIやSaaSを用いて徹底的に無人化を進めます。これは単なる効率化ではなく、戦略的なリソースの解放です。『守り』に張り付いていた優秀な人材を新規事業創出などの『攻め』の領域へ一気にシフトさせる。守りはAIに任せ、人間は未来をつくる。これが情報システム部門の新しい在り方です」(進藤氏)
アプリは消耗品、データは資産 - AIが変える開発の常識
AIの出現は、システム開発の概念を根底から覆した。進藤氏は「コードを書く価値から、AIを使いこなす価値への大転換が求められている」と指摘。AIに何をさせ、どの課題を解決するかというプロデュース能力の重要性を訴えた。
システム開発の考え方も、AI時代に合わせて変革する必要がある。その鍵となるのが、データ・セントリック・アーキテクチャだ。
「システムという器にこだわって投資をする時代は終わりつつあります。アプリケーションは3年も経てば古くなる消耗品ですが、そこで使われているデータは100年経っても腐らない資産です。器はAIで安くつくり上げ、古くなれば捨てる。しかし中心にある統合データ基盤だけは徹底的に磨き上げ、あらゆるシステムやデータをつないでいく。アプリは入れ替わってもデータ資産は溜まり続けるというマインドセットへの転換が企業の明暗を分けます」(進藤氏)
システム開発のゴールも納品ではなくなる。現場で使われ、ユーザーのフィードバックを受けてAIが自律的に学習し、100点から120点、200点へと成長し続けるシステムサイクルをつくることこそが、これからの情シスの責務なのだ。
一方で、進藤氏はAI活用に伴うリスク管理の重要性にも言及した。シャドーITやシャドーAIの存在を「現場からの期待の裏返しであり、情報システムに対する不満の表れ」と位置付けたうえで、「『禁止』の2文字で封じ込めるのではなく、現場が安心してAIを使い倒せるガードレールを整備することが情シスの新しい役割」だと語った。
御用聞きを卒業し、真の課題を突く「ビジネスプロデューサー」へ
こうした変化のなか、情報システム部門の役割も大きく変わらざるを得ない。進藤氏は「我々は『システム部』から『ビジネス部』あるいは『ビジネス成功部』へと名称を変えるようなイメージを持つべき」と提案する。
現場から「こんなシステムが欲しい」と言われてつくったものの、うまくいかなかった経験は多くの情シス担当者が持つだろう。同氏はこれを「御用聞き思考の限界」と表現し、「現場の要望を100%聞くシステムは100%失敗する」と断じた。表面的な要求の裏にある真の経営課題を掘り起こし、テクノロジーを用いて最短距離で解決する。それがプロデューサーとしての情シスの存在価値だという。
そのために不可欠なのが、経営言語への翻訳力だ。進藤氏は、「システムの冗長化・高可用性」を「機会損失の最小化」、「レガシー基盤の刷新」を「変化への即応力の確保」などと言い換える例を紹介。「経営陣に専門用語は通じない。数字で語れるようになって初めて、IT投資は戦略的投資として実感される」と強調した。
さらに進藤氏は、ビジネスプロデューサーとしての行動指針として「現場主義」「データ」「越境」「仮説検証」「スピード」の5つを掲げた。物流倉庫や営業の最前線に足を運び、現場の課題を肌で感じること。勘や経験ではなく客観的データを判断の軸にすること。「それは他部署の仕事だ」という壁を壊して自ら事業に踏み込むこと。完璧な設計を待たずにプロトタイプをつくって市場に問うこと。そして100点の納期遵守よりも60点の即時リリースを優先すること。「デスクで考えるのではなく、現場に出て現場で動く組織へ変わっていく必要がある」と進藤氏は訴えた。
さらに、組織の在り方やKPIも見直さなければならない。発注者と受注者という壁を壊し、事業部門と情報システム部門が統合されたプロダクトチームをつくることが重要だ。ベンダーとの関係についても、「下請け」ではなく、ビジネスゴールやリスクと報酬を共有し合う「戦略的共創パートナーシップ」へと移行していくべきだと同氏は語る。
「これからの情シスのKPIは、システムの稼働率ではなく、『ビジネスプロセスのリードタイムをどれだけ短縮できたか』『新機能の導入によって売上貢献度がどれだけ上がったか』といった指標に変わるべきです。バグがゼロであることを自慢するのではなく、新しいアイデアをどれだけ早くかたちにできたかを評価の軸にしなければなりません」(進藤氏)
情シスが変われば企業は変わる、まずは1つの小さな成功から
最後に進藤氏は、変革を推進するITリーダーに向けて、次のようにエールを送った。
「AIを活用したからといって、いきなり全社を変革できるわけではありません。まずは1つの業務、1つの部署で劇的な成果を出し、その小さな成功を社内で思い切り言いふらしてください。そこから熱量が生まれ、全社変革のエンジンとなっていきます」(進藤氏)
そして、AIによる仕事の代替に不安を抱くメンバーに対しては、リーダーが寄り添い、マインドセットをアップデートしていくことが不可欠だという。
「『単純作業から解放され、創造的な仕事に集中しよう』『テクノロジーという武器を使って自分の市場価値を高めよう』と、部下の背中を押すことがリーダーの役割です。2026年、情シスはコストの番人から経営の主役へと躍り出るチャンスを迎えています。情シスが変われば企業は変わる。次世代経営の中心地となる情報システム部門の皆さまとともに、日本のビジネスの未来を創っていきたいと思います」(進藤氏)




