Google Cloudは3月18日、ゲーム体験におけるGoogle Cloudの生成AI活用事例に関する記者説明会を開催した。説明会では、スクウェア・エニックスの担当者が「ドラゴンクエストX オンライン」に対するGoogle Cloudの事例を紹介した。
ゲーム業界を取り巻く環境と「壊れた」収益モデル
冒頭に、Google Cloud ゲーム インダストリー グローバル ディレクターのジャック・ビューザー氏が登壇し、現在のゲーム業界を取り巻く状況を説明した。
グローバルにおけるゲーム業界の市場は2025年に消費者支出が前年比5.5%増の1960億ドルと過去最高を記録している一方で、ゲーム会社の営業利益は年平均7%の減少が続いている。利益率はパンデミック前の水準を下回り、収益が拡大しているにもかかわらず、収益性の圧迫が顕在化しているという。
また、市場成長の7割弱が「Roblox」という単一のUGC(User-Generated Content:ユーザーが自発的に制作・発信したコンテンツ)プラットフォームに集中。また、世界における総プレイ時間の半分以上が6年以上前にリリースされたタイトルに費やされており、新作タイトルがプレイヤーの時間を獲得することが難しくなっている。
ビューザー氏は「開発コストも急増しており、2017年以降で約90%増加した。昨年だけでもコンテンツへの投資額は400億ドルに達し、ゲームスタジオは利用可能なプレイ時間が半分以下に縮小しているが、ほぼ倍のコストを投じて競争している状況。このコスト構造は、すでに機能不全のモデルだ」と指摘する。
Living Gamesが描く、AIと共に進化するゲーム体験
こうした課題への解決策として提唱されたのが「Living Games」だ。これは、ライブサービスとAIを融合させ、各プレイヤーに適応するゲーム体験を実現するという考え方となる。ゲームがプレイヤーを理解して動的かつパーソナライズされた形で反応し、開発者にとってはAIで効率化することで、革新的な体験を迅速・容易に構築できるようになるとしている。
そして、AIによる変革は開発工程、ビジネス構造、プレイヤー体験にも貢献するとのこと。同氏は「ライブ運営、事業戦略、マーケティングといった業務にもAIを活用することで、俊敏かつデータドリブンな事業運営が可能になる。ライブサービス基盤とリアルタイムAI推論の融合により、プレイヤー体験は高度に個別化されていく」と述べている。
これまで、ゲーム内のAIはプレイヤーが倒すべき「敵」として設計されてきたが、これからのAIはプレイヤーの「バディ(相棒)」に進化すべきだという。
ビューザー氏は「バディは難解なパズルを手助けし、敗北した後には励ましの言葉をかけ、達成を喜び合う存在となる。これは、対立ではなく寄り添いを重視する“ゲームプレイの感情的な未来”を形成するものだ。こうした体験においては、信頼性と即時性が不可欠。友人のように感じるためには、応答が瞬時である必要があり、言語だけでなく、ゲーム内の状況を同時に理解するマルチモーダルな認識能力が求められる」と強調する。
このLiving Gamesの実装を支える技術が、AI統合プラットフォーム「Vertex AI」の「Gemini Live API」を通じて利用する「Gemini API」だ。同ツールは低遅延でマルチモーダルな対話を可能とし、プレイヤーの発話を理解しながら、同時にゲームプレイの文脈を把握することができる。
「ドラゴンクエストX オンライン」で進むAIバディの実装 - 生みの親・堀井氏の想い
続いて、スクウェア・エニックス 『ドラゴンクエストX オンライン』ショーランナーの安西崇氏と、同AI & エンジン開発ディビジョン ジェネラル・マネージャーの荒牧岳志氏が導入事例を解説した。
ドラゴンクエストシリーズは日本の代表的RPG(ロールプレイングゲーム)であり、1986年の第1作からシリーズ累計出荷本数は9700万本にのぼる。
安西氏はショーランナーという役職だが、ゲーム開発ディレクターとして開発を統括すると同時に、運営とユーザーをつなぐ役割も担っている。同氏は「ドラゴンクエストX オンラインは今年8月で14周年を迎え、月間数十万人のドラクエ好きが遊ぶ“巨大な遊園地”に成長した一方で、新規ユーザーが孤立しがちという課題があった」と話す。
このような課題を解決するため、ドラゴンクエストX オンラインにおいて対話型AIバディ「おしゃべりスラミィ」の開発を決めた。開発に至った背景としては、ドラゴンクエストシリーズ生みの親である堀井雄二氏との会話がきっかけだったという。
安西氏によると「堀井さんは『村人やNPC(Non-Player Character)にAIを入れるのではなく、一緒に遊ぶ友達や仲間としての方が良いのでは』と話していた。その考えに共感し、困ったときに助言してくれる親しい友人のようなAI体験を目指した。企画当初から友達として交流できることを重要視してきた」と経緯を語る。
対話型AIバディ「おしゃべりスラミィ」の狙いと設計思想
おしゃべりスラミィは一般的なFAQではなく、プレイヤーの行動・状況をトリガーにスラミィもプレイヤーに話しかけるなどインタラクティブな設計とし、プレイヤー専用の非公開チャットのため会話は当人のみに表示され、他プレイヤーには非表示となる。ドラクエの世界観に溶け込む伴走者体験の実現を目指しているほか、AIに対する意識や敷居を下げるためにスタンプ機能も用意。
開発を主導した荒牧氏は、Google Cloudの選定理由について「Gemini APIとGoogle Cloudの他のサービスを組み合わせ、レスポンスの高いUX(ユーザー体験)を提供できると確信した。また、Geminiはかなりカスタマイズできるため世界観に合わせることが可能なほか、マルチモーダル機能でプレイヤーの行動・状況を理解できる。そして、Google Cloudとのパートナー体制を築き、スピード感を持った開発が可能だったため選定した」と説明している。
今後、さらなる技術的なブラッシュアップなどに取り組むため、スクウェア・エニックスでは3月21日(土)~同30日(月)の期間でおしゃべりスラミィのクローズドベータテストの参加者をドラゴンクエストX オンラインのプレイヤー専用Webサイト「目覚めし冒険者の広場」で募集する。
安西氏は最後に「今回、Google Cloudとドラゴンクエストが1つの形になり、新たな一歩になればと考えており、ゲームとAIの新しいブレークスルーとともに未来を築いていきたい」と意気込みを述べていた。









