【政界】第2次高市早苗内閣が発足 求められる「成果」、のしかかる「責任」

首相・高市早苗は18日に召集された特別国会で首相に再任された。同日夜に全閣僚を再任し、第2次内閣を発足させた。内閣の顔ぶれは変わらないものの、衆院選で自民党を歴史的圧勝に導き、「国民の期待」を背負った高市にのしかかる責任は格段に重くなった。「責任ある積極財政」、飲食料品の消費税ゼロの実現、防衛力強化に向けた国家安全保障戦略など安保関連3文書の改定……。高市は公約した数々の政策を実現できるのか。「成果」が問われる。

始動した「高市内閣2.0」

「先の総選挙において、70年余りの自由民主党の歴史の中で、最も多い議席数によって高市政権を信任してくださった。責任の重さを胸に刻み、様々なお声に耳を傾けながら謙虚に、しかし、大胆に政権運営に当たる」。第2次内閣を発足させた高市は18日夜、首相官邸で記者会見し、こう切り出した。

 衆院選で自民党が獲得した議席数は316。一時は党勢衰退が懸念された自民党は3分の2(310議席)を超える巨大政党へと変貌した。単独の政党が衆院で3分の2超の議席を獲得するのは初めてだ。

 高市は会見で「自民党単独で3分の2超の議席を獲得したことで、私が大きな権力、白紙委任状を得たという方もいる。そのようなつもりは全くない」と語る一方、こう強く宣言した。

「本日より高市内閣2.0の始動です」

 政策実現への強い思いがにじんだ。高市がその政策を詳細に語ったのが、2日後、衆参両院の本会議で行った施政方針演説だった。「本国会で力強い経済政策と力強い外交・安保政策を推し進めるべく広範な政策を本格的に起動させる」と宣言した高市は、今夏に「日本成長戦略」を策定すると明言し、「とにかく成長のスイッチを押して、押して、押して、押しまくってまいります」と力を込めた。

 高市が「本丸」として挙げたのは「責任ある積極財政」だ。

「圧倒的に足りないのは資本投入量、すなわち国内投資だ。その促進に徹底的なてこ入れをする」「経済成長を実現するために必要な財政出動をためらうべきではない」。高市は財政出動への強いこだわりを露わにした。

「責任ある積極財政」の肝は、経済・食料・資源エネルギー安全保障や国土強靱化などの分野につぎ込む「危機管理投資」とAI、半導体など先端技術分野を後押しする「成長投資」だ。

 積極的な財政出動により、投資額以上に得られる「リターン」を通じ、国内総生産(GDP)を押し上げる高市の看板政策だ。

積極財政に懸念も

 ただ、積極財政への転換はリスクを伴う。ロイター通信は19日、2月の企業調査で高市の「責任ある積極財政」の影響を聞いたところ、6割超の企業が懸念を示したと報じた。懸念を示した企業が理由に挙げたのは、円安の進行と長期金利上昇などに伴う輸入原材料コストの上昇や資金調達費用の上昇などだった。

 内閣府が1月23日の経済財政諮問会議で示した試算では、財政健全化の指標となる、2026年度の国と地方の「基礎的財政収支」(プライマリーバランス=PB)は8000億円程度の赤字になるとの試算を示された。高市の積極財政で財政健全化が遠のいたとの見方が広がれば、円安・金利上昇に拍車はかかりかねない。

 高市が演説で危機管理投資と成長投資については「予算上、多年度で別枠で管理する」と明らかにした。債務残高の対GDP比の引き下げを図ることで、市場の信頼を得る戦略だ。

 もともと高市は財政健全化目標の見直しを提唱してきた。単年度ごとのPB黒字化を重視する従来の方針は「財政出動の機動性を損ねかねない」との思いがある。高市が訴えるのは、PB重視から債務残高対GDP比を重視する指標への転換だ。物価高が進む影響で名目GDPは伸びている。この指標に照らせば、20年以降の債務残高の比率は低下傾向となり、「財政は改善している」とも言える。

「マーケットからの信認を損なう野放図な財政政策をとるわけではない」「財政規律にも十分配慮した財政政策こそが高市内閣の『責任ある積極財政』だ」。高市は演説でこうアピールした。

 ただ、不安が消し去られるわけではない。高市は衆院選に際し、給付付き税額控除の導入を目指す方針を示し、導入される間は2年間限定で飲食料品の消費税率をゼロにする方針を示した。飲食料品の消費減税については年間5兆円の財源が必要となる。

 高市は演説で消費減税については特例公債に頼らないと宣言し、社会保障と税の一体改革を議論する超党派の「国民会議」で「実現に向けた諸課題に関する検討を加速する」「野党の協力が得られれば、夏前には中間とりまとめを行い、税制改正関連法案の早期提出を目指す」と述べた。

 だが、新たな財政負担に対する不安が増大すれば、円安・金利上昇傾向に拍車がかかりかねない。物価高が続く厳しい状況の中で、国民が「成長の果実」を実感できなければ、高市が掲げる「強い経済」に対する不信感を生む。衆院選で国民が寄せた大きな期待は、たちまちしぼみかねない。リスクと隣り合わせの「挑戦」でもある。

課題山積の外交・安保分野

 外交・安全保障分野での課題も山積している。

 海洋進出と軍拡を進める中国やウクライナ侵攻を続けるロシア、核開発と中露との連携を強める北朝鮮の動向をはじめ、日本を取り巻く安全保障環境は最も厳しく複雑な時期を迎えている。衆院選で防衛力強化を謳った高市と自民党の圧勝劇は、緊迫する安全保障環境に対する国民の不安が増大していることへの裏返しとも言える。

 高市は演説で「平和と繁栄を創る『責任ある積極外交』」を進めると宣言。第2次安倍晋三政権で進めた日米豪印4カ国を中心とする「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」をより深化させる方針を示した。日本周辺の「脅威」が増す中、カギを握るのは、同盟国・同志国との連携強化だ。

 高市が目指す防衛装備移転三原則の運用指針の見直しも、その一環だ。殺傷能力の高い防衛装備品の輸出を可能とするため、輸出できる分野を救難・輸送・警戒・監視・掃海の各分野に限定する「5類型」を撤廃する。20日に開かれた自民党安全保障調査会で、元防衛相の小野寺五典は「安全保障環境が大変今厳しい状況の中、我が国の装備を活用していただく同志国をしっかり支援できることが我が国の安全保障につながる」と語った。

 高市は三原則見直しについて「我が国の防衛生産基盤や民政技術基盤の強化につながる」と述べている。同志国との連携強化に加え、輸出拡大により国内産業の底上げを図る「二兎」を追う戦略だ。

 安全保障分野で最大の焦点となるのが、国家安全保障戦略など安保関連3文書の改定だ。衆院選で自民が圧勝し、野党勢力が減退したことで「年内改定」は既定路線となった。今後、どのように防衛力の抜本強化を図るかなど具体論が焦点となる。

 ただ、防衛強化に向け新たな財政負担が生じる可能性がある。数々の政策実現を公約に掲げた高市の課題は、世論と市場の財政に対する不安をいかになくしていくかだ。

 衆院選中の話題の一つとなったのが、米大統領・トランプのSNSだった。トランプは投開票日3日前の5日、SNSで高市と自民、日本維新の会の連立政権に対し「完全かつ全面的な支持」を表明した。高市を「すでに強力で、力強く、そして賢明な指導者だと証明した」「自国を真に愛する人物だ」などと持ち上げ、「彼女は日本の人々を失望させないだろう!」と書き込んだ。異例の支持表明だった。

 トランプはこれまでもアルゼンチンのミレイ大統領やハンガリーのオルバン首相について国政選挙での支援を表明している。いずれも「親トランプ」の指導者だ。トランプの投稿に野党側は「内政干渉」と批判したが、トランプが高市との連携を重視しているのは間違いない。

続く「トランプ・リスク」

 高市は投開票日翌日の9日、自身のXで「温かいお言葉に心から感謝する」と謝意を示すと、気を良くしたトランプは16日、記者団に「とても素晴らしい日本の首相が地滑り的に勝利し、光栄に思う」と述べ、「(高市は)私が支持を表明したおかげだとしている」「とても良いことだ。私たちは彼女や日本と素晴らしい関係だ」などと上機嫌でまくしたてた。

 高市・トランプの良好な関係を象徴する微笑ましいエピソードとも映るが、政府内では米側が支持表明に対する「見返り」を求めかねないとの警戒感もくすぶる。11月に米中間選挙を控えるトランプにとって、日本との「ディール」の成功は実績にもなるためだ。

 日米両政府は18日、日米関税合意に基づく5500億ドル(約84兆円)の対米投融資の第1弾が決まったと発表した。ガス火力発電所の開発と原油輸出施設の整備、人工ダイヤモンド生産の計3事業だ。

 事業規模は計360億ドル(約5.5兆円)に上る。「米国と日本にとって非常に興奮に満ちた歴史的瞬間だ」。トランプはSNSでこう記したが、今後、対米投資の上乗せを要求する懸念は消えない。

 米連邦最高裁は20日、国際緊急経済権限法に基づくトランプの「相互関税」などについて違憲判決を出した。これに対し、トランプは直ちに通商法122条に基づき24日から10%への新関税を課す大統領令に署名し、さらに翌21日には新関税は15%に引き上げる方針を示した。

 経済産業相・赤沢亮正は昨年7月の日米合意と比較し、「一部の品目において追加的な関税負担が生じうる」と警戒感を示した。トランプは通商法301条に基づく関税発動に向けた事前調査を進めている。米側との新たな交渉に迫られる可能性はある。高市にとって最初の関門は、3月19日の日米首脳会談だ。自身の「台湾有事発言」で中国との軋轢を招いた高市にとって「西半球回帰」を掲げるトランプとの日米同盟の強化をいかに図るかは最重要事項となる。

 トランプは高市の訪米後の31日から訪中する。アジア太平洋地域への関与をつなぎとめられなければ、高市の足場は揺らぎかねない。一方でトランプ関税やベネズエラへの軍事介入、グリーンランドの領有権問題を始め唐突な「圧力」で他国を困惑させる「トランプ・リスク」は常につきまとう。高市の外交手腕が問われる局面が続く。

「挑戦しない国に未来はありません。守るだけの政治に『希望』は生まれません」

 高市は演説の最後にこう訴えた。演説で挙げた政策は、裁量労働制の見直し、「国家情報局」創設などインテリジェンス機能強化や「外国人との秩序ある共生社会」の実現、副首都構想の推進、皇室典範改正、衆院の議員定数削減……など多岐にわたる。

 衆院選で大勝した高市だが、衆院選後の内閣支持率も上昇傾向は続く。国内外ともにリスクが山積する中、国民の期待にどう応えるのか。高市の手腕は問われ続ける。(敬称略)

【政界】歴史的勝利を収めた高市早苗首相 「重い責任」を背負う中で求められる覚悟と手腕