
工場研修では実作業を経験しましたが、実は工場の稼働率が低く掃除や機械の整備が多かったのです。普段は見ることのできない機械の内部まで見ることができ、私自身には良い経験ではありました。しかし本来の生産が少ないのは大問題です。
毎月の営業会議でも予算は未達。しかし幹部社員は何も言いません。そこである営業会議後の懇親会で幹部社員に聞いてみたのです。
私: 営業予算はずっと未達、工場は稼働率が低くてピカピカ(つまり生産より掃除の方が多い)。こんな状態で社員の皆さん会社の将来が不安ではないのですか。
社員: 大丈夫ですよ、藤井さん。うちはオーナー経営ですから。
私: それどういう意味ですか。
社員: うちのオーナーはたんまり埋蔵金を溜め込んでいますから。もしかしたら打ち出の小槌も持っているかもね。
私: 「!!」
驚きでした。確かにオーナー経営者であれば、いざというときのために、それなりに備えることが一般的ですが、私の知る限り藤井家にそのような財産はありません。
それどころか父は、先代からの相続時に莫大な借入があり、その返済だけでも大変だということは知っていました。当時から相続税により、多くの優良企業が廃業していたのです。
小林製薬時代から当社の経営状態が悪いことは知っていましたが、現実と社員の意識の相違に改めて驚かされました。業績の悪さと社員の当事者意識の低さは後々大変なことになったのです。
あまりの経営状態の悪さに私は父と面談しました。すると初めて詳細な財務諸表を見せられて驚きました。私は桁が違っているのかと思い、何度も数えましたが間違いありません。以下、父とのやり取りです。
私: 銀行借入が売り上げに近いのですが間違いありませんか。
父: そうかな。
私: 今のまま売り上げが落ち続けたら、あと数年しかもちませんよ。なぜこんな悪い状況になったのですか。
父: 分からない。
私: それでも社長か!
父: まあそこまで言うな。龍角散だけは何とかしてくれ。
私は本気で怒りました。子供の頃から散々殴られていたので本当は怖かったのですが、それより恐ろしいことが起きることを恐れたのです。
恐らく父の頭の中には子会社で臨床検査薬メーカーのヤトロン社のことがあったのでしょう。しかし既に国の医療財政は少子高齢化により厳しくなりつつあり、臨床検査業界の将来も危ぶまれる事態となっていたのです。
しかし、ガンで死にそうな父親を罵倒するとは、確かに酷い息子です。