富士通のデータドリブン経営を支える組織「Data Analytics Center」がこのほど、川崎市のオープンデータを活用して新たな政策提案につなげるデータ分析コンペを開催した。
DDM(Data Driven Management)を身近に感じることを目的に開催されてきた「DDM Award」だが、今回はAIドリブンな活用による組織活動の成果を表彰する「AI Award」と連携し、「AI & DDM Award 2025」として開催された。
本稿では同イベントの中から、富士通の社内外から多様な人材が参加したオープンコンペの様子をレポートしたい。テーマは「将来人口推計×○○○で描く、まちの未来予想図」。川崎市が提供する将来人口推計データに、自治体や企業が公開するオープンデータを組み合わせて分析し、川崎市の未来に向けた政策提案を行うというものだ。
川崎市のデータ分析コンペ開催、一次審査にAIを活用
富士通と川崎市のコラボレーションによって開催されるオープンコンペは、川崎市の市政100周年を記念して開催された昨年に続き、今年で2回目の開催となった。
今回のコンペでは、川崎市がイベント用に提供した将来人口推計データとさまざまなデータを組み合わせて課題を発見し、その課題を解決する施策を川崎市に提案する、という一連のプロセスが評価される。
コンペには社内外から88チーム204人がエントリー。56件の成果物が提出され、一次審査および二次審査を経て、上位に残った4組が最終審査に臨んだ。今大会の大きな特徴として、一次審査にAIが活用されている。
イベント事務局のスタッフによると、AIを用いた審査は人の審査結果と大きな差がなく、各チームへのフィードバックコメントの生成など、審査員の業務効率化に貢献したという。
最終審査に進んだ4チームの中には、川崎市とさいたま市から参加した2チームが含まれる。今回、自治体から参加した2つのチームに密着し、データ分析のコンペに参加した意義と最終審査のプレゼン内容を取材した。
人口流出を防ぐ「とりもちループ構想」 川崎市チームの提案
川崎市から参加した「とりもちループ構想」チームは、市の経済労働局から課を超えて5人が参加した。市と富士通が開催するコンペの存在を知り、若手層を中心にデータ分析と施策研究に興味を持ったメンバーが自発的に集まったという。
同市では以前からさまざまな調査を実施してはいたものの、収集したデータの取り扱いや分析、データ活用について課題を感じていたそうだ。そこで、データを可視化して施策につなげる今回のコンペ内容が参加を後押しした。
とりもちループ構想チームが最終審査のステージで提案したのは、多世代循環で人口減少に挑むアイデア。同市の中原区は現在人口が増加しているのだが、将来的にはタワーマンション居住者の高齢化と子世代の独立に伴う区外転出により、2040年以降に人口が減少すると予測されている。
こうした課題に対し、同チームが提案する「とりもちループ構想」では、市営の中高層住宅を整備し約10年をかけて人口流出抑制の基盤を構築する。住宅の建設や整備にかかる費用の試算は約910億円。税収と家賃収入による財源は1850億円と試算されるため、費用はまかなえる計算だ。これにより、中原区に住み続けたい世代の受け皿を確保する。
子世代の流出を止め、世帯を持って市外からの人口流入につなげる、このループこそが「とりもち」というチーム名の由来である。
その後の中期的な視点では、区の特性を踏まえて「職」と「住」が連動する環境を整備する。企業の誘致やコワーキングスペースの開発、研究拠点の設置などによって、住居と就業と交流が一体となった環境を創出する。これに伴い、多世代間のコミュニケーションも期待できる。
将来的には、域内の消費が拡大することで地域経済のさらなる成長にもつながり、税収の増加、住民の支援、定住人口確保、さらなる税収と、街が成長する仕組みが循環する想定だ。
参加者の一人は「一次審査に応募して、コストの算出や正味現在価値など、当初は想定していなかった視点がAIからのフィードバックで得られた。中間審査の際に『このような指標を追加するとより説得力が増す』とAIからコメントを得られたので、最終審査に向けて新たなスタートを切れた」と話していた。
また、他の参加者からは「テレワークやチャットツールの導入によってテキストでのコミュニケーションが主流になる中、課をまたいで有志のメンバーが集まり試行錯誤できたのは非常に良い経験になった。普段の業務では課題ありきで取り組む場面が多いが、今回のコンペは課題を見つけることから挑戦したため、新たな視点を日常業務に持ち込めるだろう」との感想も得られた。
高齢者の移動と交流を支援、持続型コミュニティを提案
もう一組、自治体から最終審査に進んだのは、さいたま市の「動くコミュニティでつながる未来」チームだ。さいたま市と埼玉りそな銀行の4人のメンバーで構成される。富士通が埼玉りそな銀行の地域ビジネス部にコンペへの参加を促したところ、以前から同行と関係性を持っていたさいたま市と合同で参加することになったという。
同チームはまず、川崎市とさいたま市の共通点に着目。両市は政令指定都市であるだけでなく、首都圏のベッドタウンとしての位置付けや、鉄道網が発達していることに加えて、Jリーグのチームが活躍しているといった共通点を持つ。
そんな同チームは、川崎市が公開する将来人口推計に加え、高齢者施設情報や高齢者実態調査、内閣府が公開している高齢者の生活と意識に関する調査結果などを活用。2055年には川崎市の約20%が後期高齢者になること、そして宮前区と麻生区は坂道が多く高齢者の移動負担が大きいことを課題に設定した。
ここで重要なのは、高齢者の幸福感と交流の強い相関だ。幸福感の"はり"を感じている層の91.0%が家族以外との交流を持っている。仕事をしている層の63.0%が"はり"を実感している一方で、仕事をしていない層では41.5%である。
しかしデータ分析の結果から、物理的・心理的障壁が存在することが判明した。高齢男性の約6割が既存施設を「利用したいと思わない」と感じていることが明らかになった。その理由は主に「必要性を感じない」「施設の内容を知らない」といったもの。
こうした課題に対し「動くコミュニティでつながる未来」チームは、「交流・移動・役割付与」を一体設計する「関係性インフラ」を提案。坂道の移動を支援するAIオンデマンド交通や、空き家・空き店舗を活用したサブスク型のサードプレイス、地域アプリを活用したスキルシェアの有用性を示した。
さいたま市からは、データ部門のメンバーが参加した。日々の業務では現場のデータに関する課題に対して助言や支援を行う立場であり、自身がデータを実際に分析する機会は多くないという。
そのため、参加者からは「普段は相談を受ける立場なので、(コンペの参加を通じて)いつも相談してくれる現場の方々の苦労を感じることができた。他チームのデータ分析レポートを拝見して、さいたま市に持ち帰って横展開できそうな収穫が得られた」との感想が語られた。
埼玉りそな銀行からの参加者は「埼玉県内の自治体と話をする中で、データの利活用に関する問い合わせや要望が増えてきた。今回のコンペに参加して、データ利活用の考え方や手法を広めていける可能性を感じた。最終審査の発表にもあったように、川崎市とさいたま市には多くの共通点があるので、いつかさいたま市をテーマにデータ利活用のコンペを開催できれば」と話していた。












