総合無線機メーカーのアイコムは、中学校向け防災教材「トランシーバーを使った防災訓練の教育プログラム」を開発した。3月9日には大阪市阿倍野区の私立桃山学院中学校でデモ授業を実施し、その模様を報道陣に公開した。東日本大震災から15年を迎える中、災害時の通信手段として無線機の活用を学ぶ教育として展開する。
阪神・淡路大震災30年を機に、無線機メーカーの強みを生かした防災教育
災害発生時、安定した通信手段は避難誘導や人命救助、災害復旧を迅速に進めるために重要な要素となる。2024年1月1日に発生した能登半島地震では大規模な通信障害が発生し、衛星通信や移動基地局、船舶による基地局などさまざまな対応が行われたが、応急復旧には約3週間を要した。
こうした災害時でも、機器が無事であれば通信が可能なトランシーバーが改めて注目されている。
関西に拠点を置く通信機器メーカーのアイコムは、阪神・淡路大震災から30年を迎えるのを機に、防災教育プログラムを企画した。無線機メーカーとしての強みを生かし、災害時にも利用可能なトランシーバーを活用した中学校向け教材「トランシーバーを使った防災訓練の教育プログラム」を作成。現在、全国の中学校へ無料で提供している。今回、その社会実装の一環として大阪市の私立桃山学院中学校でデモ授業を実施した。
アイコムは1954年創業の総合無線機メーカー。売上の約7割を海外が占めるグローバル企業でもある。主力製品は陸・海・空で利用される業務用無線機で、国内では行政機関で広く採用されている。海外では米国国防総省、カナダ政府機関、国際連合などでも導入されている。
災害時の通信手段として見直されるトランシーバー
同社の商品デザイン部長でCI委員会委員長の青木裕康氏は、近年の自然災害の経験から、緊急時の通信手段としてトランシーバーが見直されていると指摘する。
スマートフォンなどの携帯電話は基地局や電源インフラに依存するため、災害時には不通となることが多い。一方、トランシーバーは電池さえあればボタン一つで通信できる。また、一度に多数の人へ情報を伝えられる一斉同報機能なども備えており、災害時に有効な通信手段だという。
同社は大規模災害発生時、総務省から預かったトランシーバーを各営業所から被災地へ運搬する役割も担っている。青木氏はこうした取り組みに触れながら、震災時における無線通信の重要性を強調した。
一方で、トランシーバーは送受信の切り替えやチャンネル設定、通信時の会話ルールなどを理解して使用する必要がある。今回の企画を担当したチーフメディア広報の松田和也氏は、学生のうちから無線に触れることで、災害時にその経験を生かせるのではないかと考えたと語る。
松田氏は「現在の学生はスマートフォン以外の通信手段であるトランシーバーの認知度が低い」と指摘する。今回のプログラムには、災害時のコミュニケーションツールとしてトランシーバーの認知度を高める狙いもあるという。
「阪神・淡路大震災から30年を迎える中、関西に拠点を置く企業として災害に対して何かアイコムらしい取り組みができないかと考え、開発した」と松田氏は説明した。
ロールプレイング形式で無線通信と災害対応を学ぶ
「トランシーバーを使った防災訓練の教育プログラム」は、学校の授業時間に合わせて45〜50分で構成されている。内容は、無線機の仕組みや使い方を学ぶ動画視聴、ロールプレイング形式の無線通信ゲーム、訓練後の振り返りの3部構成だ。
動画では、スマートフォンと無線機の仕組みの違いや、災害時にスマートフォンが使えなくなる理由などを解説する。また、無線機の特長や災害現場での活用事例についても紹介される。
災害の現場でどのように無線機が利用されているか、避難誘導や救助活動などの事例紹介や無線機の簡単な利用法も解説される。特に無線通信の基本であるボタンを離しての受信とボタンを押しての発信、終了時の「どうぞ」という合図などの簡易なルール、災害発生時のパニック状態の中で落ち着いて連絡するための心構えや話すコツ、重要なことは繰り返すなどの振る舞いなどについても取り上げられている。
さらに、無線通信の基本となる送受信の切り替えや、会話を終える際の「どうぞ」といった合図など、通信時の基本ルールも学習する。災害発生時のパニック状態でも落ち着いて連絡するための心構えや、重要な情報を繰り返して伝えるといったコミュニケーションのコツも取り上げている。
トランシーバー20台を使った防災ロールプレイング訓練4
実際の訓練では、免許不要で利用できるトランシーバー20台を使用し、生徒は4つのチームに分かれて活動する。ミッションは「避難者の人数や年齢を把握し、安全な場所へ誘導しながら必要な食料を確保する」という災害対策を想定したものだ。
チームは「作戦本部」「避難者発見」「情報収集」「非常食発見」の4つの役割を担当し、用意されたワークシートに沿って情報カードを集めていく。こうしたゲーム形式の訓練を通して、無線通信の使い方や情報共有の重要性を体験的に学ぶ。
ゲーム終了後は、トランシーバーを活用した感想などを話し合い、教師が主導する無線機の使用感や役に立った点、なかった場合の対応などについてヒアリングを行い、授業を振り返ることで記憶の定着を促す。
ゲーム終了後には振り返りを行い、生徒たちがトランシーバーを使った感想や気づきを共有する。教師が無線機の使用感や役立った点、もし無線機がなかった場合の対応などについて議論を促し、学習内容の定着を図る。
デモ授業を実施した桃山学院中学校の教頭、田中智晴氏は「短い時間ながらよくまとまったプログラム」と評価する。南海トラフ地震など将来想定される災害において、トランシーバーが重要なツールになる可能性を改めて認識できたと話す。
「生徒たちにその存在を知ってもらうことは非常に有意義だ」と田中氏は語る。自身も校内でトランシーバーを使用してきた経験があるが、今回の授業を通じてその有効性を改めて実感したという。教員の防災意識を高める意味でも有意義なプログラムだと評価した。
アイコムは、本プログラムで使用する指導マニュアル、動画教材、無線機20台、訓練用ツールなどをパッケージ化し、中学校へ無料で貸し出す。学校は特設サイトから希望日を指定して申し込み、教材は到着日から14日間利用できる。返送時の送料も同社が負担する。
プログラムは1月17日から受付を開始しており、教材の貸し出しは5月から開始する予定だ。











