NTTドコモとNTTの両社は3月2日、分散配備された遠隔GPUリソースと5Gネットワークを「IOWN APN」で接続・融合する第6世代(6G)向け技術「In-Network Computing」(INC)により、低遅延なAI映像解析の実証実験に成功したと共同で発表した。

  • 今回の実証実験におけるシステム構成の概要

    今回の実証実験におけるシステム構成の概要。(出所:NTT Webサイト)

6G時代のAI・ロボット活用ネットワーク実現へ前進

日本では約10年ごとに移動通信システムの世代がアップデートされており、現在は第5世代(5G)が利用されている。そして、近い将来の2030年代には、サブテラヘルツ波(100~300GHz帯)を利用するとされる6Gの実用化が目指されている。

6G時代は、動画視聴がより速くなるといった個人の利便性の向上よりも、社会インフラとしての「神経系」の構築が目指されている。自動運転、AI・ロボット、IoT、没入型XRやデジタルツインなど、膨大なデータをやり取りする自律型デバイスの増加や、サイバー・フィジカル・システムの構築に伴い、現行5Gよりも高速・大容量・低遅延・高信頼性が求められている。

例えば、ロボットを自律的に動作させる場合、周囲の状況をカメラやセンサで取得し、AIを用いて移動先の障害物などを解析し、ロボット制御に即時フィードバックする技術などが必要と考えられているのである。

特に、小型のロボットや簡素なウェアラブル端末などでAIの学習や推論を用いるアプリケーションを利用する場合、ユーザーの体感を落とすことなくサービスを提供するためには、端末以外の処理リソースにおいてもリアルタイムに大量のデータを処理する能力が求められる。つまり、6G時代のネットワークは通信の処理だけでなく、サービスのデータ処理も含めた制御を実施し、品質を担保することが不可欠とされている。

一方で、AI推論処理の分散実行は、現在はアプリケーションやサーバ側で制御することが一般的であり、ネットワークは主にデータ転送を担う役割に留まる。そのため、推論処理に用いるGPUリソースの配置や通信遅延がサービス品質に大きく影響し、通信遅延の面で有利な地理的に近い場所にある計算リソースの利用が前提となるなど、柔軟なリソース活用には課題を抱えていた。

こうした期待とその実現に向けて解決すべき課題から、6G時代のネットワークに必要な要素技術として両社が研究を進めているのがINCだ。INCでは、ネットワーク内にGPUをはじめとしたさまざまなリソースを分散配備し、ネットワークは単にデータの送信を担うだけではなく、サービスの計算処理そのものの制御も行う。これにより、遅延や端末の消費電力を低減しつつ、高性能・高機能なサービスを実現するという技術コンセプトとなっている。つまり、データがネットワークを通って運ばれていくうちに情報処理も行われるため、端末の負荷を低減する技術として期待されているのだ。

そこで両社は今回、ネットワーク内に分散配備された遠隔GPUリソースと5Gネットワークを、INCエッジを用いてNTTの「IOWN APN」(低遅延・広帯域・低消費電力を特長とするNTTのIOWN構想に基づく光ネットワーク基盤)を介して接続し、5Gネットワークに接続された端末から送信された映像データのAI推論処理を検証したという。

一般にAI推論処理を各リソースの処理負荷軽減のための分散実行するケースでは、GPUリソース間の通信遅延が推論処理全体の遅延に大きく影響するため、同一拠点内など、地理的に近い場所にあるGPUリソースの利用が前提とされる。そこで今回の実証実験では、INCエッジとIOWN APNを活用し、通信の制御に加えてAI推論処理をネットワーク側から制御することにより、地理的に離れた遠隔GPUリソースを用いた場合でも、高い推論性能を維持できるかが検証された。

今回の実証実験にあたっては、INCエッジとして、新たにIOWN APNとモバイル網の接続機能に加え、AI推論処理を推論の前段にあたる処理と推論の実行部分に分け、前段処理後のデータを遠隔GPUリソースへ低遅延に転送・振り分けを行うための仕組みがネットワーク機能として実装された。

また映像データの転送には、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)上に構築した商用5Gコアネットワークの優先制御機能を適用。INCエッジの役割と組み合わせることで、5GネットワークおよびIOWN APNを活用した広帯域・低遅延なAI映像解析が実現されたとした。

加えて、今回の実験において、通信とAI映像解析の合計処理遅延は、人間の周囲でロボットが自律制御に基づいて動作する場合に想定される要求遅延と比較して、要求遅延以内であることが確認されたという。6G時代の遠隔でのロボット制御に十分な低遅延を実現できる見通しが得られたとした。

なお、今回の両社の役割分担は、まずNTTドコモが、実証実験全体の計画策定および全体管理、コアネットワークや無線基地局装置などの「5G SA」(5G専用のコアネットワーク設備である5G-Coreと、5G基地局を組み合わせて通信を行う方式)商用環境およびノウハウの提供、実証実験におけるIOWN APNの設計検討・構築、実現方式の検討およびネットワーク構成の設計とした。一方、NTTは、INC基盤の提供、5GコアネットワークとINCをIOWN APNを介して接続・融合し分散推論を実現するエッジ機能INCエッジの提供、実現方式の検討およびネットワーク構成の設計とする。

今回の実証実験から得られた結果は、6G時代のAIやロボット向けのデータ転送・処理にも応用できることが期待されるとする。両社は今後も6Gネットワークの要素技術として、機能が簡素化された端末の普及に向けて通信とデータ処理を包括的に提供するINCの技術検討・実証および国際標準化を推進していき、6G時代のAI・ロボットがその価値を最大限発揮するネットワークの実現を目指すとしている。