
厳しい事業環境の中 健闘する地元企業も
─ 世界的なインフレ、金融環境の不透明感などもありますが、足元の徳島県の事業環境をどう見ていますか。
板東 コロナ禍が明けて以降、この1、2年で企業の優勝劣敗がはっきりしてきていると感じます。しっかり経営をされているところと、そうでないところとに二極化されています。
─ 人口減少が多くの業界に悪影響を与えていますね。
板東 ええ。様々な業界、日本経済全体が厳しいのは間違いないと思います。ただ、ビジネスチャンスとしては円安もあって、世界が日本に魅力を感じてくれていてインバウンド(訪日外国人観光客)が訪れています。
また、外国の方々に日本で働いてもらう上では様々な問題もありますが、そうした方々の力も借りながら、日本経済を維持、拡大できる最後のチャンスが来ているのが今だと思います。
厳しい環境下でもチャンスを見つけ、チャレンジしている地域の企業はあります。そうした企業を支援していくことが我々の役割です。
─ 地域にはリスクを取ってチャレンジする経営者がいるということですね。
板東 そうです。我々としても、その企業さんに体力がなければ応援できないわけですが、過去には私の先輩頭取が、地元企業のチャレンジを、リスクを取って支援したことがありました。
その背景には、その企業がそれ以前からしっかりとした経営、実績を出してくれていたことがありました。その数字の裏付けを見て融資を即断したわけですが、その融資は銀行として決して普通の案件ではなかったんです。それを決断した先輩頭取の判断は、当行のDNAを継承したもので、私としても誇りに思っていますし、引き継いでいきたいですね。
─ 徳島県では地元の第1地銀である阿波銀行の他、歴史的に高知県の第1地銀・四国銀行も地盤を持って活動しています。両行との関係は?
板東 阿波銀行さん、四国銀行さんとも、もちろん我々のライバルです。どちらも、地域の企業に有益な情報を提供して、関係を強めようという活動をしておられます。
ただ、ライバルでありながらも、地元企業の経営者の方々を通じて共存して関係を構築しているという意味で、他の地域ではなかなかない事例だと思います。
地域を超えたグループ トモニホールディングス
─ 徳島大正銀行は、徳島銀行が大正銀行を合併し、香川銀行もグループ入りした「トモニホールディングス」を構成していますね。
板東 行政は今、地方銀行の合従連衡を求めています。その中で我々もどうチャレンジしていくかが問われています。
当行は旧大正銀行の地盤である大阪を営業エリアに持っていることもあり、他の地銀よりは成長戦略が描けているのではないかと考えています。
元々、徳島と大阪は歴史的つながりがあります。徳島の木材を始めとする産物は船を通じて大阪に運ばれるなど、物流、人流が昔からありました。大阪には「阿波座」という地名がありますが、阿波の商人が住み、産物が集まったことから、その地名がついたとも言われています。
徳島銀行も50年以上前に大阪で支店を開設しており、大阪支店、堺支店に続く3カ所は弁天町という阿波座のエリア内に出店しています。やはり、徳島は大阪とのつながりが強く、我々にとって第2のマザーマーケットとなっています。
歴史的に振り返ると、徳島銀行と香川銀行が統合してトモニホールディングスを設立したのが2010年のことです。当時頭取だった相談役の柿内愼市が決断したもので、私は当時東京で支店長を務めていました。
─ 統合にはどういう判断があったのだと見ていますか。
板東 統合が08年のリーマンショックの後でしたから、厳しい事業環境でした。地域金融機関は今のままでは生き残れない、勝ち組同士で手を結ばなければいけないというのが判断の背景にありました。
当時はまだ、前向きな経営統合はなく、救済型以外では初めての統合と言われたくらいでした。徳島と香川とは地域性が違いますから合併ではなく統合を選んでいます。徳島、香川、それぞれで成長する兄弟銀行になろうというコンセプトでした。
─ 支店長の立場で当時、統合についてどう感じましたか。
板東 ちょうど、東京から人事部長として徳島に帰る時でしたが、私としては正直「どうしてだ?」と思いました。
なぜなら私だけでなく周囲の仲間も徳島銀行として、地元の第1地銀である阿波銀行さんに追いつき、追い越そうというやる気に満ち溢れている時でしたから、そういう時に統合するのかと感じたからです。おそらく、香川銀行の行員も、同じような思いを抱いたと思います。
第1地銀ほどの力はまだなくとも、銀行としての強さに自信がありましたし、成長の途上だと感じていました。県民に愛される銀行としての成長戦略を描くことができると思っていた時期だったんです。
ただ、その後の流れを見ると、統合によって経営基盤が拡充しましたし、大正銀行のグループ入りにもつながりました。
─ その後、徳島銀行が大正銀行を合併して、徳島大正銀行となりましたね。
板東 大正銀行がグループ入り後、3年ほど3行体制で過ごしましたが、より効率的な体制を追求することとなり、徳島銀行、香川銀行のどちらかが吸収合併するという議論になりました。
その時、徳島銀行側はすでに大阪に10数店舗を持っていたこと、歴史的にも大阪とのつながりがあるなど「地の利」があるということで、徳島銀行が合併したという経緯です。
地域の経営者との 人間関係を大事に
─ その後、板東さんは20年に頭取に就任していますね。
板東 大正銀行の合併までを現相談役の柿内が手掛けて、その後のステージを「任せるぞ」と言ってくれました。
現会長の吉岡宏美が頭取に就任する際、柿内、吉岡ともに「次の頭取は君に任せる。徳島大正銀行の新しいステージをやり切ってくれ」と言ってくれました。 ─ 50歳での頭取就任は金融業界の中でも早いですね。
板東 確かに早かったと思います。ただ、私は取締役就任が41歳と、徳島銀行の歴史を見ても一番早かったんです。振り返れば、この取締役に就任する時が最も厳しかったですね。
当然ながら周囲は皆、先輩ばかりです。そもそも、39歳で人事部長に就任した時も、支店長全員が先輩でした。「なんで板東に指導されなければいけないんだ」、「板東は淡路島と東京でしか支店長をしていないじゃないか」といった声も聞きました。
─ そうした状況の中でどのように対応しましたか。
板東 人事部長の時には、まず一番課題のある支店に乗り込みました。そこで先輩である支店長に「いつも支店長室にいて新聞ばかり読んでいるような人は銀行にいりません。若手が嫌になります」と迫りました。当然「お前ごときに言われたくない」と反発されましたが、「言わなければいけない話だからしているんです」と応戦しました。
─ 辛い仕事ですね。
板東 でも、私は思いを持って仕事をしていました。そうした姿を柿内も、吉岡も見ていてくれていたのだと思います。
取締役に就任する際も、柿内から話があったのですが、一度断りました。
─ 理由は何でしたか。
板東 「1年ごとに辞めさせられる可能性があるんだったら、言いたいことが言えなくなるので嫌です」と答えました(笑)。怒られるかと思ったら「面白いな。それだったら余計に取締役にならないといけない」と言われて外堀が埋まりました(笑)。
この時に、経営に携わることへの覚悟ができました。徳島銀行を愛して、行員を愛して、お客様を愛して仕事をして、経営者としてやっていくんだというフェーズに入っていったんです。逃げ場はないと感じましたね。
─ 頭取就任から5年が経ちましたが、今後に向けて考えていることを聞かせて下さい。
板東 相談役の柿内、会長の吉岡とつないできたバトンを受け取って、銀行のDNAを引き継ぎ、新たな目線で時代に対応した銀行経営を進めていくというのが、私に与えられた役割だと考えて仕事をしてきました。
そして今後も地方自治体などとも連携しながら、地域の企業を支援していきます。そうした取り組みによって、地域になくてはならない銀行だと思っていただけるように、「ファン」となっていただけるように取り組んでいくことが私の使命です。
─ 地域を支える企業との関係性が大事になってきますね。
板東 ええ。地域金融機関はメガバンクさんとは違って、地域のお客様とのウェットな関係といいますか、いい意味での「公私混同」があるし、あっていいと思っています。地元企業のトップの方々とは親しく、本音で話して、事業の相談を受けたり、一緒に決断をする。
そういう関係のベースはできていると思いますから、経営者と親しい関係になることができる行員をさらに育てると同時に、私自身も経営者との関係を広げたり、踏み込んだりしていくことに注力していきます。
コンプライアンスは大前提です。その上で、甘えの構造とは違う人間関係を築いていく。そこに我々地方銀行の役割があるのではないかと思っています。
銀行員として求められる 「人間力」とは?
─ 今、起きている地銀再編の流れをどう見ていますか。
板東 地方では人口減少や 少子高齢化、事業者の後継者不足など、経済規模の縮小に歯止めがかからない状況です。この構造的課題下においては経営が厳しくなってくる可能性がより高いのは地銀ですから、地銀自ら、また、金融庁としても地銀同士の共同化や連携強化、また再編を促していく状況にあるのだと思います。
我々はトモニHDを存続、発展させていくと同時に、情報に対するアンテナを高くして、他の金融機関との門戸も広げておくことが大事になります。
─ 板東さんが経営をしていく上で、銀行員として大事な要素は何だと考えていますか。
板東 私は「人間力」だと考えています。人事部長時代に、私が考える人間力を、しっかり行内で定義したいと考えて当時の企画部門と話して、弊行における「人間力」を定義しています。
基本的には4つですが、まず圧倒的な「業務知識力」です。銀行の立場でお客様に最適な商品を提供できる力が問われます。他に雑談や雑学を含めた「教養力」、そして「コミュニケーション力」、最後が「行動力」です。
立場が変わればコミュニケーションを取る相手もどんどん一流になっていきますから、私自身、頭取という立場になっても磨き続けなければならないと考えています。
何より、お客様が業務知識力、教養力、コミュニケーション力を認めてくださって取引を増やそうと思ってくれても、最後に行動しなければ、そのご厚意は一転してアンチに変わります。
─ 常に自分を磨き続ける必要があると。
板東 ええ。行内に向けては、4つの基本的能力に加えて、支店長代理、支店長になったら「判断力」、支店長以上、経営幹部には「決断力」が必要だと話しています。「迷っても、最後は決断しないといけない時がある」ということは常に伝えています。
こうした力を身につけることが、人を引き付けることができる「人間力」につながるのだと考えているんです。