
県外企業を呼び込んだ 神山町の取り組み
─ 人口減、少子高齢化の日本で地方創生は大きな課題です。福永さんの考えを聞かせて下さい。
福永 日本は地方が今の状態のままで、東京だけが栄えたらいいかというとそうではありません。地方には地方のよさがあります。そこに人の流れをつくるなど、具体的な取組みが必要ですし、政府にも取組んでいただきたいところです。
我々は地元で企業を応援し、新たな事業に取組む起業家を支援しています。そして県外から人が来た時にさまざまなことを体験していただけるような施設などをつくるお手伝いをしています。地元である徳島が衰退すると、我々自身も厳しいわけですから、徳島経済が発展するような取組みに力を入れています。
確かに、日本全体で人口減少は進んでいます。徳島県の人口も足元では約68万人ですが、将来推計では2050年に48万人にまで減ると予想されています。ここまで減ると経済は小さくなり、さまざまな面で影響が出ますから、増やせなくても減る速度を少しでも落としていくことが大事です。
─ どのような対策が考えられますか。
福永 人口が減ったとしても、付加価値の高い産業を興すことで、県内GDP(国内総生産)が変わらない状態にすることをめざしていきます。
例えば県内では神山町に県外のIT関連企業のサテライトオフィスが集積しています。2010年に名刺管理サービスを手掛けるSansanの進出を皮切りに多くの企業が拠点を設けています。
─ なぜ神山町が選ばれたんですか。
福永 神山町は2000年代初めという早い時期に町内全域に光ファイバーを敷設していました。その背景として地上デジタル放送の導入がありました。徳島には民放テレビ局が一局だけなのですが、それは大阪から電波を受信することで他局の放映ができていたからです。それが地デジに変わると見られなくなるという状況になりました。
それを防ぐために光ファイバーをベースとするケーブルテレビを普及させたのですが、これがインターネットの接続に大いに役立ちました。Sansanの社長の寺田親弘さんは、これに注目してサテライトオフィスを開設することにしたのです。
─ インフラ整備ができていたことが大きかったということですね。
福永 そうです。Sansanの開設以降も次々と企業がサテライトオフィスをつくり、空き家だった建物をオフィスに改装するなど有効活用が進みましたし、サテライトオフィスで働くために人々が移住してきましたから、飲食店などができるなど、街が活性化しました。
そうして23年には寺田さんが中心となって私立の高等専門学校「神山まるごと高専」が開校しました。全寮制で1学年の定員は40人、起業家を育てるというコンセプトのもと、四割の卒業生が卒業後に起業することを想定しています。我々も校舎や寮の建設資金などをサポートしています。
今後もさまざまな面で応援していきます。卒業生が起業すれば我々がファイナンスするといったさまざまな関係ができていくことを期待しています。
我々は各市町村の指定金融機関となっていることによるつながりを生かした取組みや、徳島大学発ベンチャーを支援するファンド、子会社の阿波銀キャピタルによる事業承継ファンドなどにも取組んでいます。
─ 21年に野村證券と業務提携していますね。この狙いは何でしたか。
福永 野村證券は徳島支店を置き、80名超の社員が県内全域を営業していました。一方、我々は銀行として投資信託を扱えるようになって以降、各支店で営業していました。
徳島県は貯蓄率が高く、一人当たりの預貯金額が多いことで知られていましたが、低金利、マイナス金利下で、銀行預金では資産が全く増えなくなるという状況になっていました。
そこで我々も投信や保険などを取り扱っていましたが、商品知識などを含めて、銀行ができる範囲には限界がありました。一定の領域まではできても、さらに多くの資産を持って運用しているお客さまは野村證券を頼られるという状態でした。我々も自前で人を育てようとしましたが、なかなか難しかったんです。
─ 野村の側にも課題があった?
福永 野村證券の徳島支店は営業成績がいいお店でしたが、やはり一店舗だけでは営業できる範囲が限られており、県内全域に富裕層がいるにもかかわらず、どうしても徳島市中心になってしまっていたそうです。しかし人口減少で徐々にマーケットが縮んでいくことに危機感を持たれていました。
我々より前に島根県の山陰合同銀行と野村證券の提携があり、それを見ていたら、我々にもできるのではないかと感じました。当行の悩みである人材育成、野村證券の悩みである顧客基盤を補完し合うことができ、お客さまにとっても資産を増やしていくためのツールが増えることにもつながると考えました。
そうして野村證券は徳島支店を閉め、社員の方たちが当行に出向という形で、当行の職員と共に営業を進めています。当行の職員のレベルも上がってきており、お客さまからもご好評をいただいています。
「人」が成長しないと 顧客から選ばれない
─ 福永さんは今、頭取として行内にどんな言葉で意識改革を促していますか。
福永 23年に頭取に就任した際に伝えたのは、過去と違ってマーケットが伸びていく時代ではないということです。そうした状況では多くの場合、どこが生き残るかという過当競争をすることになります。
その時にメーカーであれば、機能的に優れた製品を出せば売れるということがあると思いますが、銀行は融資も預金も、メガバンクさんと我々地方銀行とで、金利の条件は違うにしても、手掛けている業務はあまり変わりません。何が違うかというと職員一人ひとりの能力です。
その能力とは何かというと、お客さまに認められる、喜んでいただけるサービスが提供できるかできないかです。それはさまざまな知識や経験に裏付けられたものである必要があります。
お客さまに提案したり、相談に対して回答した時に「あの銀行の職員は優秀だな」、「すぐに答えをくれたり、課題を解決してくれるな」と思っていただけるかどうか。他の銀行と差がつくのは、その部分なんです。
─ 常に「人」の能力を磨き続ける必要があると。
福永 ええ。みんながレベルアップし続けなければなりません。当行は徳島県でトップシェアであり続けていますが、お客さまに選んでいただくことですから、いつどうなるかわかりません。
阿波銀行の職員より、他行の職員の方が役に立ちそうと思えば、他行と取引されるでしょうから、そうなると阿波銀行は生き残れません。ですから職員には一人ひとりがレベルアップしてくださいということを、最も強く伝えています。
─ 福永さんから見ていて、どういう人材が伸びていますか。
福永 銀行にはさまざまな業務がありますが、成果、実績をあげている職員は、フットワークがよく、知識に裏付けられた提案ができ、そして人柄がいいんです。
お客さまもいろいろな課題を抱えておられます。後継者が不在だったり、自社株の評価額が上がって、ご子息に移転すると高い税金がかかるといった時に、お客さまのニーズを即座に汲み取って適切な提案ができればお客さまのお役に立つことができます。
そうしたことが継続できれば、我々としては手数料収入が得られますし、融資が起こることにもつながり、銀行の収益に跳ね返ってきます。
「融資だけ借りてください」、「この商品を買ってください」では、仮に最初はよくても、二回目以降は断られるのは目に見えていますから、お客さまに役立つ仕事をして欲しいと伝えています。
─ 顧客のためにという原点を忘れずに取組むことが大事だと。
福永 まさにお客さまあっての阿波銀行です。徳島は人口が減っていく地域ですから、その中では県内全ての方がお客さまです。多様化、複雑化しているニーズにお応えするための人、組織をつくっていく必要があります。
─ 日銀の利上げで「金利のある世界」が戻りましたが、どう捉えていますか。
福永 プラス、マイナス両面あります。いいものをつくれば高く売れるという話と同じで、我々がいいサービスをすれば、融資の金利を高く設定することも可能になりますから、やり方次第で採算を改善することができます。
一方、預金金利も上がっていきます。人口が減少していくと、長い目で見ると預金が減る可能性があります。ましてやネット社会ですから、徳島でもネット銀行が高い金利で顧客にアピールしており、スマートフォン一つで資金が移動できます。
そうなると我々も、ある程度の金利をつけて預金を獲得していかなければなりません。預金が減ると保有している有価証券を減らす必要が出てきますし、増えても金利が高くなると運用が難しくなりますから、いずれにしても運用が難しくなります。
今までは低金利でしたから、預金金利もほぼゼロに近いような状態で、お金も余っていましたから、預金は集まってきていました。今後はできるだけ低利な預金、決済性預金を集めていく必要があります。
─ 確かに運用面では難しい局面ですね。
福永 運用サイドで言うと、金利が出てきたとはいえ、無条件に高金利で借りてくださるわけではありませんから、付加価値の高い提案をし、高い金利を追求していく必要があります。
また、有価証券、特に国債は金利が上がると、すでに保有している分は評価損になりますから、金利を見ながら入れ替えていく必要があります。
もちろん、国債の場合デフォルトしませんから満期まで持てば償還されるわけですが、預金金利より運用利回りが低くなる「逆ザヤ」になると大きな損になります。その前に、適宜入れ替えをするというオペレーションを進めていきます。
長い目で関係をつくる 「永代取引」の考え方
─ 阿波銀行は営業方針「永代取引」を掲げていますが、その思いを聞かせて下さい。
福永 「永代取引」とは当行の伝統的な営業方針です。お客さまのことをよく知って、本当に必要とされるサービスを提供していくことが基本です。目先の利益にとらわれずに、長い目で取引を続けていく。それはお客さまの利益につながり、それが我々の利益として返ってくることになります。そういう取引をしていこうというのが「永代取引」の考え方です。
─ 今、改めて地方銀行の再編が起きています。阿波銀行のスタンスは?
福永 当行は香川県の百十四銀行、愛媛県の伊予銀行、高知県の四国銀行の四国の地方銀行四行で「四国アライアンス」を締結し協働しています。
これは営業面など、ライバル関係はそのままに四国の地方創生に取組もうという枠組みです。
日本、世界から見ると四国はそこまで大きくありません。ですから四県ばらばらに地方創生に取組むよりは、さまざまな面で協力できる部分は力を合わせて地域の活性化および持続的な成長をめざしています。地域商社やファンドの運営会社を設立している他、事業承継などにも取組んでいます。
─ 四国の産品を海外に売ることにも役立ちそうですね。
福永 ええ。四行で設立した地域商社「Shikokuブランド」では、例えば徳島県で言えば「柚子」や、「なると金時」、「阿波牛」などの農畜産物を海外に向けてアピールし、販路をつくろうとしています。県や自治体とも連携して、取組みを強化したいと思います。