
冒頭からフルートと二胡で竹久夢二の『宵待草』のフレーズが流れ、そこに月をバックに芸妓さんが踊る。胸元から龍角散の、のどすっきりタブレットを見せ、最後に「こっそり、舐めてました」。
元々はセリフの後に「龍角散ののどすっきりタブレット」と製品名のセリフも入っていたのですが、本編集の前夜に削除することを決めました。視聴者の神経を踊りと音楽に集中させるため、ここで製品名を言うのは無粋だと感じたからです。
このCMを試験的にオンエアしたのは一昨年の年末でしたが、突如として販売実績が跳ね上がって在庫が足りなくなり、一時オンエアを中止したくらいです。
今オンエアしているのは、新しいフレーバーを追加したバージョンで「あら、今度はライチなのね」を加えて新製品の登場感をアピールしています。この「芸妓版」CMをオンエアすると、おかしな現象が起きました。
元々弊社製品は7割方が女性の購買者層なのですが、これをオンエアして以降、あらゆる会合に参加すると、知り合いの男性層が「これでしょ」と言って胸ポケットから製品を見せてくれるようになりました。同時に男性の購買者層が一気に増えたのです。絶大な効果でした。
そもそもCMに出演している芸妓さんは東京新橋組合の「喜美勇」さんという有名人です。彼女とは、父が通っていた銀座のオカマバーでたまたま会ったとき、「ワタシたちって歌って踊ってノド大変!」という話になり、働く女性のノドを守ろうというコンセプトを考えたのです。
しかも「喜美勇」さんは芸妓さんである一方、尾上流の本格的な舞踏家なので、CM演出でも指先まで細かい表現が冴えています。
一瞬指先がアップになりますが、あれは水面(みなも)を表現しているのです。撮影現場では私は即座に「あの指先をアップにして」と監督にお願いしたのです。
音に関しても運命的で、元々は芸妓さんに相応しい古典作品で踊ってもらおうかと思っていたのですが、権利関係などなかなか難しいようで、悩んでいると「社長吹いて」という断れないご要求でした。そこで辿り着いたのが『宵待草』の最終フレーズの15秒でした。
原曲は林光さんの編曲でピアノ伴奏だったのですが、和声をシンプルにするため、最近よく一緒に共演する女子十二楽房の初代メンバーで二胡奏者の霍暁君さんにお願いしました。
実はあの音は当社ビルのエントランスで録ったのです。ノイズを拾わないようマイクは近づけましたが、高い天井と大理石の壁に反響して、実に自然な響きになりました。
あのエントランスはコンサートもできるほど音響が良く、父が本社ビルを建て直すとき「音楽ホール」が欲しいと言っていたのを思い出しました。エントランスの上の方には建て替え前の旧ビル(大正12年竣工)から移した木彫りのフクロウがひっそり聴いていました。