EUの非営利シンクタンク「CEPR」は2月17日(現地時間)、「How AI is affecting productivity and jobs in Europe|CEPR」において、AI導入が欧州企業の生産性と雇用に及ぼす影響調査レポートを公表した。

AIは経済構造に変革をもたらすといわれているが、欧州は研究者層や産業基盤を持ちながらも、技術開発では米国や中国の後塵を拝する状況にある。技術的優位性が保たれていないにもかかわらず、AIを導入した欧州企業に本当に恩恵はあるのだろうかと疑問を抱いた研究者らは調査を実施。1万2000社を超える欧州企業の調査データを用いてAI導入が生産性と雇用におよぼす影響の因果関係を分析している。

  • How AI is affecting productivity and jobs in Europe|CEPR

    How AI is affecting productivity and jobs in Europe|CEPR

欧州企業のAI導入状況を分析 - 生産性向上、雇用維持、企業格差の拡大

研究チームは、AIが生産性に及ぼす影響を正確に測定するため、外部の研究に着想を得た新しい手法を開発。EIBISの調査データとMoody's Orbisのバランスシートデータを組み合わせた今回のデータ分析において、手法の妥当性が検証されている。

この分析の結果、3つの知見が示された。第一はAI導入が労働生産性を平均4%押し上げる効果を持つこと。経済的に意味のある効果だが、予測された変革シナリオよりも控えめな結果となった。これは長期的な全要素の生産性向上ではなく、短期的に効率の向上をもたらす補完的な要素として機能することを示唆している。

第二は雇用への影響で、分析からは短期的な減少は確認されなかった。単純な比較ではAI導入企業は非導入企業よりも多くの労働者を雇用する可能性が示唆されたが、選択効果を調整するとこの可能性は消失するという。

ここまでの調査で、雇用へのマイナスの影響がないこと、そして生産性を向上させることが確認された。つまり、AIは労働力を置き換えることなく生産性を増強する存在と言える。この生産性向上は、労働者に賃金上昇の恩恵を与えることも示された。ただし、長期的に持続するか、公平に分配されるかは不透明であり、継続的な観察が必要とされる。

第三は企業規模による影響の違いで、規模が大きくなるほど生産性が向上することが明らかになった。これは規模が大きいほどAI導入コストの吸収能力が高く、加えてデータインフラや専門人材、業務フローの再設計能力など、AI活用に必要な条件を整えやすいことによる。欧州では中小企業を中心とする産業構造のため、企業間および地域間の生産性格差の拡大が懸念されている。

今回の調査では、AI導入だけでは十分な効果が得られないことも明らかになった。ソフトウェアやデータ基盤への投資が1ポイント増えると、AIによる生産性向上効果は2.4ポイント高まり、人材育成への投資を1ポイント増加すると、5.9ポイントの向上効果が得られることが確認された。AI技術を導入するだけでは限定的な効果しか得られないことから、企業は無形資産や人材に投資し、業務への効果的な統合を行う必要がある。

投資と人材育成がAI活用の成果を左右する

欧州各国の政策面の分析では、AIの恩恵を受けられる環境づくりが課題として示された。企業規模の拡大が生産性向上に寄与することから、中小企業を支援する取り組みが重要となる。そこで研究者は、成長著しい企業に資金を円滑に誘導する金融市場の整備を提案している。

また、AI活用に必要な条件整備も推進すべきとして、AI統合、業務フローの再設計、人材育成への投資も促している。特に、AIと人間の協働を支える技能の育成が重要であり、職業訓練や高等教育、生涯学習の強化を求めている。

最後に、研究者は雇用の減少が見られない調査結果について、政策立案者に油断しないように警告している。今回の調査は長期的な信頼性に疑問があり、今後技術の高度化が進めば労働力の代替が進む可能性があるという。また、賃金上昇が特定の技能に偏れば所得格差が拡大する恐れもある。AIの普及が進む中で、労働市場の変化を継続的に監視し、包摂的な成長を実現するための政策対応が不可欠になると結論づけている。