朝焼けが街を包んでいく中、取材で品川駅を訪れたとても筆者は驚いた。港南口のコンコースに、ウルトラマン、ウルトラマンティガ(以下、ティガ)、ウルトラマンゼロ(以下、ゼロ)の3体の広告が大きく掲出されているではないか。

  • 品川駅に掲出された広告

    品川駅に掲出された広告

ちょうどティガ放送時期に幼少期を過ごした筆者は戦闘シーンに一喜一憂し、テレビにかぶりついて勝敗を見守った。邪神ガタノゾーアが登場したときは世界の消滅を心から心配していた。あの日、私たちは確かに光の戦士だった。当時、筆者はほとんどの写真でティガの変身ポーズか、必殺技ゼペリオン光線のポーズをとっていた。ちょうど30年前の話である。

しかし、よくよく見るとこの広告はウルトラヒーローの広告ではなく、法人向けクラウドセキュリティサービス「HENNGE One」の広告だ。なぜ、法人向けのSaaSを提供するHENNGEが、ウルトラヒーローを広告に起用したのだろうか。疑問が湧いてくる。

そこで今回、広告のイメージキャラクターにウルトラヒーローを起用した狙いとその反響について、HENNGEと円谷プロダクション(以下、円谷プロ)の担当者に取材した。奇しくも、ティガと同じくHENNGEも2026年に創業30周年を迎えると聞き、不思議な縁を感じた。

  • ウルトラヒーロー3体を起用しHENNGE Oneの機能を訴求した

    ウルトラヒーロー3体を起用しHENNGE Oneの機能を訴求した

第一弾のコラボレーションで認知度が2倍に向上

両社の取り組みは今回が初めてではなく、2回目のコラボレーションとなる。第一弾の取り組みは2022年にさかのぼり、当時はSaaSマイグレーション(導入)を加速させるため、「+1でSaaSが加速する」と題したキャンペーンを、広告代理店を交えながら企画したという。

当時はヒーローとしてウルトラマン1体が登場し、企業の情報システム部が抱える課題を怪獣に見立て、ウルトラマンが怪獣たちの起こすさまざまな問題を解決するストーリーを展開した。

例えば、ITに関する費用の問題を、お金が好物のカネゴンに見立てたり、SaaSの導入でIDやパスワードが増える課題を、分身術の能力を持つバルタン星人に見立てたりといった具合だ。セキュリティの問題は「ダダ漏れ」からダダが選ばれた。怪獣キャラクターの選定にも強いこだわりを感じる。

2019年から継続して実施しているブランド認知調査の結果を見たところ、ウルトラマンを広告に起用した2022年は前年と比較して、認知度が倍増していたそうだ。第一弾の広告施策が終了した2023年~2024年は認知度に大きな変化が見られなかったことから、ウルトラマンを起用した広告の効果がうかがえる。

当時のコラボレーションについて、円谷プロのプロジェクトマネージャーを務める藤田浩氏は「当社としても、ウルトラヒーローを作品以外にも使用したい意向があった。広告代理店を通じてHENNGEから相談をいただいた際に、セキュリティを守るSaaS製品と、地球を守るウルトラマンの共通点を感じ、一緒に取り組みたいと思った」と振り返る。

  • 円谷プロダクション 営業本部 シニアプロジェクトマネージャー 藤田浩氏

    円谷プロダクション 営業本部 シニアプロジェクトマネージャー 藤田浩氏

第二弾では3体のウルトラヒーローが登場 - 3世代のヒーローファンに訴求

HENNGE Oneは2024年4月、SaaSの増加に伴うIT管理負担の増加や、SaaSの設定ミスによる情報漏洩リスク、標的型攻撃などの新たなセキュリティリスクの増大に対応するため、Edition機能を3つに再編した。

その3つとは、アクセス制御とシングルサインオンで安全なID連携を支援する「Identity Edition」、メールやクラウドストレージを使用する際の情報漏えいを防ぐ「DLP Edition」、不審なメールやファイルの自動検知と隔離を実現する「Cybersecurity Edition」だ。

以前の同サービスでは、シングルサインオンやアクセス制御を中核とする「IDP Edition」と、メールセキュリティを支える「E-Mail Security Edition」という2つのEditionを提供していた。そのため、新たな"3つのEdition"というブランドの認知度は低かったという。

そのような状況を打破するため、「3つのEditionを打ち出す施策を社内で検討していた。第一弾のウルトラマンとのコラボレーションの結果を踏まえ、3つのEditionを3体のウルトラヒーローに見立てたキャンペーンが実現できないかというアイデアが社内で出たため、円谷プロに相談した」と、HENNGEのブランド戦略を担当する西村和紘氏は話していた。

  • HENNGE Corporate Communication Division Brand Strategy Section Section Manager 西村和紘氏

    HENNGE Corporate Communication Division Brand Strategy Section Section Manager 西村和紘氏

また、同氏は「SaaSの機能を説明するクリエイティブにしてしまうと、よくあるB to B向けの広告になってしまう恐れがあった。製品の認知度は既に高まっていたと考えたことから、3つのEditionを3体のウルトラヒーローで表現するシンプルな方針に決めた」と、広告制作の意図を語っていた。

  • 3体のヒーローが立ち上がるシンプルなクリエイティブを制作した

    3体のヒーローが立ち上がるシンプルなクリエイティブを制作した

2026年はウルトラマンシリーズ放送開始から60年を迎える大事な年となる。円谷プロでは、シリーズ全体にスポットを当て、さまざまな方面で盛り上げるための施策の展開を検討していた。

3世代にわたって親しまれてきたウルトラヒーローの魅力を訴求したい円谷プロと、3体のウルトラヒーローでHENNGE Oneの3つのEditionを訴求したいHENNGE、両社の狙いが合致した。

「放送開始から60周年を迎えるウルトラマンと、HENNGEと同じく30周年を迎えるティガ、そしてお子さんの世代に人気のあるゼロをそれぞれ起用することで、当社としてもウルトラマンシリーズ60周年のプロローグになると考えた」と藤田氏は語る。

さらに、HENNGEの西村氏は「3体のウルトラヒーローの特性と、3つのEditionの機能がピッタリ合致していたので、なんとしても実現したかった」と打ち明けてくれた。

  • 3世代に親しまれているヒーローがそれぞれ選ばれた

    3世代に親しまれているヒーローがそれぞれ選ばれた

HENNGEのウルトラヒーロー起用はなぜ成果につながったのか

HENNGEが実施した認知度調査によると、3体のウルトラヒーローを起用した広告施策の結果、施策前と比較して認知度が5ポイント上昇したという。また、「広告宣伝がうまい」というイメージも以前と比較して2倍以上に上昇している。

加えて、「セキュリティに強そう」「先進的」「信頼できる」といった項目も回答が軒並み上昇しており、ウルトラヒーローのクリエイティブが持つイメージが、HENNGEの訴求したい製品イメージに寄与したことがうかがえる。

さらに、YouTubeやTVerなどデジタルチャネルで動画広告を配信したところ、完全視聴率は約40%を記録した。動画の半分以上を視聴したという視聴者も50~60%だった。スキップされてしまいがちな動画広告においても、強く興味を引いたことが分かる。

筆者が品川駅でティガの広告を見かけたように、HENNGEの広告施策はデジタルだけにとどまらない。HENNGEは品川駅の他に山手線車内や羽田空港などにも広告を掲出。その結果、ウルトラマンに興味を持った人が広告について調べ、HENNGEを知るという行動にもつながった。

  • 山手線でもプロモーションを展開した

    山手線でもプロモーションを展開した

『ウルトラマンダイナ』の主人公 アスカ・シン役でおなじみのつるの剛士氏も、羽田空港でHENNGEの広告を見かけたとX(旧 Twitter)に投稿している。

こうしたHENNGEの施策について、円谷プロの高橋俊哉氏は「ウルトラヒーローの強さや安心感のイメージを、B to Bサービスのキャンペーンに活用いただく機会は増えている。HENNGEの広告が優れているのは、IT運用の意思決定者だけでなく、ストリートのカルチャーに溶け込むマス広告として違和感なく展開している点」だと分析している。

  • 円谷プロダクション 営業本部 営業部 セールスグループ 高橋俊哉氏

    円谷プロダクション 営業本部 営業部 セールスグループ 高橋俊哉氏

HENNGEの西村氏は同社の創立30周年に際し、「近年はセキュリティに関する世の中の興味関心が高まっている。製品ももちろんだが、HENNGEの価値を皆様に届けていきたい」と、今後の展望を語った。

また、円谷プロの藤田氏は「ウルトラマンシリーズの60周年を目前にして、シリーズ全体のファンが盛り上がっているのを感じる。最近では女性のウルトラヒーローファンも増えてきた。HENNGEとのコラボレーションを好例として、多くの方の生活に密着する盛り上がりを仕掛けていきたい」と話していた。

ティガをはじめ、ヒーローが人間と協力して怪獣に立ち向かうシーンもシリーズ作品の見どころだ。HENNGEとウルトラマンシリーズのコラボレーションは、互いに強い相乗効果を生み出した。セキュリティやIT運用に不安があるのならば、専門のSaaSに頼ってみるのも一つの手だろう。

  • 取材の様子