大東建託・竹内啓の『縮んで伸びる』戦略 「活動エリアを絞り、事業の質を上げる」

活動エリアを100から70に縮小して

「2025年は非常に微妙なバランスの上に成り立っていた1年だったと感じている」─こう振り返るのは、大東建託社長の竹内啓氏。

 大東建託は賃貸住宅建設・賃貸住宅物件の一括借り上げ(サブリース)・不動産仲介を手掛ける。賃貸住宅管理戸数では25年まで29年連続で業界首位を記録している。

 だが、特に地方での状況は厳しい。例えば過去に建築した物件が完成してきても、なかなか入居者が入ってこず、家賃を引き下げざるを得ないというケースも出ている。

 そこで大東建託では25年1月から、建築営業の活動エリアを家賃の値上げが可能な中心部に絞り込んだ。その結果、それまで展開してきた活動エリアを100%とすると、70%にまで縮小。「エリアを絞って、より『中』に入っていこうという判断」と竹内氏。

 ただ、活動エリアを絞ったからといって、建築費は安くならず、金利は上昇傾向にある。日銀は25年12月に政策金利を0.75%に引き上げ、今後もさらなる利上げを見据えている。では家賃を上げられるかというと、そう簡単ではない。

 しかも、エリアの「中」に入っていくと競合も増える。新築だけでなく建て替えも手掛けるとなると、解体費用や弁護士費用などのコストも上乗せされる。これらを吸収する努力をしつつ、過去に供給過多になっていた8カ所の営業所の改善も同時並行で進めた。

「社員がこの方針に対して腹落ちして取り組んでくれたことが大きい。限られた時間の中で、それ以前と同じか、それ以上の実績を上げることが大事。同時に働く時は働き、休む時は休むことを徹底した。この方針は定着してきたと思う」

 こうした「守り」だけでは売り上げ、利益ともに減少となってしまうため、新たな事業が必要になる。そうして進めてきたのが不動産開発事業。「賃貸一本足から、不動産開発を加えたことにより、全体の在庫が約2800億円蓄積された。これが今後、販売用不動産として市場に出てくる」と竹内氏。

 25年に不動産開発を手掛けるアスコットを子会社化しているが、同社が手掛けた物件も売却フェーズに入っている。

「本業(賃貸事業)が厳しいところを、次の柱がうまくカバーしてくれた。こうした努力の結果、利益は当初の予定よりも上がる結果になってきている」と手応えを感じている。26年3月期は売上高1兆9700億円(前期比6.9%増)、営業利益1250億円(同5.2%増)を見込む。

 26年も引き続き、業界の環境は楽観視できるものではないため、継続した取り組みが求められる。これに対して、自助努力に加えて、金融機関の支援も得られている。

 従来、最長で35年ローンだったものを40年、一部は50年ローンを実行してもらうことで、事業利回りを維持している。しかもどこか1行だけでなく、取引のあるほぼ全ての金融機関で対応してもらっている。

 そして、適正な利益確保を目指しての家賃値上げも実施。ただ、「急激な値上げはお客様も、現場も付いていけない」として、状況を見ながら、少しずつ値上げをしていく方針。そのための活動エリアのシフトでもある。

 資材の安定調達によるコスト削減の努力も進めている。25年に住友林業の子会社である製材会社に出資、国産木材の安定調達を進めている。

能登地震からの復興住宅を受注

 一方で、25年は気候変動や、自然災害の影響を強く実感する年でもあった。

 そのため、厳しい環境下でも環境問題への対応を進めている。ここ数年、日本でも気温上昇が実感され、多くの人が「四季」がなくなっているような感覚を持っている。そうした中で大東建託が供給する物件の約9割はZEH(Net Zero Energy House)となっている。ZEHの供給契約戸数は累計で14万戸に達した。

 また、事業運営に必要な電力を全て再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的イニシアチブである「RE100」の達成を目指しているが24年の兵庫県朝来に続き、25年4月には岩手県一戸でバイオマス発電所の営業運転を開始。来期のRE100達成に目途を付けた。

 また、24年元日に発生した能登半島地震では、大東建託は本社が指示を出す前に関東の支店の支店長や社員達が支援物資を集めて、自分達で車を運転して現地に運んだ経験を持つ。

 その時からの縁もあり、25年11月、地震発生後、能登町初の震災復興公営住宅の入札に参加。宇出津団地30戸、松波団地27戸の計57戸の住宅と、両団地の集会所・コミュニティスペースの供給事業者に選定された。26年5月中旬に着工し、27年2月に竣工、3月に引き渡し予定。

 住宅は断熱性能が高く強靭なCLT(直交集成板)工法で建設する他、屋外でもコミュニティ空間を充実させる。「最終選考で2社が残ったが、6人の審査員から6票を入れていただいた。当社の提案をご評価いただけたことが嬉しい」と竹内氏は笑顔を見せる。

DX、外国人の活用で人手不足問題に対応

 今、日本では全産業的に人手不足が叫ばれているが、特に建設業界では深刻化している。2040年には生産年齢人口の減少による労働力不足、「2040年問題」も叫ばれている。この対応は喫緊の課題だが、どのように対応するのか?

 1つはDX。「人が不足しているのだから、DXの力で効率化することが大事になる」。その一環として、自社で電子施工管理システム「タクミビルダーズコネクト」を開発。自社での活用のみならず、25年4月からは外販も進めている。

 このシステムは見積書、注文書、請求書、作業員名簿が管理できる他、下請契約台帳や施工体系図を作成でき、デジタル管理することが可能。「これまで紙でつくっていたものがデジタル化され、管理コストを削減することができる」

 加えて、現場の施工管理には「遠隔支援アプリ」を導入。タブレットやスマートフォンで、建物の施工の状態などを確認、検査することができる。現場の管理者は移動時間などを削減でき、生産性の向上につながる。

 こうした仕組みの確立には長い期間の積み重ねが大きかった。まだ「電子手帳」が使われていた1990年代から、端末を使った管理など、デジタル化への移行を進めてきた。

 不動産取引の電子化による生産性の向上にも積極的。大東建託のグループ会社であるキマルームは、24年7月から賃貸取引に特化した電子申込・契約サービス「キマルーム 電子申込」「キマルーム 電子契約」を提供してきたが、25年12月時点でその利用拠点数が2万3000カ所を突破した。

 22年5月に宅地建物取引業法が改正され、賃貸借契約の電子化が全面解禁されたことを受けての取り組み。ただ、仲介業者や管理業者の中には、まだデジタル化が進んでいないところも多いため、キマルームのサービスを提供することで、この課題解決に取り組む。2030年までに現在の約3倍となる7万カ所での利用を目指している。

 同時に、外国人人材の活用も進める。24年12月、施工管理に従事する人材として、ウズベキスタンのタシュケント工科大学から5名を採用。同大学はウズベキスタンが独立した後、初代大統領となったイスラム・カリモフ氏の出身校(当時は中央アジア工科大学)でもある。この5名はすでに首都圏の現場で仕事に携わっている。25年9月にはウズベキスタンで第2期採用の面接を実施、26年は3名が入社予定。

 さらにはインドネシアのシンガプルバンサ・カラワン大学(UNSIKA)では大東建託の専門講座を開講、現在26名が受講している。この中の日本語資格試験(N2)合格者の中から5名程度を選抜する予定。面談の通過者は1級建築施工監理技士講座、日本についての知識習得講座を受講した後に来日し、27年12月に入社の予定。

「彼らの吸収力、熱意に驚いている。半年で日本語の尊敬語、謙譲語について話すレベルにまでなっている。人手不足解消のためには、来日する人たちに日本のルールやマナーをきちんと教えると同時に、来た後のケアをしっかりとすることが大事」

 女性の活躍も重要な課題。大東建託では、施工管理に携わる女性社員が妊娠や出産、子育てといったライフイベントに直面した際、一定期間、工事課(事務職)、設計課、積算課の3つの部署の中から希望の職種に転換できる制度を導入。

 建築現場の環境整備も進める。現場の仮設トイレは特に女性に敬遠されがちだが、洋式の水洗トイレで、臭いの逆流防止機能や二重ロックを備えた「快適トイレ」を男女別と男女兼用の2種類用意。

 地道な取り組みの結果、大東建託の女性現場監督は20年度の9名から、25年度には45名に増加。さらに26年4月には12名が入社予定となっている。

中期経営計画の達成を見据えて

 26年度は大東建託にとって、現在進めている中期経営計画の最終年度となる。竹内氏は「目標としている売上高2兆円、営業利益1400億円、ROE(株主資本利益率)20%は必ず達成する」と意気込む。

 主力である賃貸住宅事業に加えて、不動産開発事業を新たな柱として育成中だが、賃貸マンション・アパート、ホテル、ヘルスケアの他、物流施設の開発も手掛けている。「物流施設はリスクを抑えたやり方で、利益を最大化するよう取り組んでいる」

 また、引き続き、主要都市でのホテル不足は続いており、開発を進めている。ホテル、賃貸住宅、どちらにも活用できる仕様で、状況に応じて転換できるようにしているため、こちらもリスクを抑えた取り組み。

 ただ、事業が多角化する中でも、竹内氏は「バランス」の重要性を訴える。

「今がいいからといって、全て不動産の方に行ってしまうと、万が一暴落するようなことがあると大変なことになる。今だけ利益が上がればいいということではなく、長期的に安定した状況で供給ができ、それが市場に受け入れられていくというものを提供していく」

 その意味で、今後も「時間を買う」という観点でM&Aの活用も進めていく。そして、大東建託にとってだけでなく、グループ入りした企業にとってもプラスになるM&Aを実行することを目指す。

 例えば、前述の不動産開発を手掛けるアスコットはグループ入り前、資金調達に苦労していた。借り入れ金利も高かったわけだが、大東建託のグループ企業になった後は、その信用で、低い金利での借り入れが可能になり、土地の仕入れもしやすくなった。

 大東建託にとって、都内での不動産開発のノウハウを1からつくろうと思うと時間がかかる。その点でさらに不動産開発を拡充していく意味で「今後もM&Aを検討していきたい」。

 また、海外事業として米国市場の開拓も進めているが、ここでも現地の管理会社の買収を検討している。

 大東建託はここまで、売上高でも2兆円に迫ろうという状況にまで成長してきたわけだが、将来において竹内氏は、この会社を社会においてどういう存在にしていきたいと考えるのか。

「能登半島地震で強く実感したことだが、我々は住宅というかけがえのないインフラを提供させていただいている。住宅がなければ人は生活できない」

 住宅で生活している人が、年齢を重ねて介護施設や病院を必要とする時が来る。これらのインフラを全てつなげて「生活のサークル」をつくる存在でありたいというのが竹内氏の考え。

 そして、震災が起きても倒れないような強靭な建物をつくり、水道やガスが止まっても、早く復旧させる体制をつくると同時に、それに関わる社員が満足度を持って働くことができる会社を目指していく。

 そうした企業であるためにも、売り上げ、利益を上げて成長し続ける必要がある。安定的な成長と攻めの投資という両輪経営である。