
トランプ米大統領は国際秩序の維持・発展を考えていない
─ 前回は、米国のベネズエラ作戦について、これが国際社会の秩序維持にどのような影響を与えるかを考える必要があるという指摘でした。
森本 まず、この問題を中国がどう見ているかということは気になります。推測ですが、中国は米国がベネズエラで恰好のオペレーションをやってくれたと思っているかもしれません。というのは、中国が精鋭の政治工作員を台湾に送り込み、台湾の政治リーダーを拘束・拉致して大陸に移送できたら、少なくとも台湾の政権は崩壊します。しかも、武力攻撃をしているわけではないので米国も手が出せない。つまり、中国による非軍事オペレーションで台湾統一が可能になる。
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実際のところ、中国が台湾に対してベネズエラ侵攻のような作戦を実行する可能性は低いと思われます。また、国連憲章第2条4項に違反する行動を取るわけではないので、中国が国際法違反として非難される筋合いはないと考えても不自然ではありません。
─ 本当ですね。いずれにしても米国の行為は国際法上、明らかな違法ですね。
森本 しかも、米国とベネズエラの関係とは違って、中国はもともと台湾も中国の一部と主張してきたわけですから、中国は武力を行使して台湾統一を図るよりも、米国の行動を参考にしてオペレーションを行えば、自分たちが悪者にされることはないと考えるかもしれません。
トランプ第二次政権になってから1年になりますが、この間に決定的に重大なことが起こりました。2025年2月に開催されたミュンヘン安全保障会議での演説において、バンス米副大統領は、米国の視点から見ると欧州では価値観や言論の自由、民主主義が後退しており、多くの移民の流入によって欧州社会が崩れかけていると批判したのです。この演説に欧州の参加者は怒って、米国とは価値観を共有できないというムードが高まってきました。これが米欧関係を急速に後退させた原因であったと思います。
─ トランプ大統領が獲得を目指すデンマーク自治領グリーンランドを巡っても、欧州との対立が激しくなりましたね。これは、どうなりますか。
森本 トランプ第一次政権以前から、米国内ではグリーンランドを取得すべきという議論が盛んでした。2017年から19年頃にかけては、レアアースなどの鉱物資源確保を目的に、アラスカのような買収・購入を中心とする経済安全保障の議論がほとんどでしたが、デンマーク政府やグリーンランド自治政府は断固として拒否する姿勢を示しました。
第二次政権発足後も当初は同様のアプローチが取られていましたが、26年1月以降、トランプ政権は全米防衛システム「ゴールデンドーム」配備による中・ロへの戦略的対応を軸とした安全保障重視のアプローチを進めようとしました。
ただ、同年1月のダボス会議を契機に、対話の枠組みを通じて相互に関与しながら解決を図る方法へと転換しました。ここまではルッテNATO(北大西洋条約機構)事務総長の功績です。
しかし、デンマークはグリーンランドを手放す考えはないという姿勢を依然として崩しておらず、また、米国はグリーンランドを敵対国から守ることができるのは米国だけであるとの確信を持っています。
そのため、この問題はグリーンランドの取得というよりも、冷戦期を乗り切ってきた西側同盟の将来をどのように捉えるのかという問題へと移行しつつあります。日本にとっても他人事ではありません。
─ ゴールデンドームを配備するのに何故、グリーンランドの全部が必要なのですか。
森本 米国はすでにグリーンランドに宇宙基地を持っており、150人ほどの要員がいます。ゴールデンドームは、グローバルに展開された宇宙システムによって早期警戒・監視・追跡を行い、米国本土の地上システムと連携することで大陸間弾道ミサイルなどに対処する新たな戦略システムです。
グリーンランドは米ロ両国にとって地政学的に重要な位置にあります。米国は将来的な中・ロの進出を阻止するために、グリーンランドの戦略的基地と米国本土のシステムを連携させ、ミサイル到達までのあらゆるフェーズで撃破できるようにすることを考えています。
トランプ氏は在任中にこれを成功させようとしていますが、具体的な取り組みはまだ明らかではありません。
NATOはもっと早い時期からグリーンランド防衛に努力すべきであったのです。要するに、米国は、欧州だけではグリーンランドを防衛できないにもかかわらず米国の要求を拒否するのであれば、欧州の安全保障に貢献する考えはないという立場を取っており、今後の米欧同盟関係が心配です。