
架空の金融商品への投資を持ちかける
「この報酬制度は金銭に過度な執着を持つ人間を惹き付ける」─こう話すのは2026年2月1日付でプルデンシャル生命保険社長に就任した得丸博充氏。
外資系生命保険大手のプルデンシャル生命で、大規模な顧客からの金銭詐取が明らかになった。100人以上の社員、元社員が約500人の顧客から合計約31億円を不適切に受領していた。このうち、約23億円は顧客に補償されておらず今後、第三者で構成する「お客さま補償委員会」で検討する方針。
この問題を受けて、プルデンシャル生命は社長の間原寛氏が2月1日付で引責辞任。また、これに先立つ25年10月には持ち株会社であるプルデンシャル・ホールディング・オブ・ジャパン(POJ)会長兼CEO(最高経営責任者)の濱田元房氏も事実上、引責辞任している。
金銭詐取の手口は、例えばプルデンシャル生命の社名が記載された書類を使って信用させた上で架空の金融商品への投資を持ちかけたり、「プルデンシャル生命の社員しか買えない株があり、絶対利益が出て元本を保証する」として金銭を預かるといった事例が明らかになっている。
プルデンシャル生命の報酬体系は、入社後、一定期間を経過した営業社員は、自身の業績が給与に連動する「フルコミッション(完全歩合)」を採用。固定給はなく、契約が取れれば給与は跳ね上がり、逆に取れなければ給与が得られない仕組み。
この報酬体系は、プルデンシャル生命自身が検証した事案の原因につながっている。それによると、顧客との密な関係によって不適切事象の検知が十分ではなかったこと、業績に過度に連動する報酬制度が金銭的利益を重視する人材を惹き付け、営業社員の収入の不安定さが不適切行為につながるリスクを増大させたとしている。
そして、そうした行為を検知できなかった経営管理態勢、営業社員を過度に尊重し、高業績者が大いに称賛される組織風土があり、そうした社員の発言権が大きくなりがちだったということも背景にある。こうした問題に対し、社長の得丸氏は「再発防止策を、私の責任で実施していく」と話し今後、報酬体系や管理態勢を見直していく。
根深いのは今回の金銭詐取が1991年から始まっていたこと。米プルデンシャル ファイナンシャルが日本法人を設立したのが87年のため、日本における創業から4年後には不正が始まっていたことになる。
プルデンシャル生命の源流は1979年に米プルデンシャル とソニーとの合弁で誕生したソニー・プルデンシャル生命保険。両社はその後、合弁を解消し、ソニー・プルデンシャル生命はソニー生命保険となった。
日本におけるプルデンシャルの創業者として、今も信奉されているのが故・坂口陽史氏。日本人で初めて、米国のアクチュアリー(保険数理人)試験に合格し、現在のプルデンシャル生命の礎を築いた。
日本の生命保険業界に風穴を開けるべく誕生したプルデンシャル生命だが、「日本で地位を上げるには〝圧倒的条件〟がないといけないということがあった。それが『マネーモチベーション』だった」と話すのは、プルデンシャル生命の元社員。
その方針が日本企業で営業を頑張っても、それに見合った給与が得られないという思いを抱く人材を惹き付けた。基本理念は「C=C」。会社と営業社員の関係はContribution(貢献)=Compensation(報酬)だということ。
ただ、坂口氏の理念は同時に、頑張って報酬を得られても、その使い道は営業社員自身に問われているのだという倫理観を問うものでもあり、そのための理念教育も行っていた。この元社員は「契約さえ取ってくれば多少のことには目をつぶったり、人間的にどうだろう?という人間も契約さえ取れば評価された。明らかに不正をしているように見える社員も見受けられた」と振り返る。坂口氏の理念を逆手に取っていて、それが見過ごされてきたということだろう。
また、会見によると今回の金銭詐取は成績が厳しい人間だけでなく、高業績者も行っていたことがわかっている。背景として、この元社員は「節税保険の規制」を挙げる。「節税保険」とは、保険料の支払いで法人税を抑えた上で高額の解約返戻金を受け取ることができ、それを役員退職金などに充当すれば課税を回避できるという法人保険のこと。商品によっては保険料を全額、損金として処理することが認められていた。
だが19年2月の税制改正で大幅なルール改定が行われ、損金に参入できる保険料の割合は4割とされた。この改定は「バレンタイン・ショック」とも呼ばれた。
プルデンシャル生命の顧客は経営者や士業など富裕層が多いとされているが、個人保険で手数料を稼ぎ続けるのは件数の問題もあり難しい。法人保険であれば契約できる金額の桁も変わる。「高業績者の多くが法人保険で実績を上げていた」(元社員)。だが、節税保険のルール改定で稼ぎづらくなり、これが近年の不正の一因になっていたのではないか?という指摘。
今後は報酬体系の改革などが打てるかが問われるが、これまでのやり方で明治安田生命保険や住友生命保険といった国内大手と保険料等収入で伍してきただけに、営業社員のモチベーション低下、ひいては会社の業績低下につながる可能性もあるだけに社内の抵抗も予想される。
だが1月28日には金融庁が緊急の立ち入り検査を実施、その後の厳しい行政処分も予想される。得丸氏以下の経営陣が本気で改革を進めなければ、顧客離れが強まる恐れがある。