【金融国際派の独り言】長門正貢・元日本郵政社長「海外生活:悪いヒトと良いヒトと」

 ボストン、ヒューストン、ニューヨーク2回、バンコック等、計17年、海外4カ所に住んだ。海外での充実生活の為の一つの秘訣は、その地を積極的に好きになることだ。

 『ロンドンはいつもシトシト雨が降っていて大好き。ここは晴れの日ばかり。たまに降れば大雨。大嫌い』と言っているようでは良い仕事は出来ない。

 前向き人生を意図的に目指していても、煩わしい小さな問題が海外生活を曇らすことがあるのも事実だ。個人的にはコソ泥君との出会いが煩わしかった。車を盗まれた。中古で安価なスポーツカーだったが、格好良過ぎたのが災いし、盗まれてしまった。

 不法駐車を警察が発見し車を取り戻すと置手紙があった。『良い車だな。エンジョイしたぜ。またな』。追加盗難対策も空しく、予告通り、数週間後、再び盗難されてしまった。

 ニューヨークで赴任者全員でのゴルフコンペがあった。郊外リゾート地、綺麗で大きな湖がある所だった。表彰式も終わり、懇親会場を出、車で帰路についてすぐ、『いけね、ポシェットを忘れた!椅子に引っ掛けたままだ!』。

 直ちに会場に戻った。出てから15分ほどか。ここはアメリカ、無論、ポシェットは消えていた。懇親会場担当の係員に聞くと素っ気なく、『そんなもん、何もなかったね』。

 それから数年後。帰国し、本店で仕事をしているとニューヨーク支店から手紙が届いた。『ある方から同封手紙と小さな箱が支店に送られて来ました。お受け取り下さい』。同封の手紙を読んだ。

 『休暇でリゾート地に行き、魚釣りをしていた所、古いポシェットが釣れました。中には財布や鍵が入っています。勤務先の入館パスも入っていたので、その住所に全てお送りします。長門さん、という方かな、ご本人にお渡し下さい』。

 ポシェットを盗んだ後、現金だけを抜き、あとは湖に放り投げたのだろう。アラン・ドロンの映画『太陽がいっぱい』さながら、湖底に沈んでいたポシェットを釣ってくれたのだ。

 同封の箱の中に懐かしいポシェットがあり、乾いた湖底の砂に混じり現金以外の全てが入っていた。手紙末尾にはJohn、とだけ書かれていた。

 外国も日本も所詮、人間が創った作品で大差はないと感じている。悪い人が必ずちょっといて、とっても素晴らしく親切な方々も必ずおられる。留学先で親代わりになってくれたホストファミリーの老夫婦。

 車事故に巻き込まれた際、『お前のせいじゃない。俺は証人になるから、この住所・TEL番号を使ってくれ』と志願してくれた中年男性。海外赴任地が嫌いにならずに海外派として会社員人生を全う出来た一つの理由である。