
米国の政権内でも考え方が異なっている
─ 新年早々、米国がベネズエラに武力攻撃を仕掛け、マドゥロ大統領の身柄を拘束するなど、世界の緊張感が一気に高まっています。まずは現状の受け止めを聞かせてください。
森本 まず、国際法上の根拠をどのように考えるべきかという問題ですが、米国内では、正当な対応ではないという見方が過半数を占めている一方、共和党支持者の間では約9割が正当な対応だと見ているようです。その理由は二つあります。
一つは、米国社会にとってベネズエラによる麻薬密輸が容認できないものであったため、米軍は法執行作戦として対応したのであって、武力攻撃を行ったわけではないという点です。もう一つは、米国の敵対勢力である中国やロシアのような国々にベネズエラが便宜を与えていることは断じて許さないという立場に基づくものである、ということでしょう。
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加えて、ルビオ国務長官が、西半球が米国の敵対勢力の活動拠点として利用されることを容認しない姿勢を示していたことも挙げられます。
─ 米国内で正当性があると言っても、国際法上は違法ですよね。
森本 国際法の観点から見ると、明らかに問題があります。国連憲章第2条4項に定められている「すべての加盟国は国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全あるいは政治的独立に対するものも含めて、慎まなければならない」という規定が国際法の基本原則ですので、たとえ、法執行であるとしても、今回は相当な規模の米軍を展開して行われた軍事行動であり、違法であると考えられます。
すなわち、今回の作戦について米国は法執行のための作戦であると主張していますが、実際には武力行使の一環として行われた軍事行動であり、国際法に違反しています。さらに言えば、ベネズエラにおける活動は自衛権の発動につながるような差し迫った、あるいは進行中の武力攻撃に直面している状況ではない。
2003年のイラク戦争は、後に米国による違法な行為であったと評価されることになるのですが、それに至るまで米国は国連安全保障理事会において、いかなる理由でイラクに侵攻しなければならないのかを縷々説明してきました。このように反対意見があることはやむを得ないのですが、いずれにしても国連において説明努力を行うべきです。しかし、今回そのような説明は一切行われていません。さらに、米国議会における事前の承認も得ておらず、必要な手続きも踏まれていないのです。
─ そのことが独善的な軍事行動だという声につながるわけですね。
森本 あえて言えば、直接関与していない民間人を軍が意図的に殺害することは違法です。これに対し、米国は麻薬組織と武力紛争の状態にあると主張し、麻薬を運搬する者は単なる民間人ではなく非合法戦闘員であると定義することによって、軍事行動の正当化を図ろうとした。しかし、このような解釈そのものには無理があります。
こうした法的解釈が存在する中で、米政府内でもその後の対応には違いが見られます。トランプ大統領に近い立場にあるバンス副大統領は、石油という利権を米国がどのように管理していくかという点が重要な狙いであると、率直に述べています。
一方で、ルビオ国務長官は、ベネズエラを安定した民主主義体制へと導くために措置を講じるべきであり、非合法な形で大衆に対する虐待を行ってきた指導部を排除し、適正な民主主義をベネズエラに根付かせるために政治的な措置が必要だと述べています。これは、ルビオ氏がキューバ系アメリカ人であることから、今後の状況を念頭に置いた発言である可能性も考えられます。
いずれにしても、石油利権を重視するのがバンス氏であり、トランプ大統領とも近い考え方でしょう。一方、ルビオ氏は、マドゥロ政権は非人道的な政権であり、これを是正することが米国の責任であると考えています。このように、政権内でも考え方と対応が異なっています。
日本は立場を明確にしていないが…
─ これは政権内でも意見が割れていると言っていいんですか。
森本 意見が割れているのではなく、理屈は分かっているものの、立場や振る舞い方が必ずしも一致していないのでしょう。例えば、欧州内で米国に正当性があるという立場を取っているのはイタリアとウクライナです。
一方、あまり立場を明確にしていないのはドイツと英国。フランスのマクロン大統領も同様ですが、6月にはG-7(サミット)の議長としてトランプ大統領を招く必要があるため、その点で配慮している。ただ、フランス外務省は今回の行動を国際法違反としています。
また、中国やロシアは今回の行為を完全に違法であるとしていますが、その他のアジア諸国はあまり立場を明確にしていません。日本も同様に、立場をはっきり示していません。