
関税の影響額は550億円
「VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代にあっても、(2025年~27年度の)中期経営計画の重点施策を着実に進め、環境変化に応じて優先順位を見直しながら長期視点で成長に取り組む」─。このように今後の意気込みを示すのはコマツ社長の今吉琢也氏。
2025年の建設機械業界は自動車業界と同様に、米トランプ政権による高関税政策に翻弄された1年でもあった。値上げやサプライチェーン(供給網)の再構築などで、いかにコスト削減を進めるか。事業に対する影響度をいかに下げるかに各社が頭を捻り続けている。
コマツは26年3月期業績では米関税コストの損益影響額を550億円と見込む。しかしながら、関税の影響は27年3月期の方が大きくなる。「(売上高の約3割を占める)米国での在庫が25年より少なくなる」(同)からだ。同社は短期的な対策として「いったん米国に入ってカナダに持っていく完成品を直接カナダに持ち込み、関税を回避している」(同)。米国で一時的に部品を保管する場所を米国外にも設けてカナダや中南米に直送することで、数十億円レベルでの削減効果を生み出す。
コマツの関税の影響を和らげる方策は、これ以外にもある。その1つが値上げ。26年3月期は全世界平均で2.4%の値上げを実施し、建機事業で834億円の増益効果を出した。27年3月期も同水準の値上げを展開していく計画だ。米キャタピラーが22~23年にかけて10%を超える上げ幅で値上げを実施したが、販売動向への影響が出たことで25年春には値下げを始めている。
そして、中期的な対応策が生産性改善やクロスソーシング(相互供給)の強化だ。今吉氏は「クロスソーシングは、まだまだ磨き続けることができる」と話す。コマツの海外売上高比率は9割を超える。建設機械は約半分を米国内で生産し、残りは日本やタイなどから輸入している。そして生産体制はグローバル62工場で統括している。
「絶対に生産・調達を止めない」─。これが同社の最重要タスクだと語るのが専務執行役員生産本部長の柳沢是清氏。グローバル企業であるコマツの最大の特長は「国内外62工場を統括し、開発から生産、販売、アフターサービスまでサプライチェーン全体を一元管理する体制を構築している点だ」と語り、「自動車会社との大きな違いは、ここにある」とも強調する。
コマツのクロスソーシングとは、1つの拠点やサプライヤーに依存せず、複数の供給元を確保するというもの。マルチソース化が困難な部品は安全在庫を積み、需要や環境変動、為替を含む変動要素に対する耐久性を高めている。その中で大きな柱は「需要のあるところで車体生産すること」(同)。海外売上高比率80~90%に対し、日本国内生産比率は50%プラスマイナス10ポイントを維持。為替変動に左右されにくい収益構造を構築している。
その際、エンジンやパワートレイン、油圧機器などの性能の差別化の要となる「キーコンポーネントは自前化する」(同)。自社で開発し、しかも日本で生産することによって安定した性能を発揮することができると共に、交換部品の需要はコマツの売上高や利益に貢献する。
ここで重要になるのが品質だ。品質を維持するための取り組みとして同社が導入しているのが「マザー工場制」になる。柳沢氏は62工場のうち9工場を「開発と生産を同一敷地内で行うマザー工場と位置付けている」と話す。新製品の市場投入時には、そのままチャイルド工場に展開することができるため、立ち上げ期間を大幅に短縮できる。
クロスソーシングは部品でも同じだ。例えば鋼材価格は中国が日本の約6割、米国の約4割と安い。人件費も中国は米国の約7分の1、アジア諸国はそれよりさらに低いとされる。柳沢氏はこの競争力を最大限に活用し、「中国からはクローラー(トラックベルト)やデッキなど鋼材の鋼板部品、タイやベトナムからは薄板やワイヤーハーネスを調達している」と説明する。
ブラジル向けで供給体制変更
複数の場所に拠点があることを活用すると同時に、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)やドローバック制度(輸入部品を完成車に組み立てて他国に輸出すれば関税が還付される制度)も駆使し、「ブラジルの関税が50%になったため、ブラジル製品を欧州向けに変更し、米国向けは日本から供給するなど、柔軟に対応していく」(同)。
長期的には製品競争力の向上を最優先課題に据えていく考えだ。柳沢氏は「3年後も関税が続くかは不明。だからこそ競争力強化が最重要」との認識を示す。急速に勢力を高める中国ブランド製品を分解研究し、インドなどで新たなサプライヤーを開拓していく方針だ。「こまめなモデルチェンジで徹底的な〝削ぎ落し作戦〟を展開し、コスト競争力のある製品開発を加速させる」と同氏は強調する。
しかし、同社を取り巻く環境は依然として不透明だ。特にアジアの売上高の半分近くを占めるインドネシアが中国の石炭の国内生産量増加による石炭価格の下落によって不振が続く。
その中でも今吉氏は「グローバルネットワークを活かしてコスト競争力や生産性を一段と強化していく」と力を込める。自らの経営資源の中から解決策を掘り起こすというコマツの実践例である。