
日本アニメを筆頭にコンテンツ産業が「基幹産業」へ
1本のアニメ映画が1000億円以上稼ぐ時代に─。アニメ映画「『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座(あかざ)再来」の全世界興行収入が1000億円を超えた。日本映画がここまで世界でヒットするのは史上初。今やアニメは立派な日本の稼ぎ頭であり、映画業界はアニメ作品なしには生きていけないほどの影響力を持った。先述の『鬼滅の刃』に加え、10/24に全米公開した『チェンソーマン レゼ篇』も全米トップを記録。2025年は日本アニメが世界で脚光を浴び、その地位を改めて確認した象徴的な年であった。
東宝社長の松岡宏泰氏は、 「北米の映画界で〝全米ナンバーワン大ヒット作品〟の中に日本の映画が入るのは至難の業。しかし2025年はこの〝全米ナンバーワン大ヒット〟作品に日本アニメが2作もあったというのは快挙だ」と振り返る。
日本発コンテンツの海外売上は、この10年間で約3倍に成長し、2023年には約5.8兆円となった。半導体や鉄鋼の輸出額を超え、自動車産業に次ぐ規模となった。
政府はこれまで「成長産業」としていたコンテンツ産業を、「基幹産業」に位置付け、「クールジャパン戦略」では33年までに海外売上高20兆円の目標を立てている。
日本アニメはなぜ世界の人々の心を打つのか? このことに対し、セガサミーホールディングス社長の里見治紀氏は次のように分析する。
「アメリカは映画文化で2時間しかない。そのため最初から大人の強いキャラクターが主人公となるケースが多い。一方、日本は漫画文化なので、普通の男の子が努力して試練を乗り越え強くなっていくストーリーが多い。また、日本は敵のキャラクターさえも大切に扱い、ストーリーに盛り込んだりする。世界の人々が、後者のこういった日本的価値感に共感するようになってきたということだと思う」
白黒はっきりつける欧米文化の二元論ではなく、曖昧さも抱えながら自然や他者と共生する日本の価値観が、世界中の人々の琴線に触れる─。混沌とした時代に、人々はそういう価値観に癒されたいという潜在的願望があるのかもしれない。
コンテンツ産業は、アニメだけでなく、ゲーム、エンターテインメントも含め広く包括される。日本発のキャラクタービジネスを行うサンリオは、今年夏、Netflixでアニメ配信を開始し、非英語シリーズ部門で世界2位を獲得した。全世界でサンリオキャラクターの人気に拍車がかかり、同社のグッズ等の販売業績は、北米のみならず特に中国市場で好調だ。
中国のインバウンドは、母国で制限がかかり劇場公開されない作品を、来日した際に映画館で観るということも多いと聞く。
国同士は難しい局面が続くが、人々を楽しませる〝コンテンツ〟はその壁を越え、世界中の個人をつなぎ、心を通わせるツールとして縁の下の力持ち的存在になってきている。
アニメ業界の〝多産多死〟文化のジレンマ
問題は日本がこのコンテンツ産業をどのように戦略的に発展させていくか。業界に詳しい日本総研・ストラテジー&マネジメントグループシニアマネジャーの郷原陸氏は、次のように語る。
「近年は、アニメ自体で儲けるということより、IP(知的財産)の版権で海外市場で利益が上がる構造になっている。日本が世界と異なるのは、クリエーターたちが報酬ではない動機で制作し、いわゆる激しい競争下の〝多産多死〟文化から、品質の高い作品が生まれるのが特徴。対して、海外はビジネス的なノウハウが豊富で、マーケティングなどのビジネス戦略を固め、ヒットを見込んで作品を組織的につくる。日本は多産多死に支えられない関係で制作できる仕組みをつくっていくべき」
日本は質の高い作品が大量にスピーディーに出てくるのが強みであり世界でも存在感を放っているが、一方でこの成果は、漫画家やアニメーターの長時間労働、低賃金に支えられているという現実がある。
アニメ市場全体の需要は拡大しているものの、その売上の9割以上は出資したテレビ局や出版社、広告代理店などの流通業者へ行き、制作会社の取り分は1割に満たない。アニメ制作会社は資金力に乏しく、日本はリスクヘッジ型の制作委員会方式で映画がつくられるため、制作会社はアニメの著作権を所有できないという問題点がある。裏を返せば、制作会社はもし映画が売れなくても大きな損害はなく、配給会社がリスクを取るというシステムで成り立ってきた。
これは日本特有の産業構造の問題でもある。
しかし、日本が今後コンテンツ産業を「基幹産業」に押し上げ、国としての経済成長の要としていくのであれば、労働環境を改善していかなければ、やがて人不足に陥り、猛追する他国に追い抜かれる可能性もある。 「海外市場を見据えた前提で制作する場合、企画、物販の連動、マーケティングなど、総合的な指揮監督ができる人材が必要だが、現状アニメ産業にはそういった人材は少ない」と郷原氏。
この課題感から、現在、世界で活躍するプロデューサ―を育成する「グローバル・アニメ・チャレンジ」というプロジェクトが進んでいる。同社もパートナーとして運営を支援している。
いま日本に必要なのは、コンテンツ産業全体を牽引するグローバル人材。海外において日本のコンテンツ産業をさらに強くしていくリーダーの育成が急がれる。