鹿児島県に本拠を置く医療・介護福祉事業を営むあおぞらケアグループ(ACG)。同グループはスタッフのやりがいと経済的豊かさの両立を目指し、AIをはじめとするテクノロジーを活用して、介護事務の効率化のためのDXを進めている。
デジタル化が遅れていると言われる介護業界において、同グループはどのようにDXを進め、成果を上げているのか。代表取締役の大牟禮康佑氏と上席執行役員 専務の本村知子氏に伺った。
DXでケアスタッフがやりがいと経済的豊かさを得られるように
同社はスタッフのやりがいと経済的豊かさの両立を目指している。そのために、デジタル化を進めて介護現場における事務業務の効率性を高め、ケアスタッフがやりがいとともに経済的な豊かさも手に入れられる仕組みを推進している。
「介護職はともすれば『やりがい搾取』になってしまいます。だからこそ、スタッフの処遇にこだわって経済的な豊かさを実現したい。そのために、ケアの周辺業務を徹底的に効率化したいと考えています」と語る大牟禮氏。
昨今、介護職の給与が労働時間・労働内容に見合っていないことが問題視されている。ますます高齢化が進む日本において、介護のニーズは増えるばかりであり、介護職の重要性も増す一方だ。
介護業界特有の課題として、煩雑なペーパーワークやスケジュール管理が多いことがある。そこで、同社はこうしたアナログな作業を合理的かつ効率的に行える仕組みづくりに着手した。
大牟禮氏は、「当社は10年ほど前からエンジニアを採用しており、システムを開発・運用するDX部があります。システムを内製開発できる点が特徴です」と話す。
訪問介護事業所管理システム、介護施設向け業務効率化システムを開発
具体的には、ホームヘルパーの人材不足により在宅介護サービスを利用できない家庭が多い問題を解消するため、訪問介護事業所管理システム「 CURA(クーラ)」を開発した。同システムは、訪問介護サービス運営の事務員が扱うような情報を整理する。
大牟禮氏は、「訪問介護は労働時間が長く、24時間絶え間なく連絡が来て、その情報について処理して、その内容に沿って次のタスクを行う必要があります。CURAでは、連絡が来たら即座に情報を分別して、人間の判断を入れるまでもなくタスク管理が行えます」と話す。
また、介護施設向けの業務効率化システムとして「介ソル」を開発した。同システムは利用者のケア内容を管理する予定表からスタッフごとの1日の業務を自動で生成する。時間帯ごとの繁閑やスタッフがお互いの状況がわかるため、時間帯ごとの繁閑がわかるため、サービス追加や緊急対応の適切な業務分担や、介護記録作業の削減が可能となっている。「介護業務は属人化しやすいので、介ソルによって役割を明確にしています」と大牟禮氏はいう。
ちなみに、業務の刷新を求めるDXは現場ですんなり受け入れられないことも間々ある。同社ではどうだったのだろうか。
大牟禮氏は「介護は人間くさくてアナログなイメージがあるため、デジタル化に冷たさがあると受け取られたせいか、当初は現場で受け入れてもらえませんでした 」と話す。
そこで、介護士の経験を持ち、現場経験が長い大牟禮氏が対話による説得を続けたことで、システムの活用が進んだという。デジタル化によって事務作業の3割がなくなったことで、現在は介護スタッフの残業はほとんどない。
DXを成功させるポイントの一つが、従業員にメリットを実感してもらうことだ。残業がなくなれば、疲労が減り、プライベートも楽しめ、ワークライフバランスが改善される。
大牟禮氏はこの状況に満足しておらず、「介護事業はまだまだ他の業種に比べてやれることはたくさんあります。一般的な現場仕事における効率化を真似すれば、もっと効率化を進められるのではないでしょうか」と語る。
AI導入で業務を効率化、400時間かかっていた報告書作成が50時間に圧縮
そして、業務効率化にこだわる大牟禮氏がAIの進化を見逃すはずはなく、自社におけるAI導入を着々と進めている。
例えば、訪問介護、共同生活援助のサービスにおいて、ケアマネジャーや相談員に提出する毎月の報告書の作成をAIが支援している。これにより、400時間ほどかかっていた800名分の報告書作成が50時間程度に圧縮された。
また、これまで介護報酬を解釈する際、ベテランの職員が数百ページにわたる書籍の関連箇所を読み込んで解釈を抽出していたところ、AIに質問する形で情報を抽出できるようにした。この仕組みであれば、経験が浅い職員でも容易に情報を入手することが可能になり、ベテラン職員の負担も減る。
そのほか、FAXをデジタル化してAIを使って分類の自動化を行い、100%に近い精度を出している。事業所には保管すべき多種多様な書類がたくさんあり、分類やファイリングに時間がかかっていたという。また、書類の情報を抽出してデータ化も行っているため、データの再利用が容易になっている。
このように、同社ではAIの活用が浸透しており、成果も上がっている。
生成AI活用におけるボトムアップに向け、「ホリエモンAI学校 介護校」開校
しかし、生成AIを業務で活用するとなると、これまでとは異なる工夫が必要になるようだ。
大牟禮氏は「従来のシステムは要件を定義してトップダウン的に落とし込めば目的を達成できました。しかし、生成AIを業務で使うとなると、AIツール自体がたくさんあるため、それらを個人の手元の作業に合わせて利用することになり、ボトムアップ的なアプローチが必要になります」と説明する。
生成AI活用に向けたボトムアップを進めるため、生成AIに関する動画教材(ホリエモンAI学校)アカウントを150人の職員に配布し、学習を促した。あわせて、特に熱心な職員にAnthropicのエージェント型コーディングツール「Claude Code」のアカウントを配布したところ、10名ほどの非エンジニアがバイブコーディング(自然言語によるコーディング)を始めたという。
そうした一人が本村氏だ。介護士の経験を持ち、技術職ではない同氏だが、今ではバイブコーディングまで行うそうだ。同氏は2025年10月に開校した、介護業界に特化したフランチャイズ校「ホリエモンAI学校 介護校」の責任者を務める。
「ホリエモンAI学校 介護校」は、動画教材の販売のほか、介護現場に即した生成AIツール導入、業務プロセスの見える化と標準化、人材育成と内製などを支援する。
本村氏は「AIに興味があっても、何ができるかわからない人が多いと思います。だから、ホリエモンAI学校 介護校でAIに一緒に取り組み、成功体験を積んでもらいたいと考えています」と話す。
同校では動画教材による学習のほか、オンラインでの面談、コミュニティへの参加が行える。参加者は経営者が多く、全国から参加しているそうだ。
ACGの介護業界にAI活用を広げる取り組みはさらに広がっている。介護現場の人手不足・業務負担を解決する生成AIの開発を強化するため、ケアChatと業務提携協約を締結したのだ。これにより、新サービス「介護現場の業務を革新する生成AIサービス」を展開する予定だ。
最後に、大牟禮氏は「どうしても、紙の運用が残ってしまい、なかなか非効率な介護業界ですが、差し当たって、ケア周辺の事務業務の効率化はデータ化されていないとできません。AI以前と比べてAI-OCRなどによってデータ化が簡単になってきました。これからは加速度的に効率化を実現できる時代になっていきます」と語っていた。
介護の経験を持つ大牟禮氏と本村氏だからこそ、現場に寄り添った業務効率化やAI活用が可能なのだと感じた。問題意識を持っていても、解決策にたどりつけていない介護業者も多いだろう。ACGの取り組みが多くの介護業者に届き、介護のスタッフ、利用者の双方が幸せになることを願いたい。


