火山、地震など数多くの災害が多発する日本だが、何度も被災しながらもその都度復興を遂げてきた。それを支えてきたのが公共機関主導による支援の数々だ。だが、その援助も少子高齢化を迎える未来には、行き詰まる可能性が示唆されている。

そんな未来への対策に向け、1月14日、陸前高田市と東京大学大学院 情報学環、NTT DXパートナーが協定を締結、NTT DXパートナーの自動音声一斉配信システム「シン・オートコール」を軸にさらなる災害研究を行うと発表した。

新しい共創型防災システムの検討・研究へ

東日本大震災は東北の各地に大きな爪痕とともに多くの教訓を残したが、その重要な教訓の一つが災害発生後の迅速な情報伝達と避難誘導だ。これにまつわる課題「デジタル機器の操作に不慣れな高齢者等に避難情報を着実に伝達する」に対するNTT東日本の解が「シン・オートコール」だ。同システムは、一斉架電とAIを活用した音声認識による避難状況や安否情報を集約する。

「シン・オートコール」は陸前高田市で実証実験が行われた後、令和5年11月に運用が開始され、全国の多くの自治体で導入が進められている。今回、未来の防災を見据え、東京大学で部門の垣根を超えて「情報」を連携させるネットワーク組織、東京大学大学院情報学環も参画し、「デジタル技術を活用した共創型防災システム検討・研究の連携に関する協定」が結ばれた。その目的は、「シン・オートコール」のさらなる進化と全国の防災関連施策にも役立つ共創型の取り組みの推進だ。

  • 「デジタル技術を活用した共創型防災システム検討・研究の連携に関する協定」の調印式の模様。左から、東京大学大学院 情報学環 学環長・学際情報学府 学府長 目黒公郎氏、陸前高田市 市長 佐々木拓氏、NTT DXパートナー 代表取締役 長谷部豊氏

    「デジタル技術を活用した共創型防災システム検討・研究の連携に関する協定」の調印式の模様。左から、東京大学大学院 情報学環 学環長・学際情報学府 学府長 目黒公郎氏、陸前高田市 市長 佐々木拓氏、NTT DXパートナー 代表取締役 長谷部豊氏

連携・協力事項は、「防災関連施策へのデジタル技術の利活用ならびに定着に関する総合的研究」「シン・オートコールの運用及び実装すべき機能、データ利活用等に関する研究」「有事および平時の利用に関する具体的な提言、各地域の有用な事例の共有」「ワークショップ・シンポジウム・会議・学会・発表展示会等の開催または出展」などだ。

協定の調印式は陸前高田市 市長 佐々木 拓氏、NTT DXパートナー 代表取締役 長谷部 豊氏、東京大学大学院 情報学環 学環長・学際情報学府 学府長 目黒 公郎氏との間で行われ、その後、各者より協定の意義について説明が行われた。

その説明から見えてきたのは、今回の協定が単に「シン・オートコール」の進化・強化を目指すものだけではなく、少子・高齢化社会を迎え、今までの「公助」型では立ち行かなくなる従来の防災体制に変わる新しい共創型防災システムの検討・研究が含まれていることだ。新しい共創型防災システムとはどのようなものなのか。

「公助」から「自助と共助」型へと転換が求められる防災体制

今回の連携の背景には、日本が迎えつつある少子・高齢化社会に対応した新たな防災体制の研究がある。この問題について、目黒氏が説明を行った。同氏によれば、明治以降の日本の災害対策は国、都道府県、市町村が公の資金を使い災害対策を主導する「公助」型で進められてきたという。しかし、少子高齢、人口減少を迎える未来の日本でこれらの災害対策をしていくことは財政的な制約や人材などの点からかなり難しくなるというのだ。

  • 東京大学大学院 情報学環 学環長・学際情報学府 学府長 目黒公郎氏

    東京大学大学院 情報学環 学環長・学際情報学府 学府長 目黒公郎氏

目黒氏によれば、平成時代に約3400あった自治体が今は約1740に集約されており、1つの自治体が大きくなり効率化した印象を受けるが、実際は人口10万人以下の自治体が全体の85%を占めており、3万人以下が5割、1万人以下が3割と、ほとんどの自治体が規模に対して人口は減少しているという。その影響は質を下げられない行政サービスに生じており、約3割の自治体で防災・危機管理部署に専任の担当者を1人もつけられない状況とのことだ。

目黒氏は、このような人が不足している状況では、「防災は公助ではなく、自助と共助へのシフトが不可欠。その担い手は個人と法人となるが、そうなると今までのように良心や道徳心に根差したアプローチでは負担が大きく、いずれ破綻することは明白」と強調した。同氏は個人や法人が自主的かつ積極的に災害対策に向かわせる仕組みを作っていくことが重要であると語り、そのため、これからの防災・災害対策は「コスト」ではなく「バリュー」に根差したアプローチこそが求められると説明した。

目黒氏は災害対策を適切に実施している組織や地域社会の価値が向上する、こうした流れを生み出すための仕組み作りがこれからの「公助」となると力説した。「今回のシン・オートコールのプロジェクトが、まさにそういった流れに合致している」と同氏は述べた。この仕組みがうまく回ることで平時の生活の質や業績も上がり、ビジネスとしてマーケットも広がり、社会貢献度が高くなり、若い才能が集まり、地域としての価値が上がっていくよい循環が起こるという。

目黒氏はそうした意味で、これからの災害対策は平時と有事を分けないフェーズフリーとなると語った。

「シン・オートコール」のデモも披露

今回、「シン・オートコール」の開発者であるNTT DXパートナー技術顧問(NTT東日本 特殊局局長補佐) 鈴木 巧氏が「シン・オートコール」の説明とデモを行った。

  • NTT DXパートナー技術顧問(NTT東日本 特殊局 局長補佐) 鈴木巧氏

    NTT DXパートナー技術顧問(NTT東日本 特殊局 局長補佐) 鈴木巧氏

「シン・オートコール」は、Webサイトから避難を呼びかける指示文を入力し送信することで、AIが自動的に音声に変換し、事前登録された通報対象者に対して、自動で電話をかけるソリューションだ。

特徴的なのが、自動再架電機能で電話をして応答がない場合に何分おきに何回電話をするかを指定することが可能なこと。これにより、自治体の職員が電話の前に常時待機する必要がなくなるほか、確認漏れなどを極力減らせる。インターネットがつながる端末から利用可能で、あらかじめ、高齢者や要支援者、関係職員などを事前登録しておくことで、簡単に一斉架電し、現場の負担を大幅に軽減できる。

事前登録では、属性や役割などを登録することが可能で配信対象者を詳細に特定することができる。配信先のメディアも電話やSNSなど複数に対応している。

  • 管理画面から事前設定した連絡対象を選択するだけで簡単に配信作業ができる

    管理画面から事前設定した連絡対象を選択するだけで簡単に配信作業ができる

会場では、鈴木氏がグループ発信のデモを行った。デモでは、Webの管理画面から配信者やメディアなどを指定して、ワンクリックで配信を実行、すぐに会場のアナログの黒電話とスマートフォンに着信音が鳴った。電話を取り自動音声に答えることで、AIが音声を聞きとり、情報を整理しダッシュボードに現状の対応状況をリアルタイムで表示された。

  • 発信回数や再架電時間などは発信設定で指定できる。送信予約モードも利用できる

    発信回数や再架電時間などは発信設定で指定できる。送信予約モードも利用できる

「シン・オートコール」は能登半島地震で災害があった石川県珠洲市の防災訓練で、緊急避難場所・避難経路の確認などに活用されている。今後、技術の高度化やAIの活用について必要な調査と効果測定を陸前高田市と行い、そのデータをもとに研究と実証を行い、社会実装を通して全国各地域の防災関連施策に活用されるという。

  • 発信状況はリアルタイムでダッシュボードで確認できる

    発信状況はリアルタイムでダッシュボードで確認できる

産学官民の協定が生み出す、新しい共創システムに期待

陸前高田市の佐々木拓市長は今回の協定について「大学と企業と行政が対等な立場でそれぞれの持ち味を発揮することで、これまでにはなかったものが生まれる」とプロジェクトについての期待を語った。

佐々木氏は「シン・オートコール」について避難訓練の際に使用したことがあり、その使用感について「高齢者が多いので、方言が正確に解釈されるか心配だったが、文字に記録されており感心した」とコメント、研究によるさらなる進化への期待を寄せた。

  • 陸前高田市 市長 佐々木拓氏

    陸前高田市 市長 佐々木拓氏

「シン・オートコール」の開発にあたるNTT DXパートナーの代表取締役 長谷部豊氏は連携について、「災害時の情報伝達システムにAIやクラウドといったデジタル技術を活用し、高度化を図っていく取り組みを行う役割を担う上で、東日本大震災の経験がある陸前高田市、防災専門のチームである東京大学大学院の情報学環と連携できるのは心強い」と語った。

加えて、長谷部氏は「シン・オートコール」の強化と進化だけでなく、本来の目的である防災の高度化も見据え、その周辺で必要な災害に対する効果的な対応技術などにも取り組んでいきたいと抱負を述べた。

  • NTT DXパートナー 代表取締役 長谷部豊氏

    NTT DXパートナー 代表取締役 長谷部豊氏

東京大学大学院 情報学環 学環長・学際情報学府 学府長 目黒 公郎氏は協定について、最新の技術研究には研究そのものだけでなくその実証と検証のためのデータ収集が不可欠であり、そのため3者が三位一体になってプロジェクトを推進することは非常に重要と、今回の協定の意義を強調した。情報学環は研究結果の分析、技術の個人や社会に与える影響の調査や法制度への実装などで大きく貢献できるとも語っていた。