
2025年12月17日に閉幕した第219臨時国会で憲政史上初の女性首相に選出された高市早苗は自民党と日本維新の会に加え、国民民主、公明両党の協力も得て25年度補正予算を成立させた。閉会翌日には自らの決断により所得税がかかり始める「年収の壁」で現行の160万円から178万円への引き上げに応じ、国民民主党との連携を強めた。指導力を発揮し足場固めを進める高市。だが、26年は難題が山積し、「正念場」の年となる。
国民民主党に「協力」
「『強い経済』を構築するという観点から、やはり所得を増やして消費マインド改善して事業収益が上がるという好循環を実現するために最終的な判断を下した」。高市は18日、国民民主党代表の玉木雄一郎との党首会談後、178万円のへの引き上げで合意したのは、自らの政治決断によるものだと強調した。
「178万円」は国民民主党の主張だ。24年12月、自民、公明、国民民主の3党で103万円から「178万円を目指して引き上げる」と合意したが、当時は「財源確保が難しい」との理由から実際の引き上げは160万円にとどめ、「178万円」はあくまでも目標に過ぎなかった。だが、自民党総裁選時から「178万円」に「大賛成」と表明していた高市が自民党内の慎重論を封じ合意へと突き動かした。
18日に高市と玉木が署名した合意書は、国民民主党の主張をほぼ「丸のみ」する内容となった。
最低限の生活費に課税しない基礎控除と給与所得控除の最低額を計8万円引き上げ、さらに2年間限定で10万円上乗せした。対象も給与所得者の約8割にあたる年収665万円以下とし、低所得者に限らず、中間層まで広げた。また、自動車購入時に課せられる自動車税の「環境性能割」も廃止した。
「今回の合意は政治の安定を望む国民のためにも、両党の間で何とか関所を越えようと、2年越しで知恵を絞っていただいた結果だ」。高市がこう語ると、玉木も記者団に「共に関所を乗り越えることができた。高市総理の政治決断にも感謝と敬意を申し上げたい」と述べた。
高市、玉木が越えた「関所」は、この合意にとどまらない。
高市は臨時国会中に国民民主党が求めていたガソリンの暫定税率(1リットル当たり25.1円)の年内廃止と自動車損害賠償責任(自賠責)保険料の特別会計への繰り戻しにも応じた。暫定税率を巡っては、当初、自民党は「26年2月の廃止」を主張していたが、高市がその方針を転換させ、年内廃止を決めた。
高市が国民民主党への配慮を徹底するのは、自身の政権基盤が盤石とは言えないためだ。
自民党は11月28日に維新を除名処分となった3人の無所属議員による衆院会派「改革の会」を自民会派に合流させた。これにより衆院は自民の衆院会派勢力は199人となり、日本維新の会(34人)と併せて衆院での過半数(233人)の勢力を確保し、「少数与党」の立場を脱した。とはいえ、1人でも欠ければ過半数を維持できなくなる微妙な情勢は続く。
一方で参院は自民、日本維新の会の両党を併せても119人。過半数(125人)には6人足りない「ねじれ」状態だ。そこに衆院27、参院25の議席を有する国民民主党の協力を得れば、政権基盤は安定する。
もともと「手取りを増やす」と掲げる国民民主党と「責任ある積極財政」で「強い経済」を目指す高市は合致する政策が多く、親和性が高い。国民民主党を引き寄せるのは、高市にとって「弱点」を克服する近道でもある。
膨らんだ補正予算
臨時国会で高市が配慮したのは国民民主党だけではなかった。気を配る対象は与党の維新から立憲民主党や公明党まで及んだ。
政府は11月21日、物価高対応(一般会計8.9兆円程度)▽危機管理投資・成長投資(同6.4兆円程度)▽防衛費の増額(同1.7兆円程度)─と主に3つの柱から構成される「強い経済を実現する総合経済対策」を閣議決定した。その内容は多岐にわたる。
物価高対応では盛り込まれた来年1~3月の電気・ガス代補助(5296億円)は、もともと維新が求めた「冬の間の電気・ガス代支援」がベースだ。立憲民主党と公明党が求めた高校生以下の子ども1人当たり2万円の給付(3677億円)も明記された。
これに加え、「高市カラー」も強くにじませた。高市が成長戦略の「肝」と位置づける危機管理投資・成長投資も計上。半導体、造船、量子、宇宙、情報通信、重要鉱物、サイバーセキュリティなど戦略分野の官民連携投資や重要物資のサプライチェーン強化を盛り込んだ。
野党側からは「当初予算で計上すべきだ」との指摘もあったが、高市は「一刻も早く手をつけなきゃいけない。強い経済を作っていくことは安心できる福祉、国民の皆様の生活の豊かさに繋がる」と譲らなかった。加えて防衛費も積み増しし、自ら掲げた防衛費を国内総生産(GDP)比2%に増額する目標を早々と達成した。
補正予算の規模は当初、財務省は14兆円程度と見込んでいた。だが、高市が主導し、暫定税率の年内廃止も含めて各党の主張を次々取り込み、その額は大幅に膨らんだ。最終的な総額は一般会計で18兆3034億円。補正予算の規模としては大型だ。効果はてきめんだった。
配慮の効果はあった。公明党は立憲民主党と共に、補正予算については物価高対策の拡充などを求める組み替え動議を共同提出したが、動議が否決される否や、「不十分な点もたくさんあるが、物価高対策としてより早く困っている方々に届けたい」(斉藤鉄夫代表)として、補正予算への賛成に回った。立憲民主党は補正予算に賛成したが、内閣不信任案の提出を見送り、徹底抗戦を避けた。
高市が見せた各党への配慮の姿勢からは、26年の通常国会を見据えた戦略が透ける。
26年度当初予算案は年収の壁の「178万円」への引き上げなどを盛り込まれるほか、高市が最重視する重点17分野への危機管理投資・成長投資などがふんだんに盛り込まれ、補正予算に続き「強い経済」を求める高市政権の根幹とも言える内容だ。120兆円を超える大型予算案となる。
18日の玉木との会談で「178万円」を丸のみした高市が目指したのは、国民民主党の当初予算案成立に向けた「確約」だった。この日交わした合意書には「令和8年(2026年)度税制改正法案及び令和8年度予算について年度内の早期に成立させる」と盛り込まれた。
国民民主党は臨時国会で、高市がガソリン暫定税率の年内廃止などが盛り込まれたことを受け、補正予算に賛成した。26年度予算案も賛成に回れば、高市と国民民主党の距離はさらに縮まる。高市は「予算案は早期成立させていかなくてはならない。協力していきたい」と秋波を送った。
難題山積の26年
順調な滑り出しとなった高市政権だが、26年は数々の大きな「壁」が立ちはだかる。維新との連立合意などで合意した数々の重要案件を成し遂げる「期限」は26年に集中しているのだ。
特に「通常国会中」は多い。外国人による土地取得規制の強化法策定▽副首都整備に関する法案の成立▽大規模太陽光発電所(メガソーラー)を法的に規制する施策の実行▽日本国旗を損壊する行為を処罰する「日本国国章損壊罪」の制定▽防衛装備品の輸出を非戦闘目的に限定する「5類型」の撤廃▽内閣情報調査室(内調)を格上げし、国家情報局を創設する関連法の制定▽旧姓の通称使用の法制化……。通常国会中に成し遂げなければならないのは、予算案の成立だけではないのだ。
法案のみならず、防衛装備品の輸出を非戦闘目的に限定する「5類型」の撤廃や26年末までにまとめる国家安全保障戦略など安保関連3文書の改定も控える。高市が国民民主党の政策を丸のみし続けるなど野党への配慮を続けたのは、26年の超過密スケジュールを乗り切るための協力を模索するためだ。ただ、懸念されるのが、連立を組む維新との関係だ。
「今後とも、日本維新の会との連立合意を基礎として、国家国民のために働いていく。その決意にいささかの変わりもない」。臨時国会閉会を受けた記者会見で、高市はこう強調したのは維新との関係に危機感を抱き始めたためだ。
臨時国会では、衆院の議員定数削減法案を巡り、自民党と維新の「距離」が浮き彫りとなった。法案は衆院定数(465)の約1割程度の削減を目指し衆院の選挙制度協議会で協議する内容だが、問題となったのは、1年以内に結論が出ない場合は小選挙区25、比例20の計45議席を自動削減する条項が盛り込まれたことだ。
もともと自民党は法案策定自体に慎重だったが、定数削減を「政治改革のセンターピン」と位置づける維新が、この条項の付記を主張。一時は連立離脱までちらつかせて自民に盛り込みを迫った。最終的に自民党が応じたものの、この法案は野党各党の強い反発を受け、審議入りもしないまま臨時国会は会期末を迎えた。
閉会日前日の12月16日、高市は、成立にこだわって会期延長を求める維新の吉村洋文代表と直接会談し、法案成立を見送る代わりに26年通常国会で定数削減の結論を得ることで折り合った。この党首会談で自民、維新の連立は維持されたが、超過密日程の通常国会にさらに重荷が加わったこととなる。
吉村は定数削減の実現に向け「通常国会は延長戦だ。来年の通常国会は勝負になる」と意気込むが引き続き野党が反発するのは必至で、政権は難しい舵取りを迫られる。
自民党内では、苦しい状況が予想される26年を乗り越えるため、自民党内では国民民主党を加える連立の拡大・組み替え論がくすぶり、1月中や予算案成立直後の4月といった早期の衆院解散を求める声が出ている。
「連立の拡大は相手方の意向もあり、私からコメントすることは控えたい」「目の前でやらなきゃいけないことが山ほど控えており、解散については考えている暇がない」。12月17日の会見では笑顔を浮かべながら、こう述べるにとどめた高市。
数々の課題を乗り越えるため、どのような戦略を描くのか。多難な26年を乗り切るためのカギは、高市自身の「判断」にあると言っても過言ではないだろう。(敬称略)