産官学連携の共創によってAI時代のデータ活用を推進するプライバシーテック協会主催のイベント「データ共創会議」がJP TOWER Hall & Conference カンファレンスホールで開催された。会場では「国産AIは実現するのか?」をテーマにデジタル庁の統括官、現役AIエンジニア、AI専門弁護士が集結し、日本における国産AIのあるべき姿と未来像についてディスカッションを行った。

専門家が語る国産AIの現状とはどのようなものか、前回に続きレポートする。

  • 「データ共創会議 2026」のセッション「国産AIは実現するのか?」

    「データ共創会議 2026」のセッション「国産AIは実現するのか?」

デジタル庁統括官、AIエンジニア、AI専門弁護士が国産AIの現状と今後の展望についてディスカッション

AI時代を迎える上で重要な要素となるデータの利活用について議論する場として開催された「データ共創会議」。2026年はAI時代に日本が掲げる「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」となるために必要な技術、法制度、ガバナンスについて国産AI、法律、医療データ、インフラ基盤をテーマに議論が行われた。

セッション「国産AIは実現するのか?」では、デジタル庁統括官、AIエンジニア、国際的ビジネス事案を担当するAI専門弁護士、AIガバナンス協会の担当者がそれぞれの視点で国家戦略やビジネスの観点から国産AIの現状と今後の展望についてディスカッションを行った。

エンジニアサイドからは金融時系列予測モデルの研究やLLM向けデータセット開発を行うPreferred Networks エンジニア 今城 健太郎 氏が登壇。2006年に国際情報オリンピックに出場経験があり、Google Japanを経てPreferred Networksに入社。翻訳AI「PLaMo翻訳」の開発を行っている。

  • Preferred Networks エンジニア 今城 健太郎 氏

    Preferred Networks エンジニア 今城 健太郎 氏

デジタル庁からは、発足時よりデジタル庁統括官 デジタル社会共通機能グループ長を務める楠 正憲氏が参加。マイナンバー制度、預貯金二法、自治体システム標準化、ベースレジストリ、電子署名法・電子委任状法などに関わってきた。

  • デジタル庁 デジタル社会共通機能グループ 統括官 楠 正憲 氏

    デジタル庁 デジタル社会共通機能グループ 統括官 楠 正憲 氏

法曹界からは、約9年間の国際ビジネスの現場での実務経験を持ち、政府機関のIT関連会議や団体の座長、参与、理事などを歴任してきた渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 弁護士 落合 孝文 氏が登壇。近年では個人情報保護委員会の「欧米主要国におけるプライバシー強化技術(PETs)の利用に関する法制度に関する調査(報告書)」の調査責任者を務めている。

  • 渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 弁護士 落合 孝文 氏

    渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 弁護士 落合 孝文 氏

最後に司会を担当するのが、一般社団法人AIガバナンス協会の業務執行理事 兼 事務局長 佐久間 弘明 氏。経済産業省でAI・データに関わる制度整備・運用を担当。現在は協会内閣官房デジタル行財政改革会議事務局政策参与や総務省AIネットワーク社会推進会議AIガバナンス検討会委員なども兼任している。

  • 社団法人AIガバナンス協会 業務執行理事 兼 事務局長 佐久間 弘明 氏

    社団法人AIガバナンス協会 業務執行理事 兼 事務局長 佐久間 弘明 氏

ディスカッションのテーマ「国産AIは実現するのか?」については、「PLaMo翻訳」だけでなく「ELYZA」や「rinna」など既に国産のLLMは実現しているので主に討論された内容は、性能面においてOpenAIやGoogleとは開きがある現状を踏まえ、いかに国産AIを国内で定着させていくか、広めていくのか、そもそも国産AIが必要なのか?といった内容となっている。それでは、議論の内容を見ていきたい。

AIが国産であるべき理由、正しいことは国によって異なるため国家への理解のあるLLMが必要

なぜLLMの国産化が重要なのか、Preferred NetworksでLLMを開発する今城氏が技術的な面でその必要性を語った。今城氏は昨年5月に日本語の翻訳に特化したLLM「PLaMo翻訳」を開発、発表している。同LLMは、デジタル庁のAI運用基盤「源内」で翻訳機能として提供されている。

今城氏は翻訳AIを開発した理由について、外国産LLMは全データ内の日本語の占める割合が圧倒的に低く、数パーセント以下でそれ故に品質も低いため日本語をベースとする翻訳AIの必要性を感じたからだという。同社のLLMでは、データの半分が日本語でなっており、日本語の知識を十分に活用できるようになるには、これくらいのレベルのデータが必要になると解説した。

  • なぜLLMのPLaMoを使うのか(講演資料より)

    なぜLLMのPLaMoを使うのか(講演資料より)

政府機関が自分たちの考えを整理するのに海外産AIを活用するのも危険だと指摘する。OpenAIは適切に対応が出来ているという見方もあるが、今城氏は「AIは何が正しいのかという点において一つの指針をもっており、国の機関が利用するには、この考えが違っていると非常にまずい結果になる」と強調した。

  • 国にとってのLLMの重要性(講演資料より)

    国にとってのLLMの重要性(講演資料より)

次いでデジタル庁の楠氏より、国産AIに関する政府の考えについての事情説明があった。2023年に岸田総理がOpenAIのサム・アルトマンと面会したことが話題となったが、そのタイミングで政府のAI戦略に大きな転換があったことに言及。その当時も国産か海外産かという議論はあったが、OpenAIのChatGPTの1強状態であり、日本語の扱いを大きくするにはどうするのかが大きな問題となっていた。その当時と比べると法制度も整い現在の状況はかなりよくなっており、技術的にも大きく差は開いていないとの認識を語った。

  • 日本の人工知能基本計画の概要(講演資料より)

    日本の人工知能基本計画の概要(講演資料より)

政府のデジタル関連の法整備などにもかかわる弁護士の落合氏も国産AIについて、ERIA(東アジア・アセアン経済研究センター)でアジアのスタートアップ政策に関わる担当者とAIについて議論した際、アジア各国でも自国にあった国産のLLMの作成が重要課題となっていることに触れている。

その理由について、AIによる回答結果が別の言語の混ざったような違和感があり、自国の文化風習に微妙にズレているなどの問題点があり、やはり自国の文化をきちんと反映したAI開発の機運が高まっていると現状を語った。実際、インドネシアやマレーシア、タイなど多くの国でLLM開発が進められすでに実装されているという。

AI活用が進まない日本、デジタル庁ではAI運用基盤「源内」を導入、国産AIを浸透させるには

そんな中で、いかに日本に国産AIを浸透させていくのか。導入を推進するデジタル庁では、ガバメントAIとして独自に生成AIを内製化し基盤の構築を進め、生成AI利用環境プラットフォーム「源内」を構築してきた。「源内」では、汎用的なAIアプリとして、チャットや文書作成、要約、校正、翻訳、画像生成などの機能と行政実務に特化した法制度調査支援AI「Lawsy」、国会答弁検索AI、公用文チェッカーAIなど多くの機能を提供している。「PLaMo翻訳」も翻訳機能として提供されている。

  • 「源内」のWebインターフェイス(講演資料より)

    「源内」のWebインターフェイス(講演資料より)

「源内」は、もともと同庁の戦略から生まれたわけではなく業務上の必要性から、職員がオープンソースより拡張して実装し、ハッカソンなどで機能を追加してきた。前述の公用文チェッカーAIは農水省の職員が作ったもので、現在も各省庁内にいる多くのシチズンデベロッパーをリクルートしてAIの多省庁展開を狙い「源内」の機能を強化しているという。

その一方でなかなか進まない民間のAI活用について、楠氏は、AIの仕事が早くても、人間がボトルネックになり、連絡、確認、交渉事が発生し、業務が遅滞してしまうことで結果として生産性が上がらないことに言及する。業務フロー自体を変えていかないと本当のAIのポテンシャルは発揮できないから利用が進んでいないと持論を展開。今城氏は、この点に関してはクラウドも国内で定着したのでAIに関してもいずれ広がるだろうとポジティブな意見を述べている。

国産AIの成功は、データマネジメントにあり、3者それぞれの立場からの提言

優秀なLLMの構築には膨大なデータを使った機械学習が必要となる。国産AIを制作する上でも重要な要素の一つとなるが、これについて落合氏は、日本はAIやデータマネジメント面で欧米に遅れをとっていることは事実だが、中小企業の多い日本にある膨大な産業用データは大きな強みとなると自身の見解を述べた。この分野は海外の大手企業もまだデータを集め切れていない。AIへの熱量が高まっている今こそ、データ整備を行い高性能のAI開発に繋げられればと希望を語った。

  • 熱弁する今城氏と楠氏

    熱弁する今城氏と楠氏

今城氏も高精度のAIを作成するためには、多くのデータが必要となることを説明、国内のデータの扱いについては自身の経験から社外に出していいデータの評価が難しく、社内外を含めた統合されたデータ構築は現状では難しいと指摘する。

楠氏は、この点については各国の投資額について言及、一企業が国家予算なみの資金を投資する現実について、この競争に参入するのが正解かどうかはわからないと明確な返答を避けた。

落合氏は、国内を挙げてのデータ収集に関してはプライバシーテックの秘密計算の技術で対応可能で、今後データを交換・集約する仕組みを作っていかなければならないと提言を行っている。

  • プライバシーテックについて語る落合氏と佐久間氏

    プライバシーテックについて語る落合氏と佐久間氏

最後に、それぞれの立場より国産AIについての思いがそれぞれの口から語られた。今城氏はエンジニアの立場で、今後も「PLaMo翻訳」の機能向上に力を入れていくことを述べた。

楠氏は「日本では80年代の"ジャパンアズナンバーワン"時代の印象に引きずられて何でも1番を目指さなければならない、そうでなければやらない方がいいという考えがある。こういった考えに固執せずにできることをやっていく必要がある」と自身の見解を語り、頭の柔らかい若手と共にAI時代には自分たちが率先して変わっていくことで、社会を加速させていきたいと抱負を語った。

落合氏は、AIを普及させるためには、とにかく利用し体験してもらうことで行動変容を促す必要があるとし、そのために国を挙げて多くの法改正を進めてきたことを述懐。今後地方の人手不足への対応として、AIを使ったオートメーション化でその真価を発揮してくれればと思いを語った。

佐久間氏は、AI時代にはセキュリティにおいても、モデル開発やデータ収集、整備の段階でも防御対策が必要で、国としての総合力が求められると述べ、そのためには多くのプレイヤーが必要であり、国産AIはその重要なピースとなると語った。