日本商工会議所会頭・小林 健の「中長期の構想を描いて、今は何をすべきかを決める思考で」

国内投資と国内消費を今は増やす時

「日本経済はこれまでも多くの危機を乗り越えてきました。日本の企業の底力から言っても、今回の困難を糧にして、一皮むけていくことを期待していますし、また、そうならなければいけないとも思います」

 世界が混沌とし、日本再生の必要性が言われる今、日本商工会議所会頭・小林健氏(1949年=昭和24年2月生まれ)は〝日本企業の底力〟という言葉を使ってその思いを述べる。

 過去50年余を見ても、ニクソン・ショック(1971年)でドルの金本位制度離脱に伴う通貨調整(円高方向)を迫られ、二度にわたる石油ショック(1973年と1978年)では、石油をはじめとするエネルギー・資源価格高騰に直面し、無資源国の悲哀を味わった。

 その後、1990年代のバブル経済の崩壊、世界的金融危機のリーマン・ショック(2008年)なども経験。今は、いわゆる〝失われた30年〟という長期低迷・デフレ経済から脱却し、いかにして着実な経済成長を実現し日本再生を成し遂げるかという転換期を迎えている。

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 折しも、2025年10月、高市早苗政権が発足し、『強い日本経済』を目指して走り出したばかり。新政権の下、『経済安全保障』、『危機管理投資』、『地方創生』といったキーワードで政策の実行が進む。産・官・学連携の考えの下、新政権の日本成長戦略会議が設置され、小林氏もメンバーとして参加。

「日本国内への投資が細ってきているという状況にあって、高市首相が主張されている『強い経済』を実現するためには、国内投資と国内消費を増やすことが不可欠です」

 小林氏はこう述べ、今こそ政治と経済の連携が必要不可欠だと強調。

〝失われた30年〟の間、日本は人口減、少子化・高齢化が進み、日本の企業、ことに大企業は海外投資に注力し、海外市場に成長の機会を求めた。縮小する日本では、大きな成長が望めなくなったということである。

「この20年くらい、大企業は多額の資金を海外に投資し、海外で収益を上げ、その収益をさらに海外で再投資するというスパイラルが続いている」という小林氏の認識。

 企業としては、成長のためにはグローバル化は必然の行動ではあるが、「日本企業である以上、日本経済が疲弊しては困ります。国内投資をぜひお願いしたい」と小林氏は訴える。

 日本の企業(約360万社)のうち、99.7%は中小企業が占める。労働人口や、その他の社会構成要素でみると、日本の国民の3分の2は中小企業との関わりの中で生活している。

「従業員数の約1割を占める中小企業で働く人たちの懐が温まらなければ、個人消費は伸びませんし、個人消費が伸びなければ、経済成長も望めません」

 日本商工会議所は全国515の商工会議所を束ねる立場にある。各地の商工会議所は地域社会に根ざす中堅・中小企業の振興のために日々、活動している。

 三菱商事の社長、会長を務め、2022年(令和4年)11月、東京商工会議所会頭(日本商工会議所会頭を兼務)に就任した小林氏。長い間、商社マンとしてグローバル市場でビジネスに携わってきた。小林氏はその経験を踏まえて、日商会頭就任以来、「大企業と中小企業のパートナーシップが大事」と訴えてきた。大企業と中小企業の新しい関係作りだ。

〝縮む日本〟で『強い経済』を 創り上げるには?

 現在、世界中でインフレが進む。日本も材料費の高騰、人手不足といった問題に直面している。そうした中で、いかに生産性を高め、併せて賃金を引き上げて、国民の所得を増やして経済を成長させていくか─―という課題である。

 本稿の冒頭、日本はこれまでの50年間、様々なショック(危機)を乗り越えてきたと記した。

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 これまでの危機について、小林氏は、「これまでは経済成長によって吸収できた部分も随分とありましたが、今回は違います。デフレを脱却し、これから賃金を上げて、正のスパイラル(経済の好循環)に入っていこうかとする局面での出来事です。その分、これまで以上に厳しい状態だと思います」という認識を示した。

 では、今、高関税策を掲げ、各国にディール(取引)で自国に有利な通商政策を迫る米トランプ政権にはどう対応すべきか。

「生産地の分散ということもありますが、日本で生産して輸出するということだけではなく、米国で製造して日本に輸入できるものはないのか。実際に自動車業界の一部では、そのような動きがある」

 もっとしなやかな発想で対応することもできるのではないかという氏の考え。

 日本のGDP(国内総生産)が世界で占める比率は3.6%(2024年)。かつて、GDPで世界2位であった時代は17%台を占めた時もあった(1994年=平成6年)。この時、首位の米国は24~25%で、日米両国で世界GDPの40%強を占め、文字通り世界の2強であった。

 それが2010年に中国に抜かれて世界3位に後退。さらに2024年にドイツにも抜かれて世界4位となり、さらに英国、インドにも抜かれそうな流れである。その中で、どう日本再生を図るかという命題である。

中長期視点で、今 日本は何をすべきかを

 高市早苗政権は、『強い経済』を実現するために、2025年末、18兆3000億円余にのぼる補正予算を組んだ。コロナ禍後では最大規模の補正予算だ。2026年1~3月期の電気・ガス利用料金を支援する費用や、地方創生を支える自治体向けの支援金、おこめ券の配布、さらには『危機管理投資』や防衛予算増などを組み込んだ大型補正である。

 日本の国債発行残高は、地方債を含めて約1200兆円にのぼる。GDPのほぼ2倍で、先進国の中で最も高い数値。政府債務残高対GDPで見ると、日本は236.11で2位(1位はスーダンの261.43%)。先進7カ国では、イタリアが135.33%と日本よりも低い(ちなみに米国は122.32%)。

 つまり、日本は先進7カ国で最悪の財政状況とも言えるわけで、それなりの財政規律も求められる。

 市場は、こうした日本の財政措置をどう見ているかというと、10年物国債の金利は2%近くまで上昇している(国債価格は下落)。市場の信認を得られるかどうかを見極めながら、これからの財政出動にも、緊張感が求められる。

「世界の中の日本ということをよく俯瞰していくと。情勢は随分変わる」

 小林氏は現在の政治状況でのカジ取りが難しいことを認めつつ、次のように語る。

「混迷を深める国際情勢の中こそ、政府は5年先、10年先を見据え、日本が今、何をすべきか、という視点で政策を立案すべきです。中長期の構想を描き、産業界とも十分に議論しながら、今は何をすべきか、ということを決めてほしいと思います」

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