先日、都内で「Data + AI World Tour Tokyo 2025」を開催したデータブリックス・ジャパン。“データとAIの民主化”を掲げて、年々国内における認知の広がりとともに、導入企業も拡大するなど、プレゼンスを高めている。今回、データブリックス・ジャパン 代表取締役社長の笹俊文氏に2025年の振り返りに加え、将来の展望について話を聞いた。

国内市場で進むデータとAIの融合と課題

--国内におけるDatabricksのここ数年の動きを見ると隔世の感があります。手応えとしてはいかがでしょうか?

笹氏(以下、敬称略):私が就任(2023年)してから日本の市場において、1年前まではデータのプロジェクトはDWH(データウェアハウス)のプロジェクトであり、AIプロジェクトはデータとは少し独立した形で高度な生成AIが使われる状況でした。

  • 「Data + AI World Tour Tokyo 2025」で講演するデータブリックス・ジャパン 代表取締役社長の笹俊文氏

    「Data + AI World Tour Tokyo 2025」で講演するデータブリックス・ジャパン 代表取締役社長の笹俊文氏

しかしデータが増えれば増えるほど、ダッシュボードだけで人が判断するボリュームではなくなることから、たとえば顧客データはオフラインだけでなくデジタルも急増しており、AIの活用が不可欠だと多くの方が認識しています。

マーケティングでもCDP(Customer Data Platform:顧客データ統合基盤)で顧客データを統合し、セグメントごとにパーソナライズしたデジタルマーケティング施策を行い、顧客との関係性を強化してきたはいいが、蓄積したデータをフル活用できないため、AIを活用するという流れができていると感じています。

AIについても生成AIは生産性を効率化はできますが、重要なことは差別化を図ることです。自社にとって優位なビジネスを進めていくうえで生成AIを活用するならば、自社のデータをいかにAIと組み合わせて、生産性の向上や攻めの活用ができるかです。“データとAIは組み合わせるもの”ということが、この1年くらいで理解されてきたと感じています。

ただ、データとAIを活用するならばガバナンスが統合的に管理されないと意味がありません。たとえば、データサイエンティストがモデルを構築し、その後に退職してしまった場合、ブラックボックスになりかねません。統合管理するのであれば、相互依存関係もすべて管理すべきです。

このような中で生成AIのプロジェクトは、少し前まではウォーターフォール型で取り組まれることがありました。しかし、AIモデルは納品物ではなく、あくまでもデータを継続的に循環させて教育していくものです。

そのため、構築後に誰も手をつられずに陳腐化することも現実として起きていますが、この1年で内製化ということも多く言われており、ベンダー任せにせず自社で取り組むという意識の変革が起きたと感じています。

日本市場での導入状況と変化

--昨今では、自社データを活用するという段階でつまづいている企業さんも多いかと思います。Databricksの日本における導入状況はいかがでしょうか?

笹:業種に偏りはありませんが、リスキリングと並行してプロジェクトを推進していくとなるとリソースを充てられる大企業での導入が先行しているのはやむを得ないと思います。

ただ、市場を見てると日本の文化が変化してきたと感じており、人の流動性も高まっています。日本でも人の流動性を保ちながらデータ&AIというものが評価もされてきています。これまでは、DWHで分析基盤を構築してきたお客さまでもDatabricksに全面移行しています。

自社内のデータがサイロ化してしまっていた事実は否めませんが、サイロ化したくてしたわけではありません。サイロ化してしまうのは、事業部ごとにシステムを構築していく中でRDB(リレーショナルデータベース)が存在するため、致し方ない側面もあります。

また、この10年でSaaS(Software as a Service)が台頭し、データがベンダーにロックインされている状態が続いていました。しかし、ベンダーロックインという考えを持っている限り、いつかお客さまに見放されてしまう状況は日本も含めて出てきていると思います。そのため、SalesforceやSAP、Celonisなど多くのベンダーでは当社のオープンプロトコルによるデータ共有機能「Delta Sharing」に対応済み、または対応を表明しています。

オープンフォーマットのテーブルデータ共有に対応していれば、中堅企業でもリソースをかけずにデータの統合とAIの施策に取り組めることから、2026年は市場の中でもDatabricksが利用される幅が広がるタイミングだと感じています。

  • Databricksのデータガバナンスとメタデータ管理を行う「Unity Catalog」と、オープンプロトコルによるデータ共有機能「Delta Sharing」で異なるリージョン・環境間で安全にデータ共有が可能だ

    Databricksのデータガバナンスとメタデータ管理を行う「Unity Catalog」と、オープンプロトコルによるデータ共有機能「Delta Sharing」で異なるリージョン・環境間で安全にデータ共有が可能だ

LLM(大規模言語モデル)についてもDatabricksはコンパウンドAIシステム(複合AIシステム)を標榜しているため、さまざまなモデルが活用できます。

中堅・中小企業が直面する課題と解決策

--大企業ではリソースを賄える一方で、中堅・中小企業にリソースに課題を抱えています。この点について、どのように解決していく考えでしょうか?

笹:その点については追いつけ追い越せという側面があると思います。たとえば、AIモデルを構築する際、Databricksでは雛形を用意していますが、これまでPythonを理解してモデルをNotebook上で作れるデータサイエンティストじゃないと扱えなかったのは事実です。

このため、Databricksでは9月に「Databricks Assistant Data Science Agent」を発表し、すでに日本でも利用が可能になっています。従来は「Databricks Assistant」として提供し、SQLとPythonに対応していましたが、基本的にはコード生成・修正・説明など単一ステップの補助をしていました。

一方、Databricks Assistant Data Science Agentはデータ取得から前処理、モデル学習、評価などを複数のステップをAIが主体的に自律処理できるようになっています。以前と比較して、自律性とワークフロー全体のカバー範囲が大きく進化しており、評判が高いです。

  • 「Databricks Assistant Data Science Agent」のイメージ

    「Databricks Assistant Data Science Agent」のイメージ

これにより、生産性が大幅に向上するため、たとえば従来は10人が必要な作業を3人で行うことを可能にしています。人材不足を生成AIがカバーすることで、生産性は明らかに変わると考えています。

パートナー戦略と2026年に向けた日本市場の展望

--パートナー戦略はどのようにお考えですか?

笹:3つのポイントがあります。1つはアーリーアダプターが大手企業中心であることです。製造業や大手SIerも含め、従来のウォーターフォール型の導入からアジャイル型への転換を強く求めており、こうした動きはSIerの立ち位置に変化をもたらしています。

次に大手SIerとは異なり、データやAIなど特定領域に特化した中小規模の企業としてブティック系のパートナーの存在です。こうしたパートナーは顧客との関係性を深めつつ、迅速な実装力で存在感を高めています。

そして、最後はビジネスドメイン特化型のパートナーです。需要予測や需給最適には、SAPなど基幹データやアルゴリズムの理解が必要であり、昨今のAIプロジェクトはマーケティングや基幹業務などビジネスドメインの知識が不可欠です。

最近では「顧客データが分離されたCDP(顧客データプラットフォーム)はやめよう」という動きもあり、CDPに特化したパートナーがわれわれと連携しています。

--日本市場に関して2026年の展望・抱負についてはいかがでしょうか?

笹:いかにスピード感を持って、お客さまに対してデータとAIの環境が整備できるかですね。お客さまの間では、DWHとAIの環境は異なるもので問題ないと考える向きもあります。ただ、冒頭にも話した通り、ダッシュボードで見れる範囲だけならば最初からAIは不要です。

データが増大してダッシュボードから把握できるもの以外に気づかない部分も含めて、アラートやインサイトなどを汲み取る際にはAIが必要になります。そのため、DWHとAIを分けて考えることはナンセンスだと思います。そのため、当社として市場に訴えつつ、お客さまと膝を詰めて会話しながら進めていきます。

また、これまでお客さまは東京が中心でしたが、関西など地方のお客さまも増えてきています。そのようなお客さまの情報や事例を伝え、ビジネスの拡大を図り、“データとAIは一対”と考え方を浸透していきます。コストパフォーマンスやガバナンスに優れたAIレディなデータ&AI環境を用意するには、Databricksが良いよねという形に持っていければと考えています。