日立製作所と三菱ケミカルは、三菱ケミカルの化成品、樹脂・機能商品、炭素素材などの製品群を生産する三重県四日市市の東海事業所における設備管理業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)に向け、“Lumada 3.0”を体現するデジタルサービス「HMAX Industry」であるプラント設備故障診断支援のAIエージェント(以下、今回のAIエージェント)を用いたトラブルシューティングアシストの共同検証を開始したことを発表した。

  • 共同検証の概要

    共同検証の概要イメージ図(出所:日立製作所)

日立のAIエージェントをプロセス産業に初応用

今回のAIエージェントは、設備管理技術者による生産設備点検において、流体の移動・制御に関わる主要設備である動力設備・制御装置などの故障を発見した際に、その原因と対策を提示するもの。日立によれば、同様のAIエージェントはこれまでディスクリート産業における設備への試験運用の実績はあるものの、プロセス産業の設備向けの事例は同社にとって今回が初めてだという。

具体的な仕組みとしては、まず三菱ケミカルが蓄積してきた各種生産設備のP&ID(Piping and Instrumentation Diagram)や設備図面などを、日立の独自技術を用いてナレッジグラフとして生成AIが読み取ることができる形に変換。それらのナレッジグラフおよび保全記録などの「OTデータ」と、STAMP(システム理論に基づく事故モデル)などに基づいた日立独自の設備故障原因分析プロセスである「OTスキル」を生成AIに学習させ、三菱ケミカルの一般的な設備管理技術者と同等以上の故障診断の実現を目指すとする。そしてこれにより、設備管理における暗黙知を組織の形式知として共有し、品質確保や技術伝承、さらにはフロントラインワーカーの生産性向上も支援するとした。

なお日立によると、こうしたAIエージェントはこれまでディスクリート産業の設備への試験運用の実績はある一方、プロセス産業の設備向けに適用するのは今回が同社として初めての事例とのこと。今般開始される共同検証では、今回のAIエージェントが、さまざまな情報・数値を相互に関連付けて読み取り統合的に分析する三菱ケミカルの設備管理技術者の思考プロセス(ドメインナレッジ)を考慮しつつ、熟練者と同程度以上の速さ・正確さで解決策が提示できる可能性を検証するという。なお今回のAIエージェントが読み取る情報・数値については、以下の例が挙げられている。

  • 設備に関する各種資料(基準書、配管・機器図面。EFDなど)
  • 過去の分解点検・開放検査履歴や検討資料、技術報告書などの社内蓄積情報
  • 異常の兆候や運転状態の変化を把握するプロセスデータや運転履歴、設備状態データ
  • ネットワークカメラや定点撮影装置などから取得される画像・動画・音声などの設備や現場状態を示すデータ

日立のコネクティブインダストリーズセクターでは、三菱ケミカルが有する豊富な現場データに、両社のドメインナレッジと日立の先進AIを組み合わせた、Lumada 3.0を体現するデジタルサービス「HMAX Industry」の提供により、三菱ケミカルが取り組むプラントスマート化を推進し、フロントラインワーカーの現場を確信していくとのこと。加えて日立は、HMAX Industryを成長産業へと水平展開する「Integrated Industry Automation」を展開することで、製造現場の高度な自動化・自立化を推進し、労働力不足の解消や労働生産性・品質向上など、顧客や産業界の課題解決に貢献していくとする。

また今回の共同検証後には、今回のAIエージェントの三菱ケミカル国内外生産拠点への将来的な展開、および運転や安全管理などプラント運営に不可欠な業務の最適化・高度化に特化したAIエージェントの構築を検討していく見込みだという。さらに、複数のAIエージェント群を展開・連携させる独自技術の開発を進め、統合的な判断支援や業務の高度化を図り、三菱ケミカルが取り組むプランとスマート化構想の実現に貢献するとしている。