【鉄道の運営ノウハウの海外輸出へ】女王の名を冠する英国地下鉄の運営を受託 海外鉄道への〝ソフト輸出〟を狙う東京メトロ

上場に続き社内が沸き立った!

「トンネルを掘って線路を敷設するといったハードの海外輸出ではなく、安全性や定時性に優れた鉄道運営のノウハウといったソフトの海外輸出に向けた第一歩となる」─。こう意気込むのは東京地下鉄(東京メトロ)社長の小坂彰洋氏だ。2025年6月に社長に就任した小坂氏が掲げる成長戦略の1つが海外鉄道ビジネスの拡大になる。

 メトロと言えば、24年に東証プライム市場への株式上場を果たし、初日の時価総額では1兆円を突破したことでも話題に上がった。11月下旬の時価総額は9400億円前後で推移しているが、鉄道業界では「類を見ない高さ」(私鉄幹部)だ。背景には売上高営業利益率が21.3%と他の私鉄大手と比べても2倍近い収益力の高さが挙げられる。

 4078億円の売上高(25年3月期)のメトロと拮抗する小田急電鉄(同4227億円)の時価総額は約6500億円。売上高ではメトロより上の東武鉄道(同6314億円)は約5260億円、近鉄グループホールディングス(同1兆7417億円)は約5557億円に過ぎず、時価総額では売上高でメトロの3倍近い1兆1070億円(同)の阪急阪神ホールディングスの9964億円と肩を並べる。

 そんなメトロ社内が上場に続いて「沸き立った」(幹部)のが英国の地下鉄の運営受託だ。英国と言えば、世界で初めて地下鉄を開通させた〝地下鉄先進国〟でもある。メトロは海外鉄道の運営やメンテナンスを受託する「O&M(オペレーション&メンテナンス)事業」を「今後の成長を支える源泉」と位置付けており、25年5月から日本の都市鉄道事業者で初めて英国の都市交通の運営に携わっている。

 しかも、その地下鉄が首都・ロンドンの中心部を東西に走る大動脈で英国女王の名を冠する「エリザベス・ライン」。同線はヒースロー空港などがある西部からロンドン中心部を地下で貫いて東部をつなぐ。故・エリザベス女王在位70周年の22年に開通することを記念して、その名を冠した国を代表する路線だ。

 メトロは住友商事と英国の鉄道事業者・ゴーアヘッドと共同でロンドン交通局から運営事業を受注。3社が設立した事業会社が最長9.5年間(基本7年+オプション2.5年)にわたって運営を手掛けていく。

 事業会社の出資比率は65%が現地企業でメトロと住商は17.5%ずつ。小坂氏は「収益面で大きく貢献するわけではないが、運営面で実績を残せば、海外での知名度向上に大きく貢献する」と話す。というのも、今回の運営事業は「車両や乗務員が変わるわけではないが、安全、定時運行、顧客サービスなどに当社のノウハウが活用される」(同)。そのため、事故などのトラブルを起こさず、利用者の評判が高まれば、国内外の鉄道事業者の目に留まるからだ。

 もともとエリザベス・ラインは香港の鉄道事業者・MTRコーポレーションが運営権を持っていた。同社は香港の地下鉄を運営しているが、香港という限られた市場での限界を感じ、早くから海外展開を開始。中国や豪、スウェーデンなどでも地下鉄の運営事業を行っていた。

 それが契約満了を迎えて新たに競争入札を実施。「MTRも入札に参加していたようだ」と言われる中でメトロ陣営が受注したという経緯だ。ただ、メトロにとっては簡単なものではない。「感覚としては東西線のように、中心部は地下鉄路線だが、郊外路線は地上を走行する。ただし、総延長は約117キロ。(東京・中野駅から千葉・西船橋駅まで全長約30キロの)東西線の規模を遥かに上回る」(幹部)からだ。

 しかしながら、輸送人員における実績がある。エリザベス・ラインの23年の乗客数は2.1億人以上。30年には年間利用者が2.5億人を超えると見込まれているが、メトロの24年度の輸送人員はその10倍以上の23.8億人。「都市部の混雑緩和に寄与する地下鉄の運営で、これだけの規模の輸送人員をさばける企業は世界にもない」(同)

 以前からメトロは都市鉄道の建設が進むベトナムで運営会社の能力強化支援や人材育成に従事し、フィリピンで同国初の地下鉄などの施工管理業務やマスタープラン策定プロジェクトに参画するなど「徐々に経験を積んできた」と前出の幹部は語る。

 しかも、海外では鉄道施設の保有と運行・運営が分かれる「上下分離方式」が主流。エリザベス・ラインも線路や駅などのインフラはロンドン交通局が所有し、メトロはインフラを活用して列車を運行し、乗客にサービスを提供するという役割を担う。

非鉄道事業や海外事業の拡大へ

 世界の鉄道運行管理市場の規模は約10兆円とも言われる。東南アジアなどでは高速鉄道だけでなく、都市部の地下鉄の新線建設が計画されており、欧州では常に運行の受託契約が切り替わる。この市場を狙って国内勢ではJR東日本や海外勢でも欧州やアジアの競合がひしめく。

 メトロの売上高は約9割を国内の運輸業が占める。他の私鉄が3~4割であることから不動産などの非鉄道事業の拡大と同時に、国内のみならず、海外での事業拡大も同社にとっては大きな経営課題となっている。

 創業者の早川徳次氏はロンドン視察時に網の目のように発達する地下鉄網を目の当たりにし、帰国後に「東京地下鉄道」を設立した。その地下鉄も27年に100周年を迎える。所縁のあるロンドンでの事業がメトロの事業成長に寄与するかどうか。その橋頭堡になりそうだ。

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