MentaRest(メンタレスト) 代表取締役CEO・飯野航平【メンタルヘルス不調をいかに防止するか?】

インターネット上の空間で自分の分身(アバター)が心理カウンセラーの分身からのカウンセリングを受ける─。こんなサービスが注目を集めている。手掛けるのはGMOインターネットグループ出身のMentaRest代表取締役CEOの飯野航平氏だ。同氏自らがメンタル不調を経験し、それを原体験に法人向けサービス「MentaRest」を開発した。人手不足時代に人の活躍する環境をいかに整備するかが企業経営者に求められる中、飯野氏の生み出したサービスの効用とは? 

 誰でも気軽にカウンセリングを

 ─ 世界精神保健日本調査によれば、約10人に1人がうつ病+双極性障害などの〝気分障害〟にかかっていると言われています。その中で飯野さんはメタバース空間を活用してメンタルヘルス不調(強いストレスや悩み、不安を抱えて心の健康を崩している状態)を早期発見し、未然予防をサポートする事業を展開していますね。

 飯野 ええ。当社はメタバースと呼ばれるインターネット上に構築された3次元の仮想空間を活用したメンタル不調の未然予防サービス「MentaRest」の開発・運営を行っています。メタバースを活用する最大のメリットは、誰でも気軽に心理カウンセラーによるカウンセリングを受けられる点です。

 既存の心理カウンセラーによるカウンセリングを受ける場合、病院を訪れる段階では既に病状が悪化していることも少なくありません。その背景には通院によるカウンセリングとなると心理的ハードルが高くなるからです。

 しかし、自分の分身となるアバターがメタバース空間でカウンセリングを受けるとなれば、その敷居は大きく下がります。

 ゲーム性もありますし、気軽に利用しやすい。しかし、当社のサービスのベースにはリアルな人と人とのコミュニケーションがあります。ですから、当社のサービス利用者は同じようにアバターとしてメタバース空間に入った臨床心理士や公認心理師の資格を持つカウンセラーのカウンセリングを受けられます。

 ─ 人対人によるカウンセリングをネット上で行うと。

 飯野 はい。主な対象者はメンタルの不調を自覚している人ではありません。その手前の無自覚な人や健康に仕事をしている人です。例えば、部署異動でこれから頑張ろうと張り切っている人が異動3カ月後前後で自身でも自覚していないストレスや不安を抱えていることがあります。そういった人には自覚がありません。

 朝起きるのがつらかったり、頭がさえないといった兆候が出始めているくらいで、本人もまさかそれがメンタルヘルス要因だとは、なかなか気づけません。

 このような症状の人を放っておくと、メンタル不調になってしまう可能性が高いです。MentaRestはメンタル不調にならないための「予防」のサービスになります。先ほどの部署異動をした人には会社の福利厚生の一環として当社のサービスの利用案内がメールなどで届くような仕組みになっています。

 そこで自分好みのアバターをつくり、メタバース空間に入ります。当社のメタバース空間は島のような空間が広がっており、その中ではボートレースやバスケットボール、登山などの様々なアクティビティが楽しめるようになっています。

 中間管理職の利用者が増加

 ─ 病院やクリニックのような空間ではないのですね。

 飯野 そうです。メタバース空間に当社が専有しているオフィス空間があり、利用者はこの中のカウンセリングルームで指定したカウンセラーと会って相談が受けられるようになっています。

 ─ 利用者からの反応は?

 飯野 やはり「話しやすい」という反応が多いです。感性情報学などを専門とする東京都市大学デザイン・データ科学部の市野順子先生の先行研究ではアバターとのビデオ通話に関する比較研究が発表されました。

 そこではアバターを相手にした方の自己開示が積極的に行われ、ありのままに打ち明ける傾向が強いという研究結果が発表されています。

 ─ それだけ話しやすいということなのですね。利用者の年齢層は何歳くらいですか。

 飯野 20~30代の若手社員の利用も多いのですが、実は40代から50代の中間管理職と呼ばれる方々の利用が増加傾向にあります。この世代の方々は上司と部下との板挟みになっており、円滑なコミュニケーションを行うにはどうしたらいいかと日々悩んでいるのでしょう。

 今はハラスメントで皆さんが敏感になっています。それだけに自分の思いや会社の方針を、どのように伝えると、うまく周囲にも伝わって環境が変わるかといった課題感を持っているのです。実際にそういったご相談をいただくケースが増えています。

 また、最初はアバターで入口のハードルを下げることによって2回目以降は実際にカウンセラーと顔を合わせて相談したいといった要望もいただきます。

 ただ、将来はAIがこの入口の受け手を担い、問診形式で通常のカウンセラーが行うような最低限必要な業務をAIが行うといったこともあり得るでしょう。そうすれば、より利用者とカウンセラーが短い時間の中で本質的な話をする時間を増やすことができるからです。

 ─ 事前にメンタル不調を防ぐことができた事例とは。

 飯野 大人の発達障害に対応した事例などがあります。その方は専門の医療機関の受診を希望したのですが、当社のメタバース空間上でカウンセリングを行い、その後、導入いただいた企業の担当者さんに許諾を得た上で、ご本人と一緒に専門の医療機関を探し、今は職場でうまく馴染んでいくためのトレーニングに共に取り組んでいます。

 そもそも企業はメンタル不調の予防にあまり関心を示していませんでした。しかし、昨今では、人間関係からくるストレスやコミュニケーションに関するすれ違いで、なかなか周りと馴染むことができないという体感を持たれている方が増加傾向にあります。

 そういった人たちに対し、当社の専門家が対応し、未然に予防するお手伝いをしています。

 その点、当社には40人近い心理士が在籍しています。当社がカウンセラーを育成する機関と独自のアライアンスを結んでいるからです。ですから心理士の提供は業界でも高いシェアを占めていると思います。我々は心理に関わる専門家を活用したサービスに特化しているからです。

 ─ 企業の受け入れ態勢に変化は感じますか。

 飯野 かなり二極化していると感じます。労働人口が減少している中で、優秀な人材の採用で苦労している企業が多く、その後の人材の定着支援にも苦労しています。

 そこに危機感を感じている企業は積極的です。一方で人が辞めたら新たに採用すればいいといった考えをお持ちの企業様もいらっしゃいます。ただ、人材の定着は共通課題だと言えるでしょう。

 当社は公認会計士・税理士・経理・財務の転職支援・採用支援に特化した転職エージェントのレックスアドバイザーズさんと資本業務提携しているのですが、同社の豊富な顧客基盤を活用することで、当社のサービスがより多くの企業に提供することが可能になりました。

 やはり人材を会社の財産として考えられるような本田技研工業様やアコム様など、大手企業を中心に、感度の高い企業様は積極的に当社のサービスを導入していただいています。

 自らがメンタル不調になって

 ─ そもそも飯野さんがメンタルヘルスの領域で起業しようと思った経緯とは?

 飯野 私は全国初の学部として設立された高知大学の地域協働学部の1期生でした。協働を通じて地域社会の再生・発展に挑戦する学部で起業家育成のようなプログラムもありました。私もそのプログラムを受け、大学在籍中に起業する人たちが身近にいたので、いずれは起業したいとは思っていました。

 ただ、なぜ起業するかが見つけられていませんでした。さらに、いつか起業するなら組織の仕組みを理解していなければならない。そう考えて、新卒で人事の仕事ができる企業を探して就職活動を始めたのです。

 ─ 大学卒業後はGMOインターネットグループに入社することになりましたね。

 飯野 はい。2019年に入社し、21年まで在籍させていただきました。配属先はグーグルやヤフーのポータルサイトに掲載する広告の代理業の営業部門でした。

 私は人事の仕事がしたかったのですが、それを叶えるためにも、まずは現場で仕事をして現場を知った方がいいということで営業を担当しました。

 新規営業の担当でしたのでバリバリ働きましたね。誰よりも早く出社するといったマイルールを設けて、営業成績もトップを取ることができました。朝早く出社すると、経営幹部や部長などもいて様々なことを教えてもらえました。テレアポで1日中電話していた日もありました。

 ─ 順調に成績も上げていたということですね。

 飯野 ええ。ところがある日、突然体調を崩してしまったのです。その日は非常に天気のいい朝でした。会社に行く準備をしようとカーテンを開き、日差しが入ってきて眩しいと思ったのですが、そこからなかなか目が慣れて元に戻らなかったのです。

 通常なら時間が経つにつれて目が慣れてくると思うのですが、ずっと眩しい状態が続いてしまい、まっすぐ歩けずに頭痛やめまいといった身体症状が出てきてしまったのです。

 あまりにひどいので内科を受診すると、身体的な異常はないと診断されました。それでも吐き気やめまい、頭痛が一向に収まらない。次に紹介されたのが心療内科でした。

 ─ 様々なストレスが要因で、身体に症状が現れる疾患を扱う診療科ですね。

 飯野 そうです。結局、診察結果は環境への過剰適用による適応障害。「まさか自分が」という思いでした。会社も休職することになり、1カ月ほどお休みをいただきました。

 ある程度回復したところで、希望だった人事総務部に異動しました。そのときは症状も緩和しており、自分の経験を踏まえて社員のサポートや様々な仕事のお手伝いをさせてもらいました。

 ─ 人事総務部で得た経験とはどのようなものですか。

 飯野 人事総務部は労務と総務など、かなり幅広い業務に対応する部署でした。それでもGMOはITの会社ですので、職場には常にIT端末の貸し借りや購入などが頻繁に行われていました。そこで私はデジタル機器に関するコストを少しでも下げたいと考え、管理コストの削減案を提案したりしました。

 そしてもう1つは起業にもつながるのですが、自分と同じような症状などに苦しむ社員がいた場合の社内の相談窓口も設置させていただきました。

 メンタルだけでなく、仕事での悩みや家庭での相談など何でも受けられる窓口でした。それをチャット相談のような形で、どこからでも問い合わせができるように設計しました。

 経産省の補助金事業に採択

 ─ 当時からメンタルヘルスに絡むニーズはあったと。

 飯野 そうですね。さらに私が創業したときの年齢は25歳です。経験も知識も諸先輩方と比べると全然足りない状態でのスタートとなりましたので、その中でも、やはり自分の言葉で語れるものをサービスにしたいと感じました。

 そのときに考えたのは、メンタル不調といったマイナスな経験はあまり口外しない方がいいという風潮もあった中で、むしろ自分がその体験をベースにした事業を展開しようという想いで起業しました。

 お陰様で、今では経済産業省の「先端技術活用メンタルヘルスサービス開発支援事業費補助金」に採択をいただくことができました。

 さらに、これはまだ実証実験の段階なのですが、これまではカウンセリング利用後にアンケートを取得し、定性的なデータは取得できていたのですが、国内初の取り組みとしてウェアラブルデバイスを活用し、生体情報を取得することで、より定量的に効果を示すことができるような実証を進めています。

 例えば、アンケート回答の中に「睡眠の質が改善された」といった声が増えていました。そこでウェアラブルデバイスを使って、心拍や睡眠の質、ストレス値を計測し、メンタルヘルスとの因果関係を調査しています。

 ─ サービスの広がりが期待できますね。最後に今後の目標を聞かせてください。

 飯野 まずは導入企業を増やし、もっと使いやすいサービスに磨き上げていきたいと思っています。人手不足の中、製造業だけでなくサービス業にも広げていき、将来は個人でも使ってもらいたいと思っています。

 「誰もが安心して働き、生活し、生き続けられる環境を整える」というビジョンの実現に向けて日々粛々と努力していきます。

アルジェニクスジャパン社長・後藤太郎『メガファーマとは 一線を画す経営で 免疫学領域における リーディングカンパニーに!』